Vol.06

6年ぶりのニュル挑戦(1/3)

「TOYOTA GAZOO Rookie Racing(TGRR)」
としての参戦

6年ぶりの挑戦となる2025年のニュルブルクリンク24時間耐久レース。その体制はトヨタ自動車社員で構成される「TOYOTA GAZOO Racing(TGR)」に加えて、プロのレース集団である「ROOKIE Racing(RR)」が合体した「TOYOTA GAZOO Rookie Racing(TGRR)」としての参戦である。

TGRとRRのコラボレーションと言うと21年からスーパー耐久のST-Qクラスに参戦するカローラH2コンセプトを思い出すが、これまではRRがGRの開発委託を行なうと言う関係だった。それに対してTGRRは組織の枠を取り払い、より一体化された体制だ。つまりトヨタのエンジニア/メカニックとRRのプロフェッショナルが「もっといいクルマづくり」と言う同じ目的に向かって、“役職”ではなく“役割”で集まった集団だ。

どちらにも役割を持つモリゾウは今回の挑戦に「我々の『もっといいクルマづくり』はここから新たなスタートをする」と宣言した。なぜ、新たなスタートなのか?それはこれまでのGRのニュル24時間の歴史を振り返ると見えてくるものがある。

2007年の初挑戦はモリゾウこと豊田氏とマスタードライバーの成瀬弘氏(故人)が立ち上げた“元祖”GAZOO Racingによるものだった。その目的は「人とクルマを鍛え、もっといいクルマづくりに繋げる事」、つまり究極の人材育成を行なう事だった。

2008年からこの活動に関わり、2025年はTGRRのGMを務める関谷利之はこう振り返る。
「当初のニュルの活動は現場の人間が主体でした。これは成瀬さんの『エンジニアを育てるためには、まず現場の人間が育たないとダメ』と言う考えによるものです。我々現場の人間は試作(=一品モノ)ではいいクルマを作ることができますが、それを量産化するのはエンジニアじゃなきゃできません。そのため、成瀬さんはまずは現場の人を鍛え、そこで鍛えられた我々がエンジニアを育てると言う流れを作ろうとしていたと思います」。

良く言えば“裏番組”として、悪く言えば“ゲリラ的”にスタートしたニュルの活動だったが、それが故に社内からはトヨタの名を使うことは許されず、自らを「GAZOO Racing」と名乗った。一見ワークスのように見えるが完全なプライベーターで、マシンはネッツトヨタ群馬から購入した2台の中古のアルテッツァ、参戦の費用は自らスポンサー活動を行ない捻出しての挑戦だった。

モリゾウの言葉を借りると「孤独な戦い」としてのスタートだったが、その活動は徐々に理解され支持者が少しずつ増えていった。そして参戦10年目となる2016年にトヨタの名を冠したTOYOTA GAZOO Racingとしての参戦となった。マシンも発売前のプロトタイプを鍛えるだけでなく、将来のための先行技術も投入されるようになった。

しかし、この挑戦が定番化されるとその規模は良くも悪くも大きくなり、本来の趣旨とは違う方向に進もうとする流れがあったのも事実である。

モリゾウはこのように語る
「レースと言うとすぐに“結果”を求める人がいますが、私はそこに至る“プロセス”が重要だと考えます。そして、この活動で最も大事な事は、ここがゴールではなく『もっといいクルマづくり』のスタート地点であると言う事。これが理解できないとやる価値はありません。残念ながら長く続けてきて、この活動の意義が希薄になり、『ちょっと違うよね?』と言った反省もありました。だからこそ今、原点(モータースポーツの現場で進めるもっといいクルマづくり)に戻るべきだと」。

今回参戦するマシンは109号車のGRヤリスDATと110号車のGRスープラGT4 EVO2。これに109号車をサポートする382号車GRヤリスDATを加えた3台体制となる。109/110のゼッケンは2007年に初めて参戦した時の2台のアルテッツァと同じで、ここにも原点の意味が込められている。ちなみに109号車には「MORIZO」の横に「H.NARUSE」のネームステッカー、ピットには赤いレーシングスーツを身に纏った成瀬氏の写真、ピット2階のラウンジには成瀬氏のTGRR仕様のレーシングスーツが飾られている。そう、チームは今も成瀬氏と一緒に戦っているのだ。

109号車のルーフの「H. NARUSE」のステッカー

過去のニュル24時間参戦マシンを振り返ると、レクサスLFA、86、GRスープラと言った発売前のプロトタイプに加えて、LFA CodeX(2014/2015年)やLCをベースにした開発車両(2018/2019年)と比べると今年のマシンは“大人しいクルマである印象”だ。チーフエンジニアの久富圭はこのように語る。
「GRヤリスはレースやラリーなど様々なモータースポーツを通じて鍛えてきましたが、ニュル24時間はコロナの影響もあり参戦をしていません。我々がモータースポーツを起点に開発してきたGRヤリスが『ニュルでも通用するのか?』を確認する事もミッションの1つです。そのためマシンはレースのレギュレーションに合わせてアイテムを追加した以外は、基本的には量産スペックです」。

チームは2023年秋からクルマづくりや国内外でのテスト、そして4月のNLS参戦などを含めて入念に準備を進めてきた。久富は更に付け加える。
「実はテストの時は色々なトラブルが発生、テストをしに来たのに全くテストにならない事もありました。ただ、自分が救われたのは石浦/大嶋選手はニュルを過去に経験しているので、『日本のサーキットではそうかもしれないけど、ニュルでは違うよ』とアドバイスを頂きながら開発できたのは大きかったです。もちろん、現時点でもまだまだな部分はありますので、レースウィークを通じて色々と学んで帰りたいと思っています」。