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Rd.1 Grand Prix of Australia report
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オーストラリアGP Q+A:ルカ・マルモリーニ
エンジン部門テクニカルディレクターのルカ・マルモリーニが、目前に迫ったオーストラリアGPについて、そしてパナソニック・トヨタ・レーシングのエンジン部門が2005年の開幕戦となるメルボルンに向けて、どのように新技術レギュレーションに取り組んできたのかを語る。~TMG広報スタッフ
2005年2月28日(月)

ルカ、2レース1エンジンというレギュレーションに対して、トヨタのエンジン部門はどのように対処してきたのでしょうか?
「RVX-05エンジンの開発は2003年の年末から続けているが、集中的な開発は2004年9月に新しいユニットを使った最初のテストからだ。そのときのエンジンはハイブリッド・バージョンとでも言うべきもので、TF104B用の取り付け部分を使っていた。現段階でエンジンは最終仕様になっているものの、RVX-05のファインチューン(細かい調整)ができたのは今年の1月になってからだった――つまり、TF105用の新しい取り付け部分にマウントできるようになってからだ。設計のコンセプトは、2004年に1レース1エンジン対策として開発したRVX-04の延長線上にある。そのルールに対応できるようエンジン・ライフを伸ばすため、われわれはRVX-04のあらゆる部品の信頼性をケルンのファクトリーで厳しくチェックした」

RVX-05を開発するにあたって、どういったシミュレーション技術が用いられたのですか?
「RVX-05の開発には、ファクトリーにある研究開発機器はすべて使ったしトランジェント・ダイナモ(*Transient dynos:トルクが増加していく状態を計測できる)も利用した。エンジンの各部品の耐久性を高める開発は、最初の段階から徐々に実際のレース・ウィークエンドのシミュレーションへと近づけていった。テスト走行では逆に潜在的な問題をいち早く顕在化させるため、もっと積極的なアプローチをとったけどね。ただし実際のレースで起こる予測不可能な要素に関しては実験のやりようがなかった。エンジンを2レース分のシミュレーションにかけるのは更に難しい問題だった。というのは、レースの不確定要素がさらに増大するわけだからね。2レース分、別々のサーキットでロングランテストすることもできないわけだから。その代わりにダイナモを使って、エンジンに大きな負荷のかかるサーキット――たとえば昔のホッケンハイムやスパなどでの走行をシミュレーションした。このほうがデータも実際の状況に近づくし参考にもなる。われわれが部品検査を行うプロセスやアプローチは以前と同じだが、実際のコースで走らせることを考慮して、各部品の細部はさらに高精度に仕上げている」

ファクトリー内で実施するダイナモテストと実際にテストやレースでコースを走らせることの違いはどこにあるのですか?
「実際にコースで走らせてみなくともダイナモを使えば完璧にテストして仕様を確認できる部品もたくさんある。たとえば、エンジン内部のピストン周りの部品とかはね。だがエギゾーストのような部品はコース上でさまざまなストレスにさらされる。そのため、テストではより多くの手順を踏まなければならない。ギアシフト・ツールもダイナモに組み込んでしまえば素晴らしく役に立つが、実際にドライバーがレース時にシフトするときには、もっと軽いタッチでギアチェンジする。だからそういった要素も考慮しておかなければならない」

開発の過程ではどんな問題が生じたのでしょうか?
「予想通り、TF105の最初の走行ではいくつか問題が見つかった。それはクルマの問題ではなく、新しいエンジンを走らせたときにはどうしてもつきまとう典型的な問題だった――たとえば振動のレベルが予想以上だったりしてね。こうした問題は比較的すぐに対処できる。われわれが集中して取り組んだのは、レース・コンディションでクルマをストップさせてしまうような根本的な信頼性の問題だ。そのためにはとにかくエンジンの走行距離をかせぐことが必須だった。だが1月以降、相当な距離を走破できたことは、私の励みになっているよ」

ほかに何か大きなトラブルがあったら教えてもらいたいのですが?
「TF105ではいろいろな形状のエギゾーストを使っている。そのため、最初の段階ではエギゾーストの調整に手間取ってしまった。その他の部品に関しても信頼性の問題があった――製造した部品の品質面でね。こうした難問に対して迅速に効率よく対処できたこと、その結果としてメルボルンへ大きな自信を持って臨めることを私は嬉しく思っている」

オーストラリアGPへの展望ですが、アルバートパーク・サーキットはエンジンに対してどのような影響を及ぼすでしょうか?
「オーストラリアGPは、高い気温の中でマシンを走らせる初めての機会になる。開幕戦の準備のためにスペインでテストを行ったが、気温はメルボルンほど高くはなかった。マレーシアの熱波と比較したら本当に取るに足らないほどだった。正直に言えば、シーズンの開幕戦は毎年運に左右される。だが、われわれはチームとして一番いい状態に持っていくため、出来る限りのことをしてきたと思う。エンジンのほかにも、現地の気候がタイヤの摩耗にどの程度影響があるのかもわからないしね。2005年のルールでは1レース1セットのタイヤに制限されるが、これが各チームのレース・パフォーマンスを大きく左右するだろう。オーストラリアに向けて、エンジン部門としてはあらゆる対策を施してきたが、その努力の成果はメルボルンに行ってみないことにはわからないね」

アルバートパーク・サーキットはエンジンにどのくらい厳しいのでしょう?
「実際の所、アルバートパーク・サーキットはそれほど厳しいサーキットではないね。ただしシーズンの最初のレースだという事実が、対応を難しくしているわけだ。われわれがどちらの方向へ向かっているのか、適切な対処ができているのかどうか、もっと改善すべき部分はどこなのか、それはオーストラリアGPが終わってみなければわからない。エンジンにかかる負荷の面から見ると、アルバートパーク・サーキットは中程度のコースになる。全開区間はコース全体の約60 パーセントだ。だがレースを面白くしてくれるのは、各チームそれぞれの不確定要素だからね」

シーズンを通してのエンジン開発計画を教えてください。
「新しいレギュレーションのため、エンジン・ブローなどのトラブルがない限り、オーストラリアとマレーシアでエンジンの変更はできない。だから当然その間のデータを開発計画に利用することはできないわけだ。通常なら、開幕から3戦続く海外でのレースでは、全てのパーツがうまく機能しているかどうかの確認をするため、あらゆる情報を収集する。そして信頼性の面で自信が得られた時点で初めてパフォーマンスの向上を検討しはじめる。われわれはヨーロッパラウンドの開始に間に合うよう新しいスペックのエンジンを予定している――ただしレギュレーションの縛りがあるため、実際には第5戦のバルセロナからになるだろう」

エンジンに関して、シーズンのどのあたりからトヨタは信頼性からパフォーマンスに開発の軸をシフトするのでしょうか?
「われわれがパフォーマンスのために信頼性を犠牲にすることはあり得ない。シーズン中の開発についても、その両方の要因を考慮しなければならない。技術的な制限がある中でさらに馬力を向上させるのは一層難しい作業になる――これがわれわれにとって一番の挑戦になるだろう。すでにシーズン中の開発計画に関しては何段階かの案を作っている。ただし、第4戦までの状況をよく検討する必要がある。その意味では私は自信を持っているが、いずれにせよ信頼性は今もこれからも最も重要な要素になる。レースでゴールできなければポイントは獲得できないからね」

オーストラリアに向けて、どんなことを期待していますか?
「エンジン部門のテクニカルディレクターである私個人としては、マレーシアGPの終わりまでずっと同じ期待を持ち続けることになるね。つまり、マレーシアGPでは2台揃ってオーストラリアGPを走りきったエンジンそのままでフィニッシュしてもらいたいと思っている――そしてその御褒美として何ポイントか獲得できたらってね」