レーシングドライバー木下隆之のクルマ連載コラム

313LAP2022.4.6

レーシングマシンを演奏するように

単気筒、2気筒、3気筒、4気筒…。水平対向にVツインに並列ツイン。バイクには様々なパワーユニットが存在する。だからこそ、個性が魅力的だ。一方のレーシングマシンも魅力的である。レースとバイクをこよなく愛する木下隆之が、思いを語る。

個性的な二台に囲まれて…

このところ自宅には、二台のバイクが居候している。不思議な縁があってガレージをともにすることになった二台なのだが、出自がバラバラだったこともありキャラクターがまったく異なるから面白い。
一台はホンダのレブル1100。直列2気筒で排気量は1100ccである。ホンダイチオシのアメリカンタイプのビッグバイクであり、街中で見かける頻度が増えた。一方は軽量コンパクトなカワサキZX-25R。並列4気筒で排気量は250cc。世界でも稀なクォーター4ユニットが自慢である。
一方が大排気量ツイン、一方は小排気量クウォーター。走らせる回転域もまったく異なる。レブル1100は、極低回転域で猛獣のようにドロドロと喉を鳴らして走る。ちょっと右の手首をひねれば、排気量なりの強烈な加速に見舞われる。それでも5,000rpm以下でゆるゆると流すのが似合う。かたやZX-25Rは、常用が1万回転である。6速ギアに固定していたとしても、およそ1,000回転が10km/hという計算だ。つまり、60km/hであれば回転計の針は6,000rpmを指している。高速道路を120km/hでクルーズしていてもタコメーターは1万2,000rpmをさす。つまり、日常が1万回転オーバーなのである。
という個性的なバイクライフをご近所さんに言わせれば、ゴールデンレトリバーとトイプードルを散歩させているみたいですね、である。確かに小型犬を抱きかかえたいのか、汗をかきながらランニングをしたいのかわからない。ゆるゆると海岸線を流したいのか、ワインディングでタイヤを角まで減らしたいのか、僕のガレージを見て判断できないのも道理である。

とはいうものの、僕の中では個性がバラバラなのではなく、根底のところで気持ちがピタリと一致している。ともにバイブレーションという点で共通項があるのだ。
レブル1100は直列2気筒らしく、ズドズドと太鼓を叩くような低回転サウンドが魅力である。ハーレーのV型2気筒がそうであるように、いまにもエンストしそうな領域に不規則なビートが響く。それが多くのライダーを魅了するように、レブル1100もアイドリング+αの回転ゾーンで官能的に響く。
振動も心地いい。尻の下から腹に響くバイブレーションは、バイクがまるで生き物の躍動のような感覚に近い。それを鼓動という。単気筒、あるいは2気筒が鼓動でライダーにウインクすれば、もうメロメロである。
それとは背を向けるように、官能的なサウンドを響かせるのがZX-25Rである。精緻な4気筒エンジンは、密度の整ったサウンドでライダーを魅了する。回転の上昇に比例して、まるで天国への階段を上るように一段一段官能性を高めていく。踊る針にあわせて、サウンドがとろけてくる。1万5,000rpmオーバーでは、もはや蜜壺に肩まで浸かっているかのように脳天が痺れるのである。
バイブレーションもあるにはあるが、2気筒の鼓動とは異なり、回転が上昇するにつれてリズムが同調していく。それまで独立して爆発していた4本のシリンダーが、高回転では一つに束ねられる。高速で突き進む矢のように、バイブレーションに雑味が消えるのである。それはもう快感と呼ぶ以外に適切な言葉はない。

レーシングマシンの鼓動

そんな個性的な二台を交互に転がしていていつも思いを重ねてしまうのは、かつてのレースシーンである。全日本GT選手権をダッヂ・バイパーで戦っていた頃と、ニュルブルクリンク24時間で何度も鞭をあてたレクサスLFAのあの快感が蘇ってくるのだ。
ダッヂ・バイパーは、極低回転特性である。いや、パイパーを極低回転特性と呼ぶのは語弊がある。
というのも、フロントに搭載するV型10気筒の排気量は8,300ccもある。だからビッグキャパシティを武器にした低回転トルクでズシズシと進むのだろうと誤解されるのだが、実は驚異的な高回転特性なのだ。常用で9,000rpmオーバーである。それでも低回転特性だと語られるのは、スーパーGTのレギュレーションにあった。大排気量ゆえに空気流量が制限されていた。それによって、常用9,000rpmのエンジンが4,500rpmとされてしまっていた。シフトアップ回転が4,500prmということはつまり、コーナリング中は2,000rpm付近を彷徨わせているわけである。ほとんどアイドリングである。実際にヘアピンコーナーでは回転が下がりすぎてエンストしそうになる。慌ててクラッチペダルを踏み込むことになるのだ。
そんなだから、大方の固定観念に応えるかのように、低回転でズシズシと走ることになる。大排気量のビッグトルクを生かして、鼓動を響きせながら加速する羽目に陥るのだ。

それでも、慣れてくるとそれが快感になってくるから不思議である。回らぬエンジンに必死に鞭を入れて苦しげに加速していく小排気量マシンとバトルしながら、ムフフッと笑みが溢れることもある。アイドリング+αからでもスロットルペダルを床まで踏めば、ズトズドと鼓動を路面に滴らせながら加速するのだから、それも楽しいのである。それでも優勝したりするのだから、愛らしい。車両規則の足枷なんてヘッチャラである。

その対極にあるのがレクサスLFAである。ダッヂ・バイパーと同じV型10気筒であり、排気量は4.8リッター。気筒あたり480ccのシリンダーは燃焼効率が理想的であり、やはり9,500rpmまでスカッと回る。開発にあたっては、ヤマハの技術が盛り込まれた。エンジンはヤマハ発動機製であり、サウンドは音響のスペシャリストでもあるヤマハに調律してもらっていたのである。
レース仕様にチューニングされても、天使の咆哮と呼ばれた官能的なサウンドは健在だった。というより、レース仕様にしても魅惑の高回転サウンドだけは犠牲にしてはならんとのお達しがあった。たとえ数馬力を損失しても、天使の咆哮を守り続けたのである。
だからニュルブルクリンクがあるアイフェル地方の野山に、LFAに宿る天使は気持ちよく喉を響かせた。コクピットでステアリングを握る僕も、その官能性に痺れていた。シフトアップを我慢して、タコメーターの針が9,500rpmを指した瞬間に回転リミッターが作動、パラパラパラという電気カットのビートを響かせる。その音が聴きたくて、スロットルを床まで踏んでいたような気がする。
モータースポーツは競技であることに疑いはないが、時にエンジンが楽器のように感じることがある。ドライバーはタクトを振る指揮者となり、サウンドを響かせる。コンマ1秒にこだわりなからも、心のどこかでドライブを楽しんでいる自分がいる。
だからレースはやめられない。特に個性的なビートを響かせる内燃機関でのレースはやめられないのである。
もし僕がバイクでのレーサーであったのならば、Vツインのマシンを選択していたのであろうか。もしくはZX-25Rのように4気筒に拘ったのであろうか。想像するのは難しいが、これだけは言える。勝敗よりも快感を優先していたに違いない。

キノシタの近況

ニュルブルクリンク24時間レース参戦を夢見て始めたクラウドファンディングも終盤戦だ。目標額に達しなければ、それがたとえ1円であっても不足すればご支援が水の泡になる。期限が迫っているのでドキドキなんです。その一方で、せっせせっせと渡独の準備をしている。楽観的な性格なので…。ご支援よろしくお願いします。