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Rd.8 Grand Prix of France
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新居章年リポート
2008年6月23日(月)

いつもご声援ありがとうございます。カナダGPを終えた今年のF1は、いよいよヨーロッパラウンド後半戦に突入しました。モントリオールでは今季初のダブル入賞を果たしたパナソニック・トヨタ・レーシング。フランスGPでもその勢いを保つべくやってきました。では、さっそく第8戦フランスGPの模様を報告します。

バルセロナテストで好結果を出した新型空力パッケージを装着。マニクールの特徴に合わせた、ダウンフォースと長いストレートでのトップスピード、両方にバランスのとれたセッティングを目指した。

●直前のバルセロナテストで好結果を得た新空力パッケージを持ち込む
フランスGPが始まる前にチームからも発表があったように、オベ・アンダーソン元チーム代表がクラシックラリー出場中にお亡くなりになりました。元代表は我々パナソニック・トヨタ・レーシングがF1に参戦した02年から2年間、代表を務めていた方なので、チーム全員が今週末を深い悲しみの中で迎えることとなりました。オベ元代表の遺志を継ぎ、あらためて心を引き締め直しフランスGPに臨むこととなりました。
技術的には、今回は新しい空力パッケージを投入しました。これは直前のバルセロナ合同テストで好結果を得たもので、新タイプのミドルハイダウンフォース仕様。ダウンフォースの量よりも、効率を良くした仕様となっています。予選ではトップ10の真ん中ぐらいを狙い、レースでも4位から6位ぐらいに食い込むことを目標にしてグランプリに臨みました。

マニクールは180度ターンや高速シケインをあわせ持つため、タイヤに厳しいサーキットだ。特に燃料を積んだ際にはタイヤにかかる負荷も大きくなり、特にティモはグレイニングとムービングに悩まされた。

●予定していたプログラムを消化。ヤルノはあとコンマ3秒は縮めることができた
金曜日のフリー走行では午前中にふたりそろって30周以上を走行し、午後もヤルノ(トゥルーリ)が最多となる43周を走行。ティモ(グロック)も39周を走り、予定プログラムをすべて終了することができました。午前中はクルマのセットアップを行い、午後はダウンフォースとタイヤの比較を行いました。ここは2コーナー~エストリルを過ぎた後に長いストレートがあるので最高速を伸ばしたい一方で、高速コーナーや高速シケインがあるのでダウンフォースもしっかりと欲しいサーキットです。特にリアタイヤの摩耗によるパフォーマンスダウンをレースでいかに抑えるかがポイントとなるので、ダウンフォースを安易には削れません。その点では今回から新しく投入しているフロントとリアウイングは総合的に優れているようだったので、これらを土曜日以降も採用していくことに決めました。
順位はふたりとも金曜日はトップ10圏外に終わりましたが、ヤルノのタイムはアタック中にトラフィックの影響があったための結果でした。あとコンマ3秒は縮めることができたと感じられたので、それほど心配はしていませんでした。むしろロングランのペースが良かったので週末に向けて手応えを感じたフリー走行初日でした。
一方、ティモはグレイニング(ささくれ摩耗)に悩まされた一日でした。ヤルノもタイヤにグレイニングは出ていましたが、それは午前中だけ。ティモは午後もロングランでもグレイニングが発生しており、それがタイムに影響を与えていました。

フランスGP仕様の空力パッケージの開発、その効果を十分発揮するためのセッティング、そしてレース戦略を支えるピットワークとチームスタッフの努力が実った結果となった。

●2度目のふたりそろっての予選トップ10入りも、評価は「85%のでき」
マレーシアGP以来、今シーズン3回目のふたりそろっての最終ピリオド進出となった今回の公式予選は、85%ぐらいのできだったと思います。残りの15%はせっかく2台そろってトップ10に残ったにもかかわらず、ティモが満足のいくタイムアタックを行うことができなかったという問題が生じたためです。ティモ曰く「最終ピリオドでは燃料を多く搭載した状態となり、ソフトタイヤがムービング(ヨレた状態)を起こしていた」ため、コーナーリングが不安定になったことが原因でした。
ヤルノも最終ピリオドではアタックに入る前の走行でスピンを喫していましたが、これは燃料を多く積んだ状態でソフトタイヤの限界を探っていたためです。タイムアタック自体は素晴らしい集中力で、見事5位を獲得してくれました。予選3位のルイス・ハミルトン(マクラーレン)は10番グリッド降格が決定していたので、ヤルノは4番グリッドへ。さらに予選後に予選6位のヘイキ・コバライネン(マクラーレン)にも5番グリッド降格のペナルティが科せられたため、ティモのスタート順位も10番手から8番手へと繰り上がりました。
ただし、この時点では表彰台を狙うことよりも、スタートポジションをキープして、しっかりと走りきりたいというのが我々の目標でした。

最後まで集中力を切らすことなく走りぬき、3位表彰台をオベ・アンダーソンに捧げたヤルノ。小雨が降り出す中ホイールが擦れあうほどの接戦を凌ぎきった様はまさにベテランと呼ぶにふさわしい。

●すべての要素をクリアし、獲得した表彰台
今回のフランスGPのレースで、我々パナソニック・トヨタ・レーシングが06年のオーストラリアGP以来の表彰台を獲得できた背景には、新しい空力パッケージを開発したチームスタッフたちの頑張りがあります。そして、この新パッケージが予想通りのパフォーマンスを発揮したことが大きな要因となっていたことは確かです。ただし、これら以外にも表彰台を獲得するために必要な要素をすべてクリアして、勝ち取った表彰台だったと思います。
そのひとつとしてまずあげられるのが、スタートでポジションをしっかりとキープしたことです。我々はグリッドポジションが繰り上がったために、ふたりとも走行ラインではないイン側からのスタートとなりました。そのため、エンジンのマッピングをややスリップすることを想定したものに変更してスタートさせました。その変更が功を奏してグリッドポジションを守るどころか、2台そろってのポジションアップに成功しました。
ふたつめはピットストップ作業です。2回ストップのいずれもミスなく、ドライバーたちをコースに送り出したことも忘れてはなりません。3つめはレース戦略が的確だったことです。1回目のピットストップ後の第2スティントを長くとる作戦は、今日のフランスGPのレースでは、ベストな作戦だったと思います。
そして、きわめつけはなんと言ってもドライバーの頑張りでした。残り10周となったところで小雨が降り出し少しハラハラしましたが、「ヤルノなら、押さえ込んでくれる」と信じていました。
ティモもスタート直後に6番手に上がり、入賞が期待されましたが、1回目のピットストップ後にタイヤにグレイニングが発生したためタイムが伸びず、結果的にティモの後にピットインした後続のクルマ数台にポジションを明け渡す結果となりました。しかし、予選では久しぶりに最終ピリオドに進出し、決勝でも絶妙のスタートを切るなど収穫もあったので、イギリスGPに期待したいと思います。
今回の表彰台は前がつぶれて転がり込んできたものではなく、自分たちの手でつかんだ実力を発揮しての表彰台です。イギリスGPの空力パッケージも今回のものをベースにしたシルバーストーン仕様の前後ウイングアップデートしたもので戦うことになります。今回の結果はフランスGPだけのものではなく、イギリスGP、ドイツGPへ向けての道程を明るく照らす結果となりました。この勢いを止めることなくイギリスGPでもぜひ熱いレースを展開したいと思いますので、ご声援よろしくお願いします。


マニクールでの新居章年。故オベ・アンダーソンに捧げる3位表彰台を獲得!コンストラクターズ選手権でも4位に肉薄。次戦でも好調の波を維持し、上位フィニッシュを狙う。