スポーツ走行ガイド Vol.2 事前準備

まずはスポーツ走行するサーキットや、走行会イベントを選ぼう

●走行場所について

サーキット走行を始めるうえで、まずはどのサーキットを走るかを決めましょう。国内には、富士スピードウェイ(FSW)や鈴鹿サーキットやモビリティリゾートもてぎなど、F1やSUPER GTなどのレースも行う全長約4〜5kmの本格的な国際格式サーキットから、筑波サーキットやエビスサーキットなど全長約2km前後のサーキット、本庄サーキットや幸田サーキット、つくるまサーキット那須など全長約1km前後のショートサーキットまで大小様々なサーキットがあります。

規模の大きいサーキットの場合、コース幅やエスケープゾーンが広いのですが、最高速度やコーナリングスピードが高いコーナーが多く、エンジンやサスペンション、駆動系に大きな負担がかかるのが特徴です。逆にショートサーキットの場合は、最高速度やコーナリングスピードは大きなサーキットよりも低く抑えられている一方で、コーナーが連続しているため、ブレーキに大きな負荷がかかりやすいのが特徴です。また、エスケープゾーンが狭い場合もあるので、注意が必要です。

富士スピードウェイ

内外の様々な格式のレースから一般向けスポーツ走行など幅広くサーキット体験を提供している富士スピードウェイ(Yaris Cupにて)

上記はほんの一例、日本全国で大小様々な個性的なサーキットがたくさんあります。
ぜひお近くのサーキットをネットなどでチェック!!

また、大小問わずサーキットのフリー走行枠を使ってスポーツ走行する場合、多くのサーキットで専用のサーキットライセンスを取得することが必要となります。皆が一度は走行してみたいと憧れるFSWを例に挙げると全長4.563kmのレーシングコースを走るためにはFSWが発行するFISCOライセンスを取得することが必要となります。FISCOライセンスは、一般走行マナーやサーキット規則、サーキットの形状など、スポーツ走行を行ううえでも必要不可欠なルールや注意事項などの講習会を受講することで取得できます。。このFISCOライセンスを取得すると、FSWが設定しているスポーツ走行枠でサーキット走行を楽しむことができます。ライセンス取得料金は、入会金1万3100円、年会費3万400円、合計4万3500円となっています(2023年3月1日時点)。

モータースポーツは車両の準備や、後述のドライバー装備など、最初は何かとお金が掛かるスポーツなので、始めのうちは地元のショートサーキットなどで腕を磨いて、それからFSWのような国際サーキットデビューというのもおすすめです。

ショートサーキットの良い点は金銭面の負担が少ないだけでなく、1周の距離が短い分、決められた走行枠の中で、同じコーナーを何度も走ることができる点も挙げられます。さっきは上手く曲がれなかったコーナーが次の周は上手く曲がれたといった具合に、成長を実感しやすい点も入門者には嬉しいポイントです。

●おすすめの走行会

「サーキットライセンスは高額だし、なんだか敷居も高そうなので、もっと気楽にサーキットを走りたい」という方や、「最初はクルマにトラブルがあると不安。経験がある人と一緒に走りたい」という方には、自動車メーカーやタイヤメーカー、ディーラー、ショップなどが主催するサーキット走行会もおすすめです。サーキット走行会は、サーキットライセンスを取得していなくても当日の参加費だけでサーキットを走行できることが多く、サーキットに慣れていない初心者の方にもオススメです。

例えば、TOYOTA GAZOO Racingが主催する「TOYOTA GAZOO Racing Driving experience」(TGRD)は、クルマの「止まる・曲がる・走る」の基本動作から、よりハイレベルで実戦的なドライビングテクニックまで、参加者のレベルに合わせてレッスンを受けることができるプログラム。全国のサーキットで現役のプロドライバーを講師として迎え、幅広いレベルでのドライビングスキルの向上やスポーツ走行などの非日常を体験することができる走行会です。2022年は、FSWと筑波サーキット、モビリティリゾートもてぎの3カ所で開催。本格的にサーキットデビューを目指すドライバーにおすすめのプログラムとなっています。

もっと気軽にサーキットを体験してみたいという方には、全国各地のGR Garageが開催しているスポーツ走行会もオススメ。走るだけではなく、各サーキットごとに入門するための手順をサポートしてくれる役目もあるので、特にスポーツ走行入門者には最適です。参加費も比較的安価で、定期的に開催しているお店も多くあるので、日程などの詳細は、全国のGR Garageにお問い合わせください。

Driving experience

クルマの『走る・曲がる・止まる』の基本操作から、よりハイレベルで実戦的なドライビングテクニックまで、自分のレベルに合わせてレッスンを受けることができるプログラムです。

GR Garage

GR Garageは、幅広いお客様にクルマの楽しさを広めるTOYOTA GAZOO Racingの地域拠点です。

スポーツ走行に出かける前に、しっかりと準備しておこう

●ドライバーの装備をそろえよう

サーキット走行には、危険が伴います。そのため、FIA公認やJAF公認の本格的なレースに出しているドライバーは、FIA公認のヘルメット、レーシングスーツ、レーシンググローブ、レーシングシューズ、アンダーウェア、ヘルメットの中に被るフェイスマスク(バラクラバ)などのレーシングギアを装着することが義務づけられています。特にレースで一番怖いのは車両火災で、いずれのレーシングギアも、機能性はもちろんのこと、厳しい耐火性基準をクリアした難燃性の高いものであることが大きな特徴です。

ただし、FIA公認のレーシングギアは、価格が高い商品が多いことも事実。本格的にサーキットを目指す方であれば、これらのレーシングギアは野球やサッカーなどのスポーツを行ううえでのユニホームと同じですから、あらかじめ安全性の高い物を揃えた方が良いでしょう。

その一方、「まずはお試し」という方であれば、例えば最も大切なヘルメットだけは最低限JISマークのあるもので、フルフェイスタイプを選びたい。その他はレーシングスーツでなくても長袖&長ズボンでも参加できる走行会もあるので、例えばレーシンググローブなど、比較的安価なギアから買い揃えていくのもオススメです。それでも、長袖や長ズボンの場合は可燃性の素材を使っているのも多いので、できれば作業用ツナギなど、耐火性が高い素材を使用しているものがオススメです。また、ヘルメットの中に被るフェイスマスクは、耐火性ももちろんですが、ヘルメットの中の汗を吸収してくれる効果もあり、価格も2000円から5000円程度と安価なため、ヘルメットを長持ちさせ、匂いを抑えるためにも、オススメのアイテムです。

FIA公認のヘルメット、レーシングスーツ、レーシンググローブ、レーシングシューズ、アンダーウェア、ヘルメットの中に被るフェイスマスク(バラクラバ)などのレーシングギア

WEC(FIA世界耐久選手権)での小林可夢偉選手の様子(中央)。最上位カテゴリでは最も厳格な基準の安全装備が求められる。

小林可夢偉選手(右)の首に装着されている装備は近年、各種競技カテゴリで義務づけが主流になっているFHR (Frontal Head Restraint systems)。首への衝撃を防ぐ。

ラリー競技で主流なのはオープンフェイス形式のヘルメット。いずれの形式でも高い安全性が求められる。

●車両の準備もお忘れなく

サーキット走行をする場合、クルマの準備も必要です。普段は便利なカーアクセサリーでも、サーキット走行では予期せぬトラブルの原因となってしまうケースが多いのも事実。芳香剤や両面テープなどで仮止めしているアクセサリーが、脱落してドライバーに向かって飛んでこないよう、あらかじめ外しておくことが必要です。また、最近はスマートキーを採用しているクルマも多く、万が一のアクシデントがあった時にスマートキーの行方が分からなくなるというトラブルもしばしばあります。サーキット走行する場合のスマートキーは、発見しやすい場所にしっかりと固定しておくこともオススメします。

サーキット走行の場合は、ブレーキングやコーナリングの時に大きなGがかかることもしばしば。どんなGに対してもドライビングポジションをしっかりと安定させることは安全性の向上にも繋がるので、バケットシートや4点式以上のシートベルトでドライバーをしっかりと固定することも重要です。純正シートと4点式シートベルトでもある程度ドライビングポジションを安定させることができますが、万が一クラッシュした際には、座面が深いバケットシートの方が、ドライバーがシートの座面から滑り落ちるサブマリン現象を防ぐ効果もあります。、それらの観点からバケットシート+4点式以上のシートベルトとの組み合わせが、サーキット走行時には、より適していると言えます。また、4点式シートベルトを装着する場合は、センターのバックルがしっかりと腰骨にかかるように調整してください。お腹の上にバックルがあると、万が一のアクシデントの際にサブマリン現象が起きやすくなってしまいます。自分の体型に合うよう、バケットシートに深く座った状態で、背中や腰が浮かないよう、肩ベルトと腰ベルトをしっかりと調整してください。また、万が一アクシデントが起きてしまった時には、頸部を守るHANSなどのFHR(頭頸部保護)システムが、命を守るうえでも有効と言われています。装着する際には、FHRシステムに対応したヘルメットとシートベルトを用意して下さい。

また、オープンカーの場合は、ほとんどのサーキットで4点式以上のロールバーを装着することが義務付けられています。安全性を確保するために、あらかじめ準備していくことが必要となります。

また、新車の場合はエンジンやミッション保護の観点でもいきなりサーキットでの高負荷な走行をするのではなく、一般道で部品が馴染むようエンジン回転数を抑えた低負荷の状態で慣らし走行を行うことをおすすめします。車種によっても異なりますが、一つの目安としては1000km程度は慣らし走行を実施した後のサーキット走行を推奨します。

ロールケージ(ロールケージパッド装着)は車両横転等、事故発生時に室内の変形を防ぎ乗員を保護します。

4点式シートベルトは走行時の運転姿勢を安定させるとともに緊急時、車外への飛び出しを防ぎます。
バケットシートは走行時、乗員の体をしっかり固定することで、運転姿勢を安定させます。シートとシートレールはメーカーで適合の取れたものをセットで使用してください。

●工具類はこれらがマスト

その他、サーキット走行を行ううえでは空気圧を測るエアゲージもマストアイテムのひとつです。サーキット走行では一般の走行よりも空気圧が上がることが多く、こまめな空気圧チェックも、安全にサーキットを走行するうえで必要な作業のひとつです。また、タイヤ交換やクルマを整備するうえで必要なのが、ジャッキと十字レンチ。車載のジャッキでもタイヤ交換することは可能ですが、サーキットの場合はできれば2輪を同時にジャッキアップできる油圧式のガレージジャッキの方が、安定性が高いです。また、タイヤ交換を行った際にはトルクレンチもマストアイテムのひとつ。ホイールナットを緩すぎず、締めすぎないことも、安全を確保するうえで重要です。布製の粘着テープやビニールテープは、バンパーやサイドステップのエアロパーツが破損した際、簡易的に修復することができるのはもちろん、走行会などでゼッケンをしっかり固定するためにも必要です。ゼッケンは、なるべく剥がれにくいようにしっかりと貼って下さい。

アクシデントが起きた場合にサーキットの係員や走行会のオフィシャルがすみやかにクルマを移動させるために、ほとんどのサーキットではクルマの前後に牽引フックを装着することが義務付けられています。純正工具にもネジ式の牽引フックが装備されていることが多いですが、固定式の場合は突起物にもなるので、可倒式の牽引フックや布製の牽引フックを、スポーツ走行の際にはあらかじめ装着しておくことをオススメします。

工具類の一例。必須工具のトルクレンチをはじめとした一式の他、走行カテゴリーに応じたアイテムを揃えている(TOYOTA GAZOO Racing 全日本ラリーチームメカニック所有)

タイヤの空気圧を測るエアゲージ。金属の棒状やダイヤル型など形式があるが、スポーツ走行で使用されるものの多くが上記画像のダイヤル型。

牽引フックの装着例(黄色点線内)。可倒式の牽引フックや布製の牽引フックなどあなたのスポーツ走行のスタイルに応じてチョイス。

●快適に過ごすためのアイテム

さらに、各種レンチやハンマー、プラグレンチなどの工具が入った工具箱や、エアポンプなどがあると便利。スポーツ走行の時はタイヤの内圧が上がるため、空気を抜いてエア圧を調整することが多いですが、スポーツ走行を終えてタイヤが冷えた時は、正規の空気圧よりも内圧が下がっていることもよくあるケースです。スポーツ走行だけではなく、自走で帰宅する際には必ずタイヤの内圧をチェックして、規定の空気圧よりも低い場合はエアポンプで空気を正規の空気圧まで充填してください。

参加台数が多い走行会の場合は、ピットガレージではなく駐車場の一角がピットになることもしばしば。その際には、ブルーシートやレジャー用の椅子などを用意しておくと使い勝手がいいです。夏場であれば、クーラーボックスやスポーツドリンク、タオルなどをあらかじめ用意しておくことも、スポーツ走行を快適に過ごすためには便利なアイテムです。

※本ガイドは一般的なスポーツ走行に関するルールや注意事項であるため、事故を完全に防げるとは限りません。
運転者は常に自らの責任で周囲やご自身のクルマの状況を把握し、安全にスポーツ走行をお楽しみください。