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Rd.19 Grand Prix of China Keizo Takahashi report
grand prix
高橋敬三リポート:中国GP
2005年10月17日(月)
●2005年シーズンをラルフの表彰台で締めくくる
みなさん、こんにちは高橋敬三です。応援ありがとうございました。中国GPの報告です。19戦もあった今年のグランプリもこれで最後のレポートとなります。

開幕戦のオーストラリアGP(決勝3月6日)からのここまでのレースは、長い1年でありましたが、終わってみればとても早く過ぎてしまったような気もします。今年は表彰台の獲得も果たし、今年度の当初の目標を達成することができました。
充実した1年であったと、チーム全員が思えるように、2005シーズンの最後を飾るため、最終戦の中国GPは何としても良い成績を残したいとの決意で上海に乗り込んできました。非常に悩ましい週末となりましたが、ラルフの3位入賞、表彰台という嬉しい結果をこの場でファンの皆さまに報告できるという形で、このリポートを締めくくることができました。では、レースウィーク3日間の報告です。

●鈴鹿でのデータ取りが上海で活きる

中国GPはクルマに特にバージョンアップはなし。トゥルーリは新しいエンジンへの交換も行わなかった。  

前回の鈴鹿ではポールポジションを獲ったものの、レースは思いどおりにはいかず厳しい結果に終わりました。しかし、我々としては攻めた戦略の結果だけに、悔しさは残るもののある意味充実したレースでもありました。新型車のTF105Bも見事完走し、貴重なデータを取ることができたことが、我々にとって非常に有意義なことだったと思っています。

今回の上海には、鈴鹿からそのままクルマを持ち込んだため、バージョンアップはされていません。エンジンも2人とも鈴鹿のままです。ヤルノは前回の鈴鹿で不幸なアクシデントのためリタイヤしているので本当はエンジン交換が可能ですが、レース早々のリタイヤだったため、まだ300km弱しか走っておらず、そのまま使用する事にしました。

この上海のコースはブラジルや、インディアナポリスのように、前半のコーナー区間と後半のストレート部分があり、ダウンフォースレベルを高低どちらに振り分けるか、セッティングが非常に悩ましいサーキットです。また、金曜日の走り初めから土、日と路面変化も大きく、それにどう合わせていくのかも、難しいサーキットです。路面はスムースですが舗装の表面がきめ細かく、埃がでると滑りやすくなるため注意が必要です。

エンジンの全開率は60%くらいとそれほど高くはなく、エンジンへの負担は少ないですが、ブレーキには過酷なサーキットです。戦略的にはピットロスが大きく、燃料エフェクトは平均よりも高いくらいなので、ピットストップは通常2回で、1回もありうると思います。

●金曜日 滑りやすい路面に悩まされたTF105B
金曜日の走り始めは予想どおり路面が滑りやすく、コース外に飛び出た車両が撒いた土のため、コースの一部は非常に汚れている状態でした。そんな状態でしたが、ヤルノはこのコースが初めてだったこともあり、最初のセッションから走り込む予定でした。彼のエンジンはライフに余裕がありましたから。しかし、ステアリングの左右の重さに違和感があるということで、それを交換することで時間を取られ、あまり走れませんでした。

午後のセッションでは、天気予報で最後の方に雨が降るかもしれないということだったので、最初から3台ともコースインさせました。プログラムも変更して、セッションの中盤にニュータイヤでのアタックを敢行してからロングランを行いました。路面がまだ良くない時にアタックしたため、タイム的にはあまり良くはありませんでしたが、リカルドのクルマはバランスも良く、タイヤもグレーニングが出ず、非常に良い状態でした。

レースカーの2台はアンダーステアが強くて、バランス的にはまだ不満が残る状態でした。その上、ヤルノのクルマはコース上のゴミを踏んでしまったようで左フロントタイヤがパンクした上、最後にはエンジンからギヤにパワーを伝えるシャフトが壊れてしまい止まってしまうなど、トラブルも出ました。予選に向けては、リカルドのクルマのデータを参考にしてセッティングをやり直すつもりです。

105Bは鈴鹿に持ち込んで、まだ2戦目ということもあって、路面が違う上海に合わせ込んだセッティングができていない部分があるのかもしれません。リカルドの乗る105と105Bとの特性の差もあるかもしれません。

●土曜日 レース後半に賭けたセッティングで、苦しんだ予選結果

  2スティント目を長めにする作戦もうまくいき、ラルフにとって今回はセーフティカー導入がいい方に作用した。

土曜日の予選は期待どおりの結果にはなりませんでした。ヤルノはアタックが3番目ということもあり、路面が汚れた状態だったので仕方なかったと思いますが、ラルフの方は路面もかなり良くなってきていましたが、金曜日からのアンダーステアが直らず、大分タイムロスしてしまいました。予定ではあとコンマ3秒は短縮できる計算でした。その計算であれば予選にて7、8番手あたりにはつけたはずです。

TF105Bの2台は金曜日からアンダーステアに悩まされていたので、午前中のフリー走行ではアンダーステア対策をしました。一発のタイムを出すためにアンダーステアを消すことはできるのですが、そうするとタイヤが磨耗した時にオーバーステアになってしまう。今回のタイヤは、新品の時と30周くらい走った時とでの特性変化が大きかったのです。そのため、セッティングもどこかで妥協せざるをえない状況でした。そこで、我々はレース後半にクルマのバランスが良くなるようにセッティングしました。ただ、予選では思った以上にアンダーステアになってしまいました。予想していた路面温度よりも10度くらい低かったのが影響したかもしれませんね。空力もコーナーでのバランスを考えて、ダウンフォースをかなり付けているので、レース序盤ではちょっと厳しいかもしれない。ただ、後半はタイヤが良い状態でいけるはずなので、追い上げられると思っていました。

予選までの感じでは、ここ上海ではTF105の方が105Bよりも合っていたかもという気持ちもありました。しかし、来年以降のことを考えればTF105Bを投入し、データの収集を行ったほうが良い、という選択をチームとしてはしておりました。今回は苦しむ展開になるかも知れないが、来年に勝つことを考えれば、いま苦労した方がいいという考えでした。

●日曜日 最終戦を表彰台で飾り、100点満点だった2005シーズン

3位表彰台を獲得し、チームスタッフと喜ぶラルフ。チームはランキング4位、ドライバーズランキングではラルフが6位、トゥルーリが7位でシーズンを終えた。  

レースはラッキーな所もありましたが、TF105Bで表彰台を獲得できたのは非常にうれしいことでした。レース全体をみれば、非常に荒れたレースだったと思います。我々にとっては、ラッキーな面とアンラッキーな面がありました。

最初のセーフティカーが出たところで、ほとんどのチームが給油したことで各チームの戦略がリセットされました。我々にとって良かったのは、そのタイミングでラルフがピットインして燃料を多く積むことができたことです。もともと、戦略的にも2ストップで2スティント目は長めにいこうという作戦だったので、思惑通りの展開になったのです。そして、2回目のセーフティカーではラルフをピットに入れるか入れないかで迷いましたが、結果として入れませんでした。この時、我々の思惑ではピットインしたアロンソの前に出られるはずでしたが、コース上をゆっくり走っているフィジケラに抑えられて出られず、これが計算外でした。トップに出て逃げる作戦でしたから。しかし、その結果フィジケラはペナルティを受けてラルフが3位に入れました。途中、後ろをバリチェロに押さえてもらったのも我々としてはラッキーでした。ラッキーとアンラッキーがありましたが、結果を見れば3位を獲れたということで満足のいく結果でした。最後はフィジケラに追い上げられましたが、タイヤの状態も良く、ペースを上げることができ、終盤のバランスを考えてセッティングした効果がやっと発揮できたと思いました。

対照的にヤルノは難しいレースとなってしまいました。セーフティカーが出てくる2周前にピットに入ったため、その恩恵に預かれなかった。そこで下位に沈んでしまったため、中盤は前を塞がれペースを上げられず、最後は左フロントタイヤからバイブレーションが出てピットインしなければなりませんでした。また、ヤルノのスタイルにTF105Bが合ってない部分もあり、彼には気の毒なレースをさせてしまったと思います。ただ、今回は、2台完走し、非常に貴重なデータがたくさん取れました。これは、来年のクルマを開発する上で非常に有意義なことだと思います。結果も良かったし、来年に繋がるレースができたことは非常にうれしい限りです。今年はいろいろと浮き沈みのあったシーズンでしたが、最後に良い形で終われたのは本当に嬉しいものでした。来年はさらに良い車とエンジンを開発し、念願の優勝を果たしたいと思います。

公式サイトへのアクセスありがとうございました。そして、一年間の応援ありがとうございました。これからもパナソニック・トヨタ・レーシングを応援してください。

高橋敬三プロフィール
長いようで短く、また、充実した1年を振り返る高橋敬三。