- Round6
- 全日本ラリー選手権 第6戦 洞爺
レポート
今シーズン初の未舗装路ラリーで、
足まわりのトラブルに見舞われるも
チームの懸命な作業によってJN3クラス2位を獲得
2017年シーズンの全日本ラリー選手権第6戦「2017 ARKラリー洞爺 Supported by Sammy」が、6月30日(金)~7月2日(日)に開催され、TOYOTA GAZOO RacingのTGR Vitz CVT(大倉 聡/豊田耕司組)はJN3クラス2位に入賞した。
エンジントラブルにより思うような走行ができなかった第5戦「モントレー2017 in 嬬恋」後、チームは原因究明に努め、センサーの不具合を解消。さらに、今シーズン初のグラベル(未舗装路)ラリーに向けて、入念なテストも敢行した。足まわりを中心に未舗装路用セッティングに変更したほか、新仕様のブレーキキャリパーも投入している。また、CVTに関しては、未舗装路で常にホイールが空転している状況に対応したCVT制御を織り込んだ。今回、CVT担当エンジニアとして帯同する児島星は、「テストでは信頼性の問題が発生しましたが、対策を施しました。9月開催のラリー北海道に向けてという観点からも、確実に未舗装路でのデータを取りたいと思っています」と、今回の目標を語る。
ターマック(舗装路)でのラリーが続いた全日本ラリー選手権は、この第6戦で今シーズン初のグラベルラリーとなる。ラリー洞爺は北海道らしい高速SS(スペシャルステージ・タイムアタック区間)が中心となるが、今シーズンのラリー洞爺ではこれまでラリー競技に使われなかった蘭越町周辺の林道SSが登場し、新たな側面が加わった。ドライバーの大倉選手は「新しいSSは少し滑りやすそうな印象があります。JN6クラスが走ったあとはかなり路面状況が変化するかもしれません。それでも高速コースもありますし、走っていてすごく面白い。しっかりと挑戦していきたいですね」と、意気込みを語った。
金曜日に行われたSS1に続き、翌1日(土)から本格的なバトルの幕が上がる。大倉選手は午前中に行われたすべてのSSでベストタイムをたたき出し、トップに立つ。「洞爺のグラベルにはCVTが合っているようです」と述べた。ところが午後に入り、SS5の中盤で右フロントタイヤがパンク。このアクシデントにより、足まわりにもダメージを負ってしまう。チームは最終サービスで、ダメージを受けたパーツの交換を規定の時間内ギリギリで完了。タイムオーバーによるペナルティも覚悟で行った大がかりな修復作業は、抜群のチームワークで2位の座を守りこの日を終えた。
ラリー最終日、「優秀なメカニックがすべて直してくれましたし、デイポイント(デイごとにクラス1位から3位までに与えられるボーナス得点)もしっかり狙っていきたいです」と語り、大倉選手はスタート。その言葉どおり、SS9からSS11まで3連続ベストを記録した。大倉選手はサービスを挟んだ午後もミスなく走り切り、第3戦久万高原以来となる2位を獲得。「昨日、クルマをしっかり直してくれたチームに恩返しができたと思います」と、フィニッシュ後に大倉選手はコメント。チーム監督の豊岡悟志も「次のラリー北海道を前に、未舗装路での戦闘力を確認できたのは大きいです」と語っている。
めざせ凄腕メカニック 2017 Vol.05
~今シーズン初の未舗装路でのラリーに対する適応力をつける~
◆豊岡悟志(チーム監督)
参戦テーマ:シーズン初のグラベルラリーで、セッティングやトラブルの回避などの適応力を養う
「臨機応変な適応力はラリーにおいて、常に求められます。今回、ダメージを受けた車両への対処などで、しっかりと作業ができていたと思います。準備を入念にしたことで、実際の作業も各スタッフが問題なく動くことができていました。このラリーでは、足まわりの交換作業をベテランスタッフが担当しましたが、サポートにまわった若手、中堅メカニックも勉強になったのではないでしょうか。競技中に様々なことが起こったため、学びも多く、収穫の多いラリーでした」
◆宮本昌司(チーフメカニック)
参戦テーマ:新たな目線を養う。他チームの車両作り、サービス時のメカニックの動きを観察し、学びにつなげる
「自分が初めてメカニックとしてラリーに参加した時も他のチームの作業を観察していたつもりでした。でも、当時は何も分からず、どこをどう見ていいかさえも分からない状態でした。ラリーカーの作り方や、ラリーの進め方を知ったうえで、他のチームを観察することは非常に大きな『学び』や『気づき』があります。特にグラベルラリーでは、ボディ下部を保護するガード類の装着の仕方には個性がありました。自分たちだけでは気づけなかったアイデアもあります。サービスに関しては、特に個々の能力がまだ足りていないと感じています。もっとひとりひとりが力をつけていかなければならないですね」
◆児島星(CVT担当エンジニア)
参戦テーマ:次戦・ラリー北海道に向けて、改善点の洗い出しをする
「今回、SSベストタイムを6回も獲得できたことは、CVT担当エンジニアとして励みになりました。次戦のラリー北海道に向けての課題は、変速の追従性です。本来狙っている“美味しい”回転域があるのですが、現時点でそれが一定にならず、ドライバーにとっては運転しにくい局面があるようです。かなり難しいチャレンジですが、実現できるように狙っていきたいです。シーズンが進み、データの蓄積が増えてきたことで、ドライバーからのリクエストに対し、制御側でどう対応するのか、ずいぶん分かってきました。次戦は長くタフなラリーですが、完走はもちろん、さらに上の成績を目指したいですね」
◆豊田耕司(コ・ドライバー)
参戦テーマ:TGR Vitz CVTにとって初の未舗装路となるが、トップから1kmあたり0.5秒差を目標にプッシュする
「パンクによって、クルマにダメージを抱えた状態で走ったコース以外は、かなり良い走りができました。SSベストタイムも6回獲得しています。我々が予想していた以上に車両がグラベル路面に合っている印象です。クラッチやシフト操作がないことで、ハンドル操作とアクセル・ブレーキ操作に集中し、理想のドライビングに近づくことができているようです。今回、機構的な面でデメリットは一切感じませんでした。μの低い路面でパワーが適度に逃げてくれるようで、CVTはターマックよりもグラベルの方が合っているのかもしれませんね。次の北海道に向けて、かなりポジティブなラリーになったと思います」
PICK UP
あの日見た“世界”を目指す、山本悠太(Sammy☆K-one☆ルブロスYH86)
2016年シーズン、トヨタ86で全日本ラリー選手権JN2クラスにデビューを果たすと、出場2戦目のモントレーで勝利、今季は同じ86でJN4クラスにステップアップを果たした山本悠太選手。今シーズンは第5戦モントレーで2年連続優勝を果たし、現在JN4ランキング2位につけている。
山本選手は、両親がダートトライアルのドライバーだったこともあり、18歳で免許取得後すぐにダートトライアルへの挑戦をスタート。2013年、2014年と全日本ダートトライアル選手権N1クラスで年間チャンピオンを獲得し、2015年に行われた「TOYOTA GAZOO Racing チャレンジプログラム」のオーディションに参加した。
「この時の経験が現在につながる一番の大きなきっかけになりました。『自分はラリーをやるんだ』という覚悟ができました」と、山本選手は振り返る。彼が所属する「K-one Racing Team」の小菅英久代表は「我々はダートトライアルやジムカーナ、86/BRZレースなどで活動してきたチームです。でも、山本選手の熱意や色々な巡り合わせもあって、2016年から全日本ラリー選手権への参戦を決めました。彼の才能には驚いていますが、チームの成長も含めて、まだまだ伸び代があると考えています」と、目を細めた。
今回のラリー洞爺は山本選手にとって初のグラベルラリー。「洞爺だけでなく、グラベルラリー自体も初参戦となります。とにかく少しずつ成長していきたいです」と語っていたが、SS2でパンクを喫してリタイア。しかし、ラリー2日目に再出走を果たし、その日を走りきって次戦への準備を整えた。そんな中、山本選手は「僕はフィンランドで行われたチャレンジプログラムのオーディションで見た光景が忘れられません。あの時、触れた、聞いた、過ごした“世界”で、いつか自分も走りたいと思っています」と目を輝かせる。その視線の先に“世界”を据えた彼が、さらに上の舞台で戦う姿を見せてくれる日も、そう遠くなさそうだ。
もっとラリーを楽しもう
今季の全日本ラリー選手権初の未舗装路での開催となったラリー洞爺。今年から、新たに洞爺湖町から北西に50kmほど離れた蘭越町でのSSが加わりました。蘭越町の中心部にはラリーカーやドライバーを間近で見ることのできる「ラリーパーク」が設置され、近隣住民の皆さんもラリーを身近に感じることができたようです。また、蘭越町の林道に設定されたSSの「MAGNOLIA」は、これまでのラリー洞爺にはないタイプのSSということもあり、多くのファンがラリーカーの迫力あふれるアクションを堪能していました。
洞爺湖町のサービスパークに隣接するスーパーSS「NEW VOLCANO」は3日間で競技が3回行われ、こちらにもたくさんのファンが集まり、砂塵を巻き上げながら走るラリーカーに歓声を送っていました。また、スーパーSSの会場を使って高校生以下を対象とした「コ・ドライバー体験」が行われるなど、大いに盛り上がりました。
次戦予告
- 9月15~17日 全日本ラリー選手権 第7戦
- 「RALLY HOKKAIDO 2017」
9月15日~17日に開催される第7戦「RALLY HOKKAIDO 2017」。Rd.6 洞爺に続くグラベル(未舗装)ラリー2戦目で獲得ポイントが2倍となる大一番。各チーム、戦略・戦術を駆使して2017シリーズの行方を占うこの重要な一戦に臨む。また、APRC(アジア・パシフィック ラリー選手権)とJAFのJRC(全日本ラリー選手権)を併催する国際ラリー大会として参加車両のスケール感も注目のラウンドとなる。北海道らしい広大な自然のなかに設置される各種観戦コースはもとより、イベントも盛りだくさん。初秋の北海道の魅力とともに激戦が予想される本格グラベルラリーを現地にてぜひご堪能ください。
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全日本ラリーとは
日本の林道を疾走する、国内最高峰のラリー競技、全日本ラリー選手権 -
チーム
2015年4月、トヨタに発足した凄腕技能養成部の社員メカニックが、全日本ラリーにメカニックとして参戦。競技中に整備や修理などを行うサービス作業だけではなく、実戦の経験を積みながらラリーカーを製作するなど、ラリーを通じて様々な技能を学んできた。