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[ビデオ特集] 安全第一:F1の安全を保つための努力
2008年9月1日(月)

F1の魅力と言えば、やはり先進技術とスピード、そしてレースがもたらす興奮かもしれません。しかし、過去20年程の間、F1で最も驚くべき進歩を果たしたのは安全面の進化です。

モータースポーツにはアクシデントがつきものですし、これは避けようがないものです。ですが、この15年間、各チームとFIAの努力により、ドライバーの保護とアクシデントが発生した際の観客の安全性は劇的に改善されてきたのです。

例えば1990年代初頭のクルマとTF108を比較した場合、二つのことが特に目につくはずです。一つは、この間の驚異的な空力の進化、そしてもう一つは、かつてのクルマの方が遥かにドライバー危険に晒されているように見える、という点です。

安全はパナソニック・トヨタ・レーシングにとって最優先事項ですし、ヤルノ・トゥルーリとティモ・グロックも自分たちの安全が妥協を許していいものではないことを自覚しています。

例えば、ホッケンハイムでのアクシデントの一日後にティモは自宅に戻りましたが、後遺症は何もありませんでした。彼はわずか2週間後のハンガリーGPで2位フィニッシュを果たし、体調に何も問題がないことを改めて示してくれました。ですから、彼が次のようにコメントしたのも別に不思議ではなかったのです。「クルマ(TF108)に乗っている時は“安全だ”と感じている。何らかの事態が起こった時に問題が生じるなどという心配もしていない。“安全だし何も問題ない”、という気持ちで毎回クルマに飛び乗っている」

彼の“安全だ”という感覚は偶然の産物ではありません。これは、クルマとドライバーへの衝撃に関する入念な研究の結果なのです。また、そうした研究を通じ、更なるドライバー保護のための新しい装置も導入されています。

その一例がHANS(ヘッド・アンド・ネック・セーフティ)です。これはドライバーの肩に乗っている器具で、ヘルメットに連結されています。これにより衝撃を受けた際の頭部の動きを制限し、負傷するリスクを低減しているのです。

F1では2003年からHANSの装着が義務づけられています。これについてパナソニック・トヨタ・レーシングのチームドクター、リカルド・チェカレッリは次のように述べています。「HANSは、正面から衝突した際に頸部への重大な傷害を防ぐために開発された器具だ。これが首と頸椎に重大な損傷を被るリスクを低減している。HANSはいい仕事をしている、と言っていいだろうね」

「コックピットの衝撃吸収パッドは非常に特殊な発泡剤からできている」と話すシャシー部門シニア・ゼネラル・マネージャーのパスカル・バセロン。「この発泡剤は温度によって特性が変わる。そのため、テストセッションもしくはレースの1時間前の気温を基準にして、どの発泡剤を使用すべきか、FIAから我々に通達があるんだ」

最近の安全面の進化において、エネルギーをいかに吸収するかが全体的な課題の一つになっています。もしエネルギーを上手く吸収もしくは拡散することができれば、アクシデント時の衝撃がドライバーに達することもなくなり、従って怪我の要因を取り除ける、というわけです。

大きな衝撃を受けた際にF1ドライバーを保護することがどれ程難しいことなのか、この挑戦を軽く扱うことなど決してできませんし、これまでのデータが正にそれを物語っています。ドクター・チェカレッリはこう説明しています。「過去の幾つかのアクシデントでは、減速時の最大負荷が50Gを超えていたこともある。これは信じたい数値だ。非常に特殊な状況においては、これが60Gあるいは70Gに達したこともある。もちろんこれはわずか1000分の数秒のことだ。そうでなければ生存は不可能だろう」

「減速度に関して言えば、通常の人間の肉体が耐えられるレベルを超えた負荷が生じていたことを示すデータを見たこともある。それだけに、クルマの衝撃吸収構造とHANS及びヘッドレストは本当に驚異的な仕事をしていると私は思っている」

衝撃時に生ずるエネルギーの大半はクルマの衝撃吸収構造により拡散されます。衝撃吸収構造に含まれ外部パーツは、ノーズとサイドポッドなどで、これらは大きな衝撃の際にモノコックに影響を与えることなく壊れるように設計されています。つまりノーズとサイドポッドが壊れることによってエネルギーを取り去る、というわけです。

クルマから外部パーツを取り外した時に残るのがモノコックです。破片などの物体がドライバーを直撃するのを防ぐ防護壁となるのがこのモノコックです。「クルマの中で最も強靭な構造なのがこれだ」と話すパスカル。

モノコックの構造には、クルマが回転した際にドライバーの頭部を保護するための仕組みも備わっています。それがロールフープ(ロールバー)です。クルマが上下逆さまの状態になった際、ドライバーのヘルメットが地面に触れないよう、これには十分な高さが確保されています。

近年は安全対策が高いレベルにあるとは言え、こうした安全構造の進化が止まっているわけではありません。トヨタ自動車はFIAインスティチュートと共に、更なる改善のための研究を行っています。

トータル・ヒューマン・モデル・フォー・セーフティ(THUMS)は、人体に対する衝撃の影響をコンピューターでシミュレーションし、どの部分が問題になるのかを予測してくれます。FIAインスティチュートは、レーシングカーの衝撃吸収構造のデザインを更に改善すべく、THUMSを使って車体後部への衝撃の影響をシミュレーションしているのです。

FIAインスティチュートの安全対策に協力しているトヨタは、TF105を寄贈し、アクシデントの際のドライバー救出技術の改善にも貢献しています。このTF105には特別な金具が取り付けられており、上下逆さまにすることができます。これによってコースマーシャルがドライバーを救出する練習ができるのです。

パナソニック・トヨタ・レーシングにとっては、現在もこれからも、ドライバー保護が最優先事項なのです。従って新車の設計では常に、F1のレギュレーションが求める以上のレベルで、安全面に細心の注意が払われています。

パスカルがこう説明しています。「当然、安全であることが我々の一番の基準だ。パーツの設計やオペレーションの手順にも安全を考慮した手続きを追加している。すなわち、FIAから課されている安全基準はもちろん、それに更なる我々独自の基準を追加しているということだ。我々のクルマがFIAのテストに合格し、かつチームがクルマの主な安全構造の信頼性を保証しているということは、ドライバーに対して我々は最大限の安全を保証しているということなんだ」

また、既に数十年前から使用されている安全装置であっても、常に改良と改善が繰り返されているのです。

カーボンファイバーやポリエチレンなどを素材とする現在のヘルメットは、重さがわずか1.25キログラムしかありませんが、かつてよりも優れた保護能力を備えています。アルパインスター社は耐火服と耐火下着、耐火グローブを提供していますが、これは11秒間、炎に耐えることができます。またタカタ社の6点式シートベルトは1.5トンの負荷に耐えることができます。

このように、F1では安全面の向上に関してあらゆる対策が講じられているのです。F1は、あらゆる対価を払ってでも勝利を目指す競争のように見えるかもしれません。ですが、パナソニック・トヨタ・レーシングが本当に最優先しているのは“安全”なのです。

動画

安全第一:F1の安全を保つための努力
(日本語字幕)
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