- Round5
- 全日本ラリー選手権 第5戦 嬬恋
レポート
チーム力を結集し、エンジントラブルを乗り越え4位完走
今後の戦いにつながる貴重なデータを得る
2017年シーズンの全日本ラリー選手権第5戦「モントレー2017 in 嬬恋」が、6月10日(土)~11日(日)に開催され、TOYOTA GAZOO Racingの TGR Vitz CVT(大倉 聡/豊田耕司組)はJN3クラス4位で完走を果たした。
駆動系トラブルによりリタイアを余儀なくされた第4戦「若狭ラリー2017 Supported by Sammy」後、チームはより負荷の高いSS走行時の状況に対応するため、CVTにいくつかの改良を施した。今回、現場エンジニアとして帯同する夏賀悠二は、「前回の若狭ラリーで発生したトラブルに関して、しっかりと対策しています。ラリーでは想定を超えた負荷がクルマにかかる場合もあると、痛感しました」と語る。一方、チーフメカニックを務める宮本昌司は、「ターマック(舗装路)ラリーはモントレー嬬恋でいったん終わるので、後半戦に向けてしっかりとデータを取りたいと思っています」と、今回のラリーにおける目標を説明した。
例年の8月から6月へと開催時期を早めた今回のモントレー嬬恋。全日本ラリー選手権の中でも屈指の高速SS(スペシャルステージ・タイムアタック区間)を特徴としているが、今年は新たに群馬県嬬恋村に隣接する長野県須坂市内のテクニカルなコースが加わった。ドライバーの大倉選手は「このSSは、以前のモントレー嬬恋とは印象がかなり異なります。僕自身もツイスティな(短いコーナーが連続する)コースは嫌いじゃないですし、勝負につなげていきたいです」と、意気込みを語る。
ところがラリー初日、予想外の展開が待っていた。スタート直後から原因不明のエンジンパワー低下に見舞われたのだ。ラリー序盤を走り終えた大倉選手は「サービスで原因をチェックしてエンジンパワーを回復したいです」と語る。チームは原因を調査するとともに、CVTの制御ソフトを変更するなど対策を施したが、午後も依然としてパワーダウンは解消せず、初日をクラス5位で終えることになった。「距離の長いSS7/8 Minenoharaではかなり攻めようとしたのですが、我慢のラリーです」と、大倉選手は悔しさをのぞかせる。
ラリー2日目、大倉選手は「今後のためにもチームにしっかりとデータを持ち帰りたい」と語り、残されたステージもミスをすることなく走りきり、前日より順位をひとつ上げた4位で完走した。さらに「厳しい展開になりましたが、今回はデータを取るためにもしっかり完走を目指して走りました」と、今回のラリーを振り返った。宮本は「今回はエンジントラブルに対して、ドライバーはモチベーションを落とさず走ってくれましたし、エンジンのパワーダウンに対して、CVT開発陣は制御ソフトを変更するなど、現場で対応してくれました。チーム力で完走できたと思っています」と、今回の成果を語っている。
めざせ凄腕メカニック 2017 Vol.04
~円滑なチーム運営と作業安全・車両の安全を~
◆宮本昌司(チーフメカニック)
参戦テーマ:多くのスタッフが参加するなか、円滑なチーム運営と作業安全・車両の安全をはかる
「今回、いろいろな目的をもって多くの新メンバーが参加した為、それぞれの参加の目的を共有したうえ、サービス時間内の作業の順番・手順を調整しました。安全かつスムーズに作業出来る様いつも以上に細かな指示を出すよう心掛けました。思っていた以上にそれぞれがお互いの目的を理解・尊重してスムーズに作業が進み、知恵や意見も出し合って協力できたため、チームとしての総合力が高まったと感じました。」
◆夏賀悠二(CVT担当エンジニア)
参戦テーマ:取得データを即解析し、臨機応変なソフトアップデートで車両の改善に貢献する
「ラリー初日のエンジントラブルに対して、臨機応変に対応することができました。大倉選手からのコメントや、吸い上げたデータを確認した結果を反映し、サービス中に制御ソフトを更新しました。まずは目標に掲げていたことはできたのではないでしょうか。サービスの時間はかなり限られているので、作業自体はかなりバタバタしてしまう事もありましたが、それでも急遽段取りを組むなど、ラリー中に成長できたと実感しています。今後も開発陣として、しっかりチームをバックアップしたいです」
◆豊田耕司(コ・ドライバー)
参戦テーマ:CVTのデータ収集、メカニックの経験蓄積のため、しっかり完走する
「厳しいラリーでしたが、完走はできたので、最低限のデータ収集はできたと思います。マシンの調子があまり良くなかったので、攻めた状態のデータを取れなかったのは残念です。それでも、初日に強い雨が降るなか、全員がトラブルの原因を探そうとずぶ濡れになりながら、頑張ってくれました。セッティングやタイヤの変更など、かなり大変な作業だったと思いますが、本当にメカニックやエンジニアの皆さんには感謝しています」
チームスタッフ FOCUS
現場を知り、即判断。スピード感を持って市販車開発にフィードバック
◆永里 有(CVTエンジニア)
TOYOTA GAZOO Racingにおいて、車両の製作・整備を担当するのは、凄腕技能養成部の社員メカニックたち。圧倒的に男性が多いチームにあってサービスを真剣な表情で見つめている女性エンジニアがいる。第4戦若狭からチームに参加した永里有だ。
実際にラリーの現場を担当したことで、エンジニアとして新たな発見や驚きがあったという。
「CVTの開発において、私はハード面を担当しています。実際に現場で、ドライバーの大倉選手から直接お話を聞いたり、スタッフと映像などをチェックしたりすることで、ラリーの走り方、ラリーでのCVTの使われ方を理解することができています」
今年の1月から市販車のCVTの開発に携わるようになった永里。モータースポーツで得たデータを、市販車にも活かすことができないかと、常に考えている。
「ラリーのような過酷な走り方でも信頼性のあるCVT車をお客様に提供できるよう、制御だけでなくハード側でも改良を行いたいと考えています。いくつかあるアイデアをスピーディに具現化し、まずはラリーで試したいです」
そして、これまで関わることのなかった社内のスタッフと、同じチームメンバーとして活動することにも喜びを感じていると、永里は明かしてくれた。
「普段は関わることが少ない方たちと、こうやって仕事ができているのが本当に楽しいです。凄腕メカニックの皆さんは、車両整備のプロフェッショナル。ちょっとした会話も貴重な財産だと実感しています。そして、大倉選手、豊田選手からのフィードバックはお客様からの生の声のようなものです。本当にありがたい機会だと思っています」
PICK UP
JN2クラスにステップアップを果たした鈴木尚(スマッシュ DL itzz コマツBRZ)
2016年シーズン、スズキスイフトスポーツをドライブし、自身初の全日本ラリー選手権JN1クラスで年間チャンピオンに輝いた鈴木尚選手。10年近く全日本ラリー選手権への参戦を続けており、「長かったですね。ようやく獲れたタイトルでした」と笑顔を見せた。
高等専門学校時代にモータースポーツに出会い、2002年のTRDヴィッツチャレンジ(現在のTOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジ)に、自らトヨタヴィッツを購入して参戦する。2年目には勝利を手にし、その後は地方ラリー選手権の千葉県シリーズなどを経て、2008年からは全日本ラリー選手権にステップアップを果たす。
「ラリーを始めたのは、雑誌を見て『面白そう』と思ったのがきっかけです。当時、ケガをしてしまったことで、それまでやっていた高等専門学校の部活動以外に何か打ち込めるものがないか探していたことも大きかったですね。昨シーズン、タイトルを獲得できたのは、ずっと継続してきたからだと思っています」
鈴木選手が所属するスマッシュは、千葉県千葉市を拠点とするラリーチームで、JN2クラスにステップアップした鈴木選手のスバルBRZに加えて、2台のスズキスイフトスポーツでJN1クラスにも参戦する。代表の平塚忠博は鈴木選手について「タイトル獲得は、チームを運営していく上で大きなモチベーションになりました。今シーズンはドライバーもチームもまだマシンに慣れている段階ですが、久万高原ではいい走りを見せてくれました。これからもっと速くなるはず」と、語る。
JN2ではまだ勝利を手にしていない鈴木選手。今回のモントレーではコンディションの変化に苦しみ4位に終わったが、「精神面も含めて、チームからのサポートにも本当に助けられています。まだ乗り慣れていないこともあって、ライバルに一歩及ばない状況ですが、スバルBRZは本当にラリーカーとして良い素質のあるクルマです。これからトップに追いついていきたいです」と、意気込みを語ってくれた。
もっとラリーを楽しもう
モントレー嬬恋の開催地、群馬県嬬恋村は首都圏からのアクセスもよく、例年多くの観客で賑わいます。観戦可能なコースの一つがサービスパークと隣接していることもあり、ラリーカーの迫力ある走りを楽しもうと、今年も多くのファンが集結しました。また、今回は新しい試みとして、SSやイベント広場でのトークショーなどの模様がインターネットでライブ配信されました。
また、モントレー嬬恋といえば、地元嬬恋の名産品である「高原キャベツ」の配布が恒例行事になっています。今年はいつもより開催時期が早いため、キャベツの現物配布は行われませんでしたが、代わりにキャベツの引換券が来場者に配られました。
次戦予告
- 6月30~7月2日 全日本ラリー選手権 第6戦
- 「2017 ARKラリー洞爺」
6月30日~7月2日に開催される第6戦「2017 ARK ラリー洞爺」。今シーズンのグラベル(未舗装)ラリー初戦として注目される。洞爺湖周辺という絶好のロケーションで、川渡りなど変化に富むコース構成で展開、ターマック(舗装路)ラリーにはない砂塵を巻き上げ走行する迫力のシーンが楽しめる。周辺には洞爺湖温泉、有珠山、昭和新山、羊蹄山など、北海道を代表する観光スポットも点在。梅雨知らず、さわやかな北海道の魅力を存分に楽しめるラリーにぜひお越しください。
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全日本ラリー選手権に参戦
TOYOTA GAZOO Racingは、全日本ラリー選手権のJN3クラスに「TGR Vitz CVT」で参戦する。参戦3年目となる2017年シーズンは、4月7日(金)~9日(日)、佐賀県唐津市で開催される第2戦「ツール・ド・九州2017 in 唐津」がチームにとっての初戦となる。 -
全日本ラリーとは
日本の林道を疾走する、国内最高峰のラリー競技、全日本ラリー選手権 -
チーム
2015年4月、トヨタに発足した凄腕技能養成部の社員メカニックが、全日本ラリーにメカニックとして参戦。競技中に整備や修理などを行うサービス作業だけではなく、実戦の経験を積みながらラリーカーを製作するなど、ラリーを通じて様々な技能を学んできた。