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Rd.7 Grand Prix of Canada
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新居章年リポート
2008年6月10日(火)

いつもご声援ありがとうございます。早いものでモナコGPを終え、今年のF1グランプリも3分の1が経過しました。中盤緒戦は北米大陸で今年唯一開催されるカナダGP。それでは今年も荒れた一戦となったカナダGPの報告をいたしましょう。


今回投入した仕様は5月中旬に行われたポール・リカールで使用したものだったが、テストは雨に見舞われてしまった。そして金曜日も雨の影響を受けたものの、有意義なデータを集めることができた。

●昨年見舞われたトラブルにはしっかりと対応し、万全の態勢でカナダ入り
前戦モナコGPでは今シーズン最低の結果となったわけですが、それもいろいろと考えて下した作戦がうまくいかなかっただけ。終わったことを引きずっていても次にはつながらないので、今回のカナダGPには気持ちを切り替えて臨みました。モントリオールに持ち込んだクルマは、5月中旬のポール・リカールテスト最終日に試した仕様と本体は同じです。それにモントリオール用のミドル~ローダウンフォース仕様のウイングと、それより若干ダウンフォース量を増やしたミドルダウンフォース仕様のウイングを持ち込み、この2種類を試して最終的なパッケージを決めようという考えでした。
昨年のカナダGPではフリー走行で縁石に乗り上げた際にアップライトを損傷して、ドライバーにはその後、ドライビングに関して制限を与えてしまいました。その反省を元に、今年のTF108は足回りを強化。そしてサーキット側も問題となったターン8の内側の段差の形状を改修し、最終コーナーと同様の丸いマウンドタイプとなったため、今年は問題なく走行できるものと手応えを感じつつ、フリー走行初日に臨みました。


空力の仕様変更以外に今回のカナダGPに向けてブレーキングシステムを改良。モントリオールは高速走行から急激にスピードを落とすセクションがあり、ブレーキには負担が大きい。

●天候の影響でやり残しはあったものの、収穫のあった初日
朝方に降った雨が残って、金曜日午前中のフリー走行がウエットコンディションでスタートしたため、予定していたプログラムのうち、3分の1程度をやり残してしまうという初日となりました。また、ティモ(グロック)は午後のフリー走行2回目の終盤にターン4外側のコンクリートウォールに接触して走行を途中で断念し、もう1セット残っていたスーパーソフトタイヤを試すことができずに終わりました。
ドライバーのコメントは、「グリップが低い」というような否定的なものが多かったのですが、スリッピーなモントリオールにおいてこれは特別なことではないので、それほど心配はいりません。その証拠に初日のフリー走行では我々のドライバーだけでなく、ほかのドライバーもみんな滑りやすい路面に苦しんでいました。
メカニカルなセットアップに関して、やり残したことはありましたが、金曜日のフリー走行ではふたりで異なるダウンフォースレベルのセットアップを試して、有意義なデータが取れました。これは2日目以降のクルマのセットアップを決めていくうえで重要なことなので、このようなコンディションの中で行えたことは大きな収穫でした。また新しくなったスーパーソフトが今年のモントリオールでは問題なく使えることを確認でき、レース戦略を決めるうえで選択肢が増えたので良かったです。


金曜、土曜を通しアスファルトの崩れや路面温度の上昇によりクルマのセッティングに悩まされた。しかし決勝ではレース戦略が功を奏し、上位陣に発生したトラブルを巧みに回避した。

●路面コンディションの変化を的確に読むことができずに不本意な結果に
土曜日、午前中のフリー走行の時点から、短い1周だけのアタックでうまくタイヤのパフォーマンスを引き出すことに関して、ふたりのドライバーから疑問が出ていました。そのため予選では2アタックまたは3アタックを連続で行う予定を立てて臨みました。しかし、それでもなかなか1周のアタックをまとめることができず、第2ピリオドでトップ10に入れないという予想外の結果に終わってしまいました。
金曜日のフリー走行では、燃料をある程度積んだ状態でもいい走りをしていたので、こんな結果になるとは思ってもいませんでした。土曜日の午前中から急激に悪化していった路面コンディションを的確に把握できなかったことが、課題となった予選となりました。
ただしリザルトをよく見ると、ティモと10位のドライバーとのタイム差は100分の1秒差で、14番手に終わったヤルノ(トゥルーリ)もティモからコンマ3秒程度しか離れておらず、レースに向けてそれほど悲観することはないと思っていました。
特にカナダGPは荒れた展開になることが多く、11番手以下となった我々はレースでの燃料搭載量を自由に決めることができます。今年のスーパーソフトは昨年よりもレベルが高いので、1ストップ作戦を採ることも可能となったわけです。


自身最高の4位入賞を果たしたティモに6位のヤルノ。今季初めて、ふたり揃ってのポイント獲得となった。ダブル入賞は06年の日本GP以来の快挙。チーム全体の成長が確認できた。

●1ストップ戦略が功を奏して、今シーズン初のダブル入賞を果たす
我々のスタートポジションと、カナダGPはレース中、セーフティカーが出やすいという傾向から、ふたりのドライバーに1ストップ作戦を与えました。モントリオールは車両重量の影響が低いサーキットなので、燃料を多く搭載してスタートさせてから2ストップに切り替えることは可能です。逆に2ストップでスタートしたら、1ストップに戻すことはできません。そういった意味でも、1ストップ戦略はモントリオールでは決してリスクの高いものではないと判断しました。
問題はスタートでどちらのタイヤを装着するかということでした。本来であれば、パフォーマンスが安定しているソフトタイヤをスタートで使うのがセオリーでしょう。しかしスタート直後というのはしばらく団子状態が続き、グレイニング(ささくれ摩耗)が出やすいスーパーソフトタイヤでも、この弱点が露呈しない可能性もあり、思い切ってふたりそろってスタート時に装着することにしました。
そして、予想通りセーフティカーが出動して上位にいた2ストップ勢が一斉にピットインしたために、我々はそれに乗じてポジションを上げることに成功したのです。また、タイヤのマネージメント的にもいい方向へ状況が転じたと言えるでしょう。
決勝結果は上位陣に混乱があり、それが我々に味方してくれたために訪れた結果だったということは確かにあります。そして、今シーズンは混乱の中に埋没し、抜け出せずにいたのが我々でした。しかし、決勝ではふたりのドライバーだけでなく、チームスタッフもミスなく最後までレースを戦ってくれました。そういう意味では、今日はチーム全体が成長していることを確認できたという点でも、実りが多いグランプリとなりました。
これで8ポイントを加えて、コンストラクターズランキング5位に浮上しましたが、上位陣に追いつくためには、この状態で満足していてはいけません。次戦フランスGPもこの勢いを保っていきたいと思っていますので、ご声援よろしくお願いします。


モントリオールでの新居章年。遂に2台揃ってのポイント獲得を実現! 次戦でもこの勢いを保ったまま上位フィニッシュを狙う。