特集 > [ビデオ特集] 夜の戦い:シンガポールでのナイトレース
Features [ビデオ特集] 夜の戦い:シンガポールでのナイトレース
Features
[ビデオ特集] 夜の戦い:シンガポールでのナイトレース
2008年9月19日(金)

今週末、初開催のシンガポールGPにて、パナソニック・トヨタ・レーシングは未知の世界に一歩足を踏み入れることになります。都市国家であるシンガポールがF1グランプリ世界選手権を開催するのは初めてですが、今回はそれだけにとどまらず、F1史上初めて夜にレースが行われるのです。

シンガポールの島はマレー半島の南端に位置しており、広さは700平方キロメートルをやや上回る程度。グランプリ開催国としてはモナコとバーレーンに次いで3番目に小さい国ですが、ただし人口は400万人を超えるなど、活気溢れる都市国家なのです。

全長5.067キロメートルで23のコーナーを持つこの新しいサーキットは、シンガポールシティのマリーナ・ベイエリアに位置しており、巨大な観覧車のシンガポール・フライヤーやエスプラネード(遊歩道)、ラッフルズ大通りなど、この都市を象徴する目印が点在しています。コースには、レイアウトが壮観だというだけではなく、いくつか珍しい特徴もあります。各ドライバーはアンダーソン橋を越え、グランドスタンドの下を走り、そして時速300キロでターン6を駆け抜けることになります。これはF1のストリートサーキットでは最速のコーナーになります。

華やかさと新しさと難しさが入り交じったコースは、明らかに例のストリートサーキットとの比較の対象になるでしょう。「このストリートサーキットの特徴を考えると、間違いなく東洋のモナコと言えるだろうね」と話すパナソニック・トヨタ・レーシング・シャシー部門シニア・ゼネラル・マネージャーのパスカル・バセロン。「ただし東洋のニュルブルクリンクとも言える。なぜなら23ものコーナーがあるんだからね。まるでニュルブルクリンクの旧コースのようじゃないか!」

ヤルノ・トゥルーリもこれに同意しています。ただし、ドライバーである彼の優先事項はTF108から最大限のパフォーマンスを引き出すべく、コースレイアウトをより良く理解することです。「コース図は既に見ている。あそこでのグランプリは今の所は凄いことになりそうだね。ただし適確なイメージを掴むには、まずは実際にコースを走る必要がある」と話すヤルノ。

「走行時のダウンフォースレベルを把握し、セットアップを突き詰めていくため、各コーナーとそこでのスピードを理解する必要がある。我々にはまだコースやそのコンディションが分かっていないから、新しい挑戦になるだろう。だから面白くなるだろうね」

F1界が今回のレースへ期待を高めているのは、素晴らしいロケーションはもちろんのこと、夜にレースを行うという目新しさもあるからです。

パナソニック・トヨタ・レーシングのスタッフの多くは、ルマン24時間に挑んだことがあるため、夜のレースの経験があります。一方、それ以外の面々も、例えばティモ・グロックなどはキャリアの過程のどこかで夜の走行を経験しています。

ルマンとは異なり、TF108にはヘッドライトがありません。その代わりに、1500基のライトがコース全体の周囲に設置され、ドライバーに対しほぼ日中と同じようなコンディションを提供することになっています。ティモは2005年シーズンのチャンプカーでこうした照明の下で走った経験があります。この時の彼はラス・べガス・モーター・スピードウェイでの400キロレースにて8位フィニッシュしています。そのため彼は、待ち構えている挑戦に対し、ライバルたちよりも準備がより良く整っていると言えるでしょう。

「大きな問題になるのは、いつもとは違う時間帯にドライブするという点だ」と説明するティモ。「通常、夕方には休んでいるものだが、シンガポールではレースが午後8時から始まる。コースは可能な限り多くの照明で明るく照らされることになるが、夜のレースだけに、全部のコーナーが昼間と同じようになるとは思っていない。これはかなりキツいだろうね」

「夜にドライブするのは楽しい経験になるし、ファンにとっては間違いなくいいショーになるだろう。それが一番重要なことだ」

ドライバーたちにとっては、通常と異なるタイムテーブルに適応することが鍵になりますが、ただし、他のチームスタッフにとってはそれも夜のレースの様々な難題の一部でしかありません。エンジニアの調査チームとロジスティクスの専門スタッフは、去る6月にシンガポールを訪れた際に照明のテストを観察しています。その際、チームのオペレーションに対する人工ライトの影響を調査しています。

「我々は通常とは異なる様々な要素に目を向けてきた」と話すレース&テスト・チーフ・エンジニアのディーター・ガス。「例えばピットボードは夜間でも視認できるよう確認している。また、ガレージ内とピットウォールの全てもちゃんと目に見えるよう確認済みだ。ステアリングホイール上のディスプレーも変更が必要なる可能性もある。通常は日中の光でも良く見えるよう、かなり明るくしているからね」

パナソニック・トヨタ・レーシングは、今回のサーキットに関してロジスティクスの面で唯一最大の課題となる独特のタイムテーブルがチームスタッフにもたらす影響を最小限に留めるべく、多大なエネルギーを費やしてきました。「それが最大の懸念事項だった」と打ち明けるチーム・マネージャーのリチャード・クレーガン。「それ以外のロジスティクス面に関しては、他のフライアウェイレースの場合とほとんど同じだ」

「タイムテーブルの決定に際し、我々はFIA及びFOMと密接に連携して取り組んだ。また、毎日の適切な時間割に関してはチーム内で検討した。午前8時に仕事を始めて、午前3時にサーキットを去るような仕事の仕方は無理だからね。それは公正とは言えない。そのため我々は仕事のスケジュール全体を後ろの方にずらす、という対策を取ることにした」

シンガポールで難題になるのは日中の太陽の光がないことや、タイムテーブルが通常と異なっていることだけではありません。シンガポールの9月の夕暮れ時には、湿度が高まり突然豪雨になることがしばしばあります。またレースやフリー走行のセッション中に気温やコースの路面温度が急に下がってしまうという特異な状況にチームが直面することも考えられます。

「我々にとって最大の挑戦になるのは温度だろう」と話すTMG社長のジョン・ハウエット。「コースの路面温度はかなり低くなるだろうが、通常のF1用タイヤは高温で最大の性能を発揮する。また、当然ながら1年のこの時期は雨の可能性も高い。つまり、温度に関して難しい局面に直面することになり、更にそれが激しい雨によって悪化する可能性もある。夜のレースはそれ自体が挑戦になるが、ただし、我々はルマン24時間を体験しているチームだけに、これに関してはかなり簡単に対応できるはずだ」

初開催のシンガポールGPはF1カレンダーのどのレースよりも大きな困難をもたらしそうですが、ただし、パナソニック・トヨタ・レーシングは準備期間中にあらゆる対策を講じ、そしてヤルノとティモに再び表彰台を目指した戦いができる土台を用意しています。そしてこれが、来月の富士スピードウェイにおける日本GPへ向けた準備を完璧なものにしてくれるのです。

動画

夜の戦い:シンガポールでのナイトレース
(日本語字幕)
36,180KB