いつも応援ありがとうございます。TMGで車体の開発・設計を担当しているシニア・エグゼクティブ・コーディネーターの永島です。今回は新居に代わってサーキットの現場からレポートします。よろしくお願いします。
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トルコGPには各部の空力がアップデートされたTF106Bが投入された。目で見てわかる違いは、フロントウイングのセンター部のつり下げられた部分の湾曲がシャープになっていること。これは北米ラウンドで見られた形だが、細部の形状も変化している。 |
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●終盤に向けてさらなるジャンプを狙う
まず、今回の変更点ですが、フロントウィングが変わりました。見た目はそれほど大きく変わっていませんが、かなり効果はあります。これはもともと2カ月ほど前に投入する予定で準備を進めていたものですが、テストをした結果が「もうちょっと」という状態だったので手直しをして、今回の投入になりました。
新しいフロントウィングの投入で、空力はこれだったら満足できる、というレベルにかなり近づいたと思っています。ただ、ドライバーはいくら良くなっても「良くなった」とはなかなか言ってくれないんですよね。でも、今までに比べると、「ここがまだ」という指摘は少なくなったので、効果が出ている証拠かなと思っています。
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これは前戦、ハンガリーGPのときの車両。トルコ仕様と比べると、フロントウイングのセンターの湾曲が緩やかで、左右のウイングが楕円状につながっている。対して、トルコ仕様では三角形の2辺のように鋭角的に左右の羽の部分がつながっている。 |
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そのほか目立たないところでも、空力はいろいろ手を加えています。ブレーキへの負荷はミディアムくらいで考えたブレーキダクトを採用していますが、ちょっと形状を変えています。いろいろな部分の変更を合わせて考えると、かなりまとまった量の向上分が出ています。これで夏休みの宿題が終わったかな、という感じです。
●順調にこなした金曜日。方向性の最終判断は土曜日に持ち越し
金曜日はだいたい予想どおりの展開でした。2種類持ち込んだタイヤのうち、柔らかい方がグレイニング(ささくれ状の摩耗)が出て、固い方はグレイニングは出なくて安定して走れるけど、タイムは今一歩。土曜日、日曜日とどんどん路面が良くなりますので、金曜日の段階でどちらのタイヤが良い・悪いと判断するのは難しいですね。
ゴムの固い柔らかいだけではなく、タイヤの温まり性能なども慎重に見ながら、土~日曜日にどのタイヤがいいのか見極め、アグレッシブなアプローチで選びたいと思っていました。ダウンフォースのレベルについても、いろいろ試しましたが、最終判断は保留にしました。金曜日の感触では、あまりダウンフォースを付けなくてもいいかなという感じでした。
●予選では残念な後方グリッド、しかしレースでの巻き返しに自信あり
雲が少しあったせいで路面温度が低く、金曜日の走り出しより土曜日の走り出しの方がグレイニングが出やすかったようです。空力もメカニカルも調整したのですが、あまり感度がありませんでした。タイヤについては、路面グリップの向上具合を予想しつつフリー走行3回目に臨みましたが、ここでやっと方向性が見えたので、それを判断材料に選びました。
結果としてタイヤ選択は分かれました。ヤルノ(トゥルーリ)の方が決勝の距離を見込んだセットになっています。ただ、アンダーステア傾向を消しきることができなかったのが心残り。彼自身は与えられたセッティングの中で最大限頑張ってくれたと思うのですが、とくにセクター2はアンダーステアの影響がタイムに直結します。そこが合わせきれず、Q3(予選第3ピリオド)に残ることができませんでした。
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エンジン交換を金曜日の走行後に行ったため、10グリッド降格しての15番手からのスタートだったラルフ。しかし、車両には好感触を得ていて、予選での走りも好調だった。決勝でのポイント圏内への追い上げは十分可能だと予選後に語っていた。 |
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一方ラルフ(シューマッハー)ですが、金曜日のセッション後にエンジンにちょっと心配なところが見つかりました。絶対にだめということではなかったのですが、予選とレースに安心して臨みたいということで、10グリッド降格してもレース中のリタイアの可能性を避けようと、エンジンを交換する決断をしました。これは議論の結果での決定です。
2人とも後方グリッドからのスタートなので、どうやってトラフィックをうまくくぐり抜け、前に行くかを考えて決勝に臨みます。クルマのパフォーマンスもタイヤのパフォーマンスもまったく問題ありません。性能と信頼性が思ったとおりであれば、ハッピーです。ターン12で想定通りの元気のいいパッシングをしてくれれば、気分が晴れるというものです。
●望みうるベストではないものの、今後につながる収穫をレースで得る
スタート直後の1コーナーでアクシデントがありましたが、モニターにリプレイがなかなか出ませんでした。ちょっと嫌な予感がしていたんです。無線を通じてラルフが「ヤルノと、、、、」と言っていたので。後で判明したところではチームメイト同士の接触でした。混乱したあの状況では、やむをえないレーシングアクシデントだったと思います。
それほどひどいぶつかり方ではなかったのですが、ラルフのフロントウィングの翼端板にダメージがありました。そこでピットに入れ、ウイングとタイヤを交換。ガソリンを給油して作戦を変更しました。
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スタート直後にまさかのアクシデントが発生。ヤルノはそのまま走り続け、ラルフはダメージを直すためにピットイン。このときに給油も行ない、ピットタイミングをずらし、最終的には7位まで浮上した。一方のヤルノはセーフティーカーが入ったことで、タイヤが冷え気味になり、再びスピードを取り戻すまでに周回数を要してしまった。 |
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1回ストップ作戦を選択したチームもありましたが、我々にそのつもりはありませんでした。このサーキットはパッシングポイントがあるので、ピットストップを利用して順位を稼ぐのではなく、堂々とコース上で追い越しをして順位を上げようと。トップスピードも出ていましたので、そういう作戦で攻めることにしました。その方が格好いいし(笑)。
一方、ヤルノの方は接触の問題もなく、すぐにいいペースで走ることができました。狙いどおりコース上で追い抜きをし、順調に順位を上げました。ただ、序盤にセーフティカーが入ったのが痛かったですね。あれでいったんタイヤの温度が下がってしまい、セーフティカーがコースを離れたあとで温まりが戻るのに時間がかかってしまいました。
レース中盤以降は、予想していたほど路面温度が高くなかったこともあり、結果的には、柔らかい方のタイヤを履いたラルフの方が正解でした。予想どおりの温度であれば、コンディションはヤルノに合っていたと思います。
アクシデントなどがあって結果には結びつきませんでしたが、空力や信頼性確保の仕切り直しの効果は出たと思います。それを確認できたという意味では今回のレースは大きな収穫がありました。日本グランプリに向けて、イタリア、中国と一層のジャンプアップを狙っていますので、今後とも応援よろしくお願いします。
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