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Rd.13 Grand Prix of Belgium
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新居章年リポート
2008年9月8日(月)

いつもご声援ありがとうございます。3月にスタートした08年シーズンも9月に突入。残すところ2カ月あまりとなりました。9月最初のグランプリはベルギー。舞台となるスパ-フランコルシャンは3日間とも雨絡みという典型的な「スパ・ウェザー」となった今年のベルギーGPの模様を報告いたします。

個性的なレイアウトで高速コーナーが多いスパ。普通ならハイダウンフォースにする必要があるが、スパには長いストレートがあるため実際は中~低ダウンフォースになる。

●ダウンフォースを重視しつつ長いストレートも無視できないスパ・フランコルシャン
1周が7km以上あるスパ・フランコルシャン・サーキットは、1コーナーのラ・ソースからオー・ルージュ、ラディヨン、そしてケメル・ストレートエンドまでのコース前半部分はそのほとんどがエンジンを全開にして走行する高速区間です。マウンテン区間を降りてポール・フレール(旧スタブロー。今年から改名。)からブランシモン・コーナー、そして最終シケインまでのコース後半も7速まで入るハイスピード区間です。
したがって、8月に行われたハンガリーGPやヨーロッパGPよりも、低ドラッグ仕様のエアロダイナミクスを持ち込みました。ただ、途中のマウンテン区間はダウンフォースがないと速く走ることができないので、ドラッグを抑えつつも、できるだけダウンフォースを失うことがないよう、いかに空力パッケージを効率よくできるかがポイントでした。

フロントウイングの変更やシャシーカナードと呼ばれる小さな翼がコクピット前方のモノコック上面の両側に取り付けられ、8月とはかなり異なるスパ仕様の空力パッケージが採用された。

●気まぐれな天候と赤旗、そしてトラブルで走り込みが思うように進まなかった初日
ベルギーGPに持ち込んだTF108の車体には、それまであったものがなくなり、なかったものが新たに加わりました。インダクションポッドの両脇に付いていたロールフープウイングを外し、コクピット前方のモノコック上面の両側にシャシーカナードと呼ばれる小さな翼を新たに加えた空力パッケージにしたのです。ロールフープウイングを外すことで空気抵抗を減らしつつ、ダウンフォースを維持するために変更しました。さらにフロントウイングにも改良を加え、8月までとは異なる空力パッケージで金曜日のフリー走行に臨みました。
走り出しはふたりとも問題ありませんでした。いつ雨が降ってもおかしくない空模様だったので、いつもより早く軟らかいほうのミディアムタイヤを装着して、メカニカルなセットアップ作業を煮詰めていこうとした矢先にヤルノ(トゥルーリ)のクルマに電気系のトラブルが生じてしまったのです。さまざまな機材をクルマに搭載する際にハーネス(配線)がかんでしまっただけという些細な原因でしたが、電気は目に見えないものですので、その原因を究明するのに予想外の時間を費やしてしまう結果となりました。
午後はトラブルなく2台とも走行することができたのですが、時折小雨が降ったことと、その雨の影響でセッションが一時、赤旗中断となったことで、走り込みという点ではやや物足りないセッションとなりました。スパ・フランコルシャンは2日目以降も天気が変わりやすいという予報が出ていましたので、金曜日の夜は土曜日以降に向けてのセッティングに関して、かなり頭を悩ませました。

金曜からトラブルが発生し、苦戦をしいられたヤルノ。しかし、決勝では素晴らしいスタートダッシュをみせ、厳しいコンディションでも次戦につなげる力走を見せた。

●厳しい展開を予想していたものの、それ以上に結果が出なかった予選
厳しい戦いになることはスパ・フランコルシャンへ行く前から覚悟していましたし、金曜日に十分に走り込みができなかったこともあり、土曜日の予選は、これまでのヨーロッパラウンド後半戦のように「2台そろってトップ10の真ん中」を狙うのは難しいと予想していました。だからといって、クルマにまったく戦闘力がなかったわけではなく、土曜日午前中のフリー走行を終えた段階では、2台そろってトップ10はなんとか確保してくれると信じていました。
ところが、いざ予選が開始すると、我々が設定したダウンフォースレベルではストレートスピードの伸びが悪く、ライバル勢についていけないということが分かりました。ダウンフォースを必要とするセクター2での速さを期待していたのですが、セクター2もタイヤの温めに苦労して、タイムを稼げませんでした。そのため、イギリスGP以来の2台そろって第2ピリオド落ちを喫することになりました。思いもよらぬ結果となったベルギーGP予選ですが、日曜日の天気も依然不安定な予報がでていましたので、うまく天気を味方につけて、レースで挽回できる戦略を練りました。

ティモもスタートを決め、1ストップ作戦や最後のウエットタイヤへ交換など戦略を活かした粘り強い走りだった。ポイント獲得はならなかったが、チームを勇気づけた。

●2台そろって絶妙なスタート。しかし、事故とペナルティでポイント獲得ならず
ハーフウエットの路面をドライタイヤでスタートするという難しいスタートとなった決勝レース。そんな中、我々の2台は、ともに絶妙のスタートを切ることができました。ヤルノは1コーナーまでに6台をパスしたのですが、1コーナーのブレーキングでセバスチャン・ブルデー(トロ・ロッソ)に追突されるという不運に見舞われてしまいました。ディフューザーなどの空力部品が損傷したと思われるヤルノのクルマはダウンフォースが適正に出ていなかったようで、1周目からとても運転しづらい状況となりました。さらにその追突によってヤルノのクルマはギアボックスにも変調が発生し、ペースが上がらず苦しいレースを強いられることとなりました。このような困難な状況の中でも、最後まであきらめずレースを続けてくれたヤルノの姿は、我々チーム全員に勇気を与えてくれました。
そのヤルノ同様に絶妙のスタートを決めたのが、ティモ(グロック)でした。13番手からスタートして、1周目のコントロールラインを9番手で通過したティモには、1ストップ作戦を予定していました。ストレートスピードが伸びないセッティングとなっていたため、その後ストレートでオーバーテイクされる苦しい展開となりましたが、ティモもヤルノ同様、粘り強い走りと1ストップ作戦のアドバンテージを活かして、レース終盤はポイントが見える位置を走行。さらに雨が本格的に降ってきた残り2周となったところで、素早くティモをピットインさせ、スタンダードウエット(浅溝)タイヤに交換して、ファイナルラップで逆転し8位に入ることができました。
しかし、そのオーバーテイクが追い越し禁止区間で行われたと判断され、レース後に「レース結果に25秒加算」というペナルティを受けたため、惜しくもポイント獲得はなりませんでした。
残念な結果に終わったベルギーGP。しかし、次は2週連続開催のイタリアGP。早く気持ちを切り替え、高速モンツァではヨーロッパラウンドを締めくくる戦いを演じたいと思っていますので、ご声援よろしくお願いします。


スパ・フランコルシャンでの新居章年。不安定な天候の中、ティモが素晴らしい追い上げを見せたがポイント獲得ならず。次戦モンツァの高速バトルでは再び上位進出を目指す!