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Rd.6 Grand Prix of Monaco
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新居章年リポート
2008年5月26日(月)

いつもご声援ありがとうございます。全18戦で争われる今年のF1も早いもので6戦を消化し、3分の1が経過しました。6戦目の舞台は、伝統のモナコGP。それでは、さっそくヨーロッパラウンド前半戦最後となったモナコGPの報告をいたしましょう。


F1で初めてモナコを走ったティモ。フリー走行から全くミスのない走りで好調さを見せていたが、予選では原因不明の失速により、Q3進出は果たせなかった。

●狭く曲がりくねったモナコ用にハイダウンフォース仕様の空力パーツを準備
先週、ポール・リカールで行われた合同テストで、我々は前半の2日間、モナコGPに投入を予定していたハイダウンフォース仕様の空力パーツを試しました。具体的にはウイングは前後とも新しくなっています。またインダクションポッドの両脇に付いているロールフープウイングの後方にもう1対トップエンジンカバーウイングを追加。サイドポンツーンの入口にあるクラッシュウイングから下方に伸びている縦板には、小さなウイングレットを設けました。さらに至る所にガーニーフラップを装着してダウンフォースを稼ぎ出しているのは言うまでもありません。
テストでの順位はあまりよくありませんでしたが、搭載している燃料量が各車異なっていましたから、あまり心配はしていませんでした。さらにドライバーはヤルノ(トゥルーリ)がモナコで優勝した経験があるように、ここを得意としています。またチームメートのティモ(グロック)も昨年のGP2シリーズで表彰台を獲得しており、ドライバーはふたりともいつも以上にモチベーションは高かったように思います。
週末の天気は不安定だと予報されていたので、どんなコンディションになっても対応できるよう、ドライバーだけでなくチームスタッフたちも万全を尽くして、週末に臨みました。

順調だったティモとは対照的に、ヤルノは週末を通してセットアップに苦しんだ。フリー走行ではクルマへダメージを与えてしまう場面もあったが、予選ではベテランらしい走りを見せ、8番手を獲得。

●ベテランのヤルノにすら牙をむく難関コース。アクシデントによりプログラムを変更
天候に恵まれてドライコンディションとなったので、木曜日のフリー走行ではしっかりと走り込みを行いたかったのですが、ベテランのヤルノがモナコの餌食となったことは想定外でした。午前中のフリー走行1回目でトンネルの手前にあるポルティエ・コーナーの立ち上がりで、左リアタイヤをガードレールに接触。サスペンションにダメージを負ったヤルノのクルマは、ピットまで帰還することができず、シケインを直進してコース脇に停止したため、午前中は16周の走行にとどまりました。
午後のフリー走行2回目でも、ヤルノはプールサイドシケインの出口で縁石を乗り越えた際に車体底部を傷つけるトラブルに見舞われました。幸い、ピットインしてクルマを修復している間に赤旗が出たため、ライバル勢の走行時間も削られて大きなロスにはならなかったのですが、結局ヤルノは午後も28周しかできず、順調な一日とはなりませんでした。そのため、午後のフリー走行では通常であれば、2種類あるドライタイヤの比較テストをふたりのドライバーがともに行う予定だったのですが、急きょ予定を変更して、ヤルノはセットアップ作業中心のプログラムにしました。
一方、F1で初めてモナコを走行するティモは、我々も驚くほど順調にプログラムをこなしてくれました。ティモのドライビングスタイルはややリアタイヤを滑らせる傾向があったので心配していたのですが、接触するようなミスはまったくなく周回してくれたおかげで、有意義なデータを収集することができました。

モナコ仕様ということで、前後のウイングを新しいものへと変更。またこれとは別にクルマのサイドに2種類の新ウイングも装着し、ハイダウンフォースを得るために最大限の改良を施してレースに臨んだ。

●好調ティモが謎の失速。ヤルノは苦しい状況を跳ね返し予選8番手を獲得
土曜日の予選もまた、我々の予測とは異なる結果となりました。まず、木曜日から順調に走行を重ねていたティモは、2日目の土曜日のフリー走行3回目でも問題なくセットアップ作業を進めていたので、予選に向けて手応えを感じていました。予選でも第1ピリオドまでは順調だったのですが、第2ピリオド最後のアタックで思うようにタイムを刻むことができませんでした。
本人のコメントでは「セクター2の途中となるトンネルの出口までは悪くなかったけれど、シケインのブレーキングからなぜかグリップを失ってしまった」ということです。タイヤの空気圧もその前に装着したタイヤの設定と同じだったので、我々にとっても本当に不可解な失速でした。トンネルの出口まではティモのほうがヤルノよりも速かったので、もし後半の失速がなければ、二人揃って最終ピリオドに進出していたはずです。
逆に木曜日に苦しんだヤルノは、予選ではベテランらしい底力を発揮してくれました。土曜日も午前中まではセットアップがなかなかまとまらず、予選でも第1ピリオドと第2ピリオドでは「クルマが硬い感じがして、グリップ感が得られない」という苦しい状況が続いていました。しかし、予選本番のアタックではそんなことを感じさせない思い切った走りで最終ピリオドに進出。ようやくグリップ感を得られるようになった最終ピリオドでは8番手のタイムを記録して、難しい状況の中、入賞圏内からスタートすることができました。
モナコGPはふたつのレースがあると考えています。ひとつは予選で、もうひとつは決勝レースでのスタート直後のポジション争い。とりあえず、ひとつめのレースが終わったので、決勝ではしっかりとポジションをキープするスタートを切りたいと思っていました。

決勝では天候に翻弄され、難しいドライビングを強いられた。しかしこのような厳しいコンディションにもかかわらず、F1初走行ながらモナコを完走したティモ。

●戦略がことごとく裏目に出てしまい、上位進出は叶わず
日曜日の決勝では、今シーズンここまで戦ってきた中で最低のリザルトとなっただけでなく、内容を見てもかなり不満が残るレースとなってしまいました。2台とも今シーズン最高のスタートを切っていただけに、今回のレースは非常に残念な結果です。
まずヤルノのピットストップから説明しましょう。ほかの多くのライバル勢と同様に浅溝ウエットタイヤを履いてスタート。直後に7番手にポジションアップし、その後6番手まで順位を上げていましたが、実はスタート直後から滑りやすい路面状況に苦しんでいました。そこで、我々はヤルノのために深溝ウエットタイヤを用意して、何かあったらすぐに交換できる準備を行っていました。すると8周目にセーフティカーが出動。雨が強くなるとの情報もあり、思い切ってヤルノをピットインさせ深溝ウエットタイヤに賭けました。
しかし、予想とは逆に雨は弱まり、路面コンディションは我々の想定よりも早く乾きだし、深溝ウエットタイヤで走行するのが難しい状況となりました。そこでルーティンのピットストップで浅溝ウエットタイヤをヤルノに履かせたのですが、路面はその後、急激にドライへと変化していったのです。そのため、我々は3度目のピットインを行うこととなったのです。これで序盤ポイント圏内を走行していたヤルノのレースは事実上、終了。13位でフィニッシュすることとなったのです。
続いてティモですが、1周目でポジションをふたつ上げて、その後7番手を走行していた4周目に痛恨のスピン。その後もう一度ミラボー・コーナーで曲がりきれずにリアウイングをタイヤバリアに接触。ドライタイヤに変更するタイミングも味方することなく、12位でチェッカーフラッグを受けるにとどまりました。
このような厳しい状況の中で、2台がそろって完走したことは評価したいですが、課題が残ったことも確かです。カナダでは今回うまくいかなかったところを見直して、雪辱を期したいと思っていますので、ご声援よろしくお願いします。


モンテカルロでの新居章年。タイヤ戦略が裏目となりポイントを逃してしまった。次戦のカナダGPも荒れた展開になることが多いが、今度こそ2台揃ってのポイント獲得を目指す。