サーキットでの点検やチェックポイントを紹介
前回までは、サーキット走行会などのスポーツ走行に出かける前の事前準備や点検項目を紹介しましたが、今回はいよいよサーキット走行実践編です。サーキットに到着してからの準備、走行前の車両点検、スポーツ走行時における注意点、万が一のアクシデントやトラブルが起きた際の対処法、サーキット走行での基本的なマナーなどを紹介します。せっかくのスポーツ走行を楽しむためにも、ぜひ今回紹介することをサーキットでも実践してください。
1.走行前準備
●作業エリアの確認
サーキットに到着したら、まずは自分のピットエリアやパドックエリアを確認してください。走行会の内容やサーキットの規模にもよりますが、屋根があるピットエリアを使用できる場合はそちらを使わせてもらいましょう。大規模な走行会ではひとつのピットを複数台でシェアして使用する場合が多いので、他の参加者の邪魔にならないように走行に必要のない工具やジャッキ、車内の搭載物などをピット内に整頓して降ろし、走行準備を始めて下さい。また、ピットエリアが使用できずパドックエリアを使用する場合も同様ですが、屋外ですので雨対策用のブルーシートなどを用意すると便利です。また、ブルーシートなどで荷物を覆う場合は、ブルーシートが飛ばされないように重しを置くなど、十分に注意してください。
●走行に不要な余剰品を下ろす
スポーツ走行する際には、走行に不要な装備品などを、可能な限り車両から下ろし、割り当てられたピットスペースやパドックスペースに保管するようにしてください。スポーツ走行は、一般走行よりも強いGがクルマにかかるため、カップホルダーのドリンクやオープン式のコンソールボックスに置かれたティッシュボックスなど、思いも寄らないものが車内に散乱し、ドライビングの妨げになることがあります。両面テープで固定している芳香剤なども、スポーツ走行では要注意です。また、スポーツ走行の際には純正マットを使用する事を強く推奨します。純正マットを使用している場合には、フロアマットフックがしっかり固定されているか事前確認をしましょう。
パドック・ピットスペースともに作業の際は他の車両の動きに十分注意を。
各種荷物を車外へ。
キーやアクセサリー類など固定されていないものはガムテープなどで固定する。
●ホイールナット締付
荷物を降ろしたら、まずはトルクレンチを使ってホイールナットをメーカー推奨トルクでしっかりと締まっていることを確認しましょう。推奨値よりも高いトルクでホイールナットを締め付けてしまうと、ハブボルトやナットのネジ山がつぶれたり、ホイールのテーパー部にダメージを与えるだけではなく、最悪の場合ハブボルトが折れて大きな事故につながることもあります。逆に推奨値より低いトルクで締め付けた場合は、ホイールナットが緩んだ状態となり、タイヤのブレや車体のガタつきなど、走行に支障が出ることがあります。また、最悪の場合、タイヤが脱輪することもあり、こちらも大きな事故につながることがあります。推奨トルクをしっかりと守りましょう。
また、スポーツ走行直後の高温状態で締付をすると、適切な締付トルクが出ない場合があります。トルクチェックは、ホイールナットが冷えている状態、つまり走行直後ではなく、次の走行セッション前の冷えた状態で行うことをお薦めします。また、スポーツ走行直後のホイールは熱くなっていますのでやけど等に十分注意してください。
トルクレンチを使用し規定トルクで締結されているかチェック。走行前後などホイール周辺も熱を持つので火傷防止のためにも作業グローブを。
車体下の液漏れチェックの様子。車高の状態によっては車載ジャッキなども用いて実施。
●液類漏れ(車体下)
Vol.5の走行前整備でも紹介しましたが、走行前の直前準備でも、エンジンオイルやミッションオイル、ラジエタークーラント等の液漏れチェックを行って下さい。特にエンジンやミッションの下まわりを目視で重点的に確認し、液漏れがないかをしっかり確認して下さい。液漏れがあった場合は、車両に異常がある可能性が考えられます。そのまま走行すると他の参加者にも迷惑がかかるので、走行は厳禁です。しっかりと液漏れの原因を突き止め、現場で修理が不可能の場合は、走行を取りやめて下さい。
●タイヤ空気圧
タイヤは、スポーツ走行を始めると路面とタイヤとの摩擦で熱が発生してタイヤの中の空気が膨張し、空気圧が上がるので、ピットインの時やインターバルの間にこまめに空気圧をチェック、調整することが必要となります。正しい空気圧を維持するために、まずは走行前のタイヤが冷えている状態の時に、空気圧をチェックするようにしてください。タイヤが冷えた状態(冷間)と比べて、スポーツ走行を行ってタイヤが熱を持った状態(温間)では空気圧は高くなりますが、空気圧が高くなりすぎることによってドライビングフィールが大きく変わってしまうような場合には、適正な空気圧まで下げる必要があります。走行後に空気圧をチェックまたは調整する場合は、ホイールが高温になっているのでやけど等に十分注意してください。
スポーツ走行を始めると熱が発生してタイヤ空気圧が上昇。ピットインの時やインターバルの間にこまめに空気圧チェックを実施。
GRヤリスの一部車種など、タイヤ空気圧センサーからの数値がインパネ内の「マルチインフォメーションディスプレイ」に表示される。
●タイヤの傷チェック
サーキット走行を行う前には、タイヤのトレッド面やサイドウォールなどに傷がないかどうかを、必ずチェックするように心がけて下さい。自走でサーキットまで向かう参加者はもちろん、搬送車などでサーキットにクルマを運んだ場合も、サーキット到着後にタイヤが異物を拾うこともありますのでチェックは必要です。さらにスポーツ走行中にも異物を拾う可能性も十分にあります。タイヤの空気圧チェックや締付トルクのチェックと同様に、タイヤの傷チェックも同時に行うことを心掛けるようにしてください。
目視だけでなく、指や手のひらの感覚も使って異物がないかチェック。
視点を変えて、タイヤ全体やホイールハウス内もチェック。
サーキット内だけではなく、日常の一般公道でもボルトやビス、金属片などタイヤの溝に紛れて、パンクの原因となる場合が多い。
取扱説明書を事前に参照のうえボンネットが適正にしまっているかもチェック。
●ボンネットの閉まりをチェック
スポーツ走行で意外と多いのが、ボンネットの閉め忘れです。走行前にエンジンルームの点検を行ったあとは、しっかりとボンネットが閉じていることを確認してください。ボンネットの閉まりが不十分な場合、走行中に風圧でボンネットが開いてしまうことがあります。フロントガラスにダメージを負うだけではなく、前方視界を妨げられ、非常に危険です。走行の合間にもエンジンルームを冷やす目的でボンネットを開ける場合も多いので、走行前には毎回、ボンネットがしっかりと閉じているか、実際にボンネットを触って確認してからコースインすることを習慣づけましょう。
●燃料残量の確認
サーキットでのスポーツ走行は、一般道を走る時よりもはるかに燃料の消費が早くなります。燃料の残量が少ない場合、スポーツ走行中にガス欠でコース上にストップしてしまう恐れがあります。また、車種によっては燃料の残量が少ない場合、コーナーで横Gがかかると燃料がタンクの中で偏ってしまい、ガス欠症状が出て、最悪の場合はエンジンにダメージを負うことがあります。走行前は、燃料の残量もしっかりとチェックしましょう。帰宅までの走行距離も考慮して、必要に応じてガソリン携行缶での給油も検討しましょう。ただしサーキットによっては、ガソリン携行缶による給油場所が指定されていることもあるので、必ず確認してください。
●運転支援システムの設定
技術の進歩により、最近の車両には衝突回避支援ブレーキ機能や高速道路などで走行車線をキープするレーントレーシングアシスト(LTA)や、横滑り制御機能(VSC)など、様々な安全運転支援機能が搭載されています。一般道では安全運転を行ううえでも大変有効な機能ですが、サーキットでは安全運転機能が作動することで、スムーズなスポーツ走行に影響がでることも考えられます。そこで、サーキットでスポーツ走行を行う場合、安全運転支援機能をカットすることも可能です。その際は、取扱説明書を確認して機能をOFFにしてください。OFFになっているかは、メーターパネルやマルチインフォメーションディスプレーのパネルで確認することができます。また、安全運転支援システムはエンジンを切ると設定が元に戻る場合が多いので、その際には次の走行前に都度、設定を確認するようにしてください。
逆にスポーツ走行を終えて帰宅する際は、あらためて各種機能がONになっているかをしっかりと確認してから一般道を走行しましょう。
トラクションコントロール(TRC)および横滑り制御機能(VSC)のON/OFFスイッチ例。機能の有無、操作方法等、詳しくは所有車の取扱説明書を必ず参照を。
トラクションコントロール(TRC)および横滑り制御機能(VSC)のOFF状態の例(赤点線内)。機能の有無、操作方法等、詳しくは所有車の取扱説明書を必ず参照を。
レーントレーシングアシスト(LTA)ON状態(上)とOFF状態(下)の各例(赤点線内)。機能の有無、操作方法等、詳しくは所有車の取扱説明書を必ず参照を。
2.走行編
●コースの確認
走行前準備も終わり、いよいよ走行開始となりますが、その前にコースレイアウトや危険ポイント、天候や路面コンディションをしっかりと把握してからコースインすることを心がけて下さい。これらのインフォメーションは、走行会によっては事前にドライバーズブリーフィング等で事前に主催者やサーキットスタッフから説明されることもありますが、そういったブリーフィングがない場合でも、ドライバー自身が事前にチェックすることやスタッフに問い合わせることが、安全な走行につながります。ミニサーキットなどでは、走行前に慣熟歩行が行われる場合もあり、その際には自分の目と足でしっかりとコース状況を確認しましょう。
ドライバーズブリーフィングではサーキット走行での各種注意などの講習が実施される。
コース上の注意や各種フラッグ(旗)の説明など。
注意すべきコーナー(上)や、路面・縁石の状態など(下)の説明も。
●走行時の注意
ピットロードでは他のクルマや人がいるので、危険がないよう徐行してください。これはピットからコースに出る時も、走行後にコースからピットに戻ってくる時も同様です。コースに合流する時は、コースを走っているクルマが優先です。走っているクルマとの速度差があるので、気をつけながらコースインしましょう。また、コースインして、いきなり全開走行というのはクルマに負担がかかるだけではなく、ドライバーも心と体の準備ができておらず危険です。まずは6~7割のペースでコースの状況や車両のコンディションチェック、タイヤやブレーキをしっかりと温めることを心掛けましょう。一方で車両にトラブルがない状態での極端なスロー走行は周りとの速度差が大きくなり危険を伴います。また、タイヤやブレーキパッドを温めることを目的とした蛇行運転や急ブレーキはまわりへの迷惑行為になるのでやめましょう。ウォーミングアップ走行時は前後の車両にも十分注意を払うよう、心がけて下さい。また、スロー走行している際は、また、ウォーミングアップ中の走行ラインは、基本的にはそれぞれのサーキットルールが優先されますが、スロー走行中に後ろから明らかに速い車両が来た際には、ラインを譲るためにあわてて走行ラインを変えて抜かせるという意識よりも、いま走行しているラインをキープして、“抜いていってもらう”という意識の方が、より安全につながります。また、走行会の規模や形式によっては、各ポストでグリーンやイエローフラッグなどが振られることもあります。ホームストレートでは、チェッカーフラッグやレッドフラッグが必ず掲示されます。タイムアタックに入る前に、各ポストの位置や状況などもチェックすることを心がけましょう。
ピットロードでは他のクルマや人がいるので、危険がないよう必ず徐行を。
コース内のポストの例。必ず各ポストの場所の確認を。
ポストでの赤旗(レッドフラッグ)とサインの表示。
●ウォーミングアップ走行中の車両チェック
コースインし、実際に走行する最初の周回が、ウォーミングアップならびに最後の車両チェックとなります。ここでクルマの異常、あるいは違和感を感じた際には、必ずピットインし、あらためて車両チェックを行うようにしてください。車両に異常がある状態でのタイムアタックは、非常に危険です。同時に、ドライバー自身の体調に不安がある場合も必ずピットに戻りましょう。慣れるまでは、まずは安全運転でクルマとドライバーのウォーミングアップを行ってください。
また、ウォーミングアップも含めてコースを走行する場合は、レース用のウィンドウネットを装着していない限り、運転席側のウィンドウを開けるのはNGです。コースイン前に、全閉になっていることを確認してください。
●全開走行
コースインしウォーミングアップおよび車両チェックを終えたらいよいよ全開走行に入ります。
また、全開走行といってもいきなり限界を攻めるのではなく、徐々にスピードを上げながらタイヤのグリップを確認して走行するようにしましょう。無理をしてまわりのクルマのペースに合わせるのではなく、自分のスキルと相談しながら全開走行を楽しんでください。
いきなり全開走行を行うのではなく、徐々にスピードを上げながらタイヤのグリップを確認して走行。
タイムアタックする際は前走車を抜く意識ではなく、前走車との間隔を十分に確保してからアタックモードに。
スポーツ走行はレースとは異なりますので、前走車を追い抜く意識ではなく、前走車との間隔を十分に確保してからタイムアタックに入るということも、安全を確保するうえでは重要です。スロー走行している車両やスピード差が大きい前走車に追いついた場合、無理にコーナーの進入で抜くのではなく、コーナーの立ち上がりやストレートなど安全に抜ける場所で追い抜くことを心がけて下さい。また、走行会ではセッションの終了を知らせるチェッカーフラッグと、アクシデント等によりセッションの中止を知らせるレッドフラッグなどが、ホームストレートで振られます。チェッカーフラッグやレッドフラッグが振られた時は、次の周回で必ずピットに戻ってきて下さい。
また、走行会の規模やレース形式の走行会などでは、コース上の各ポストで車両トラブルなどでコース上に止まった車両やランオフエリアに停止した車両がある場合、危険な状態をドライバーに知らせるイエローフラッグや、イエローフラッグを解除し、安全な状態を知らせるグリーンフラッグが掲示されることがあります。イエローフラッグが提示されている区間は、確実にスピードを落として安全を確保してください。
イエローフラッグが提示されている区間は、確実にスピードを落として安全を確保。
サーキット走行では競技専用車両で参加するなど様々なドライバーが集うのも魅力のひとつ。
ルールを守り、安全にサーキット走行を楽しみましょう。
このように、サーキットでは、様々なフラッグが使われます。フラッグの意味を知っていないと周囲に迷惑をかけてしまうだけでなく、時には不要なクラッシュに巻き込まれてしまう可能性もあります。コース上で使われるフラッグは9種類程度とそれほど多くありません。、せっかくの機会なのでフラッグの意味をしっかり覚えておくと良いでしょう。最低限、スポーツ走行などの走行会でもチェッカーフラッグとレッドフラッグ、イエローフラッグは、ドライバーがしっかりと確認するよう心がけて下さい。
レッドフラッグ(赤旗)
走行中止。ドライバーはただちに走行を中止し、オフィシャルから指示された場合はどの地点でも停止できる態勢でスタートラインまで徐行して停止すること。
イエローフラッグ(黄旗)
危険信号、徐行せよ、追い越しを禁止。
グリーンフラッグ(緑旗)
前に合図した危険の解除。
白と黒のチェッカー旗
競技終了の信号。
●クーリングラップ
全開走行で周回を重ねると、エンジンの油温や水温が上昇します。また、タイヤやブレーキにも負担がかかります。サーキット初心者のなかには、タイムアタックに集中しすぎて何周も全開走行を繰り返す人もいます。全開走行を続けるとクルマに大きな負担がかかるだけではなく、ドライバーの体力と集中力も落ちてしまい、タイムが伸びないことが多くなります。そういった状態になった時は、アクセルを緩めエンジンに負担がかからない程度にクーリング走行を行い、クルマの温度を下げドライバーのコンディションも整えてください。温度が上がったまま全開走行を続けるのは危険です。その際は、ウォーミングアップと同じく6〜7割のペースで走ると良いでしょう。クーリングラップ中は、ウォーミングアップ走行と同じく無理に走行ラインを変えて後続車両に道を譲るのではなく、安全な場所で抜いていってもらうことを心がけて下さい。“コーナーの進入で後続車に追いつかれた場合は、そのままコースのアウト側をキープしてイン側を開ける”、“ストレートで追い付かれた場合は走行しているラインをキープして抜いていってもらう”など、ケースバイケースではありますが、安全に抜いていってもらうことを心がけて下さい。抜いてもらうために、急なブレーキをかけてスピードを落とすといった行為は、逆に危険です。極端に加減速することなく、走行することを心がけて下さい。チェッカーフラッグが終わって、ピットインする際も同様です。
また、ピットインする場合は、早めのウインカーでまわりのクルマや後続車にピットインする意思を伝え、ピットロードでは十分な徐行運転を行いましょう。また、ピットレーンの入口にスムーズに入ることができるよう、走行ラインを制限しているサーキットもあります。ピットインする際の走行ラインも、実際にコースインする前にしっかりと把握しておくことが重要です。
●スピンやコースアウト時の対応
サーキット走行中に万が一スピンやコースアウトをした場合は、落ち着いて安全を確認しコースに復帰し、必ずピットに戻り車両の状態をチェックしてください。特にコースの外にあるランオフエリアを走行してしまった場合は、車両に砂利や草が絡んでいることが多く、そのまま走行するとコースに砂利や草をまき散らして他の参加者に迷惑をかけることになるので、必ずピットインして車両に巻き込んだ砂利や草などを清掃するようにしてください。
また、スピンした際にエンジン停止した場合は、走行前準備の8.運転支援システムの項で記載した通り、各種設定がリセットされる場合があるので、ピットに戻って設定を再確認しましょう。
●走行の間にやっておきたいこと
多くの走行会は、15〜30分程度の走行枠を何度か走ることになります。1回の走行枠を走り終えると次の走行枠まである程度時間がありますが、その間はドライバーの休息だけではなく車両の休息とメンテナンスもしっかりと行うようにしてください。スポーツ走行はエンジンやブレーキが高温になるので、ピットやパドックに戻ったときにはボンネットを開けてエンジンの熱を逃がしたり、ブロワー等でブレーキを冷やして車両のコンディションを整えるのも良いでしょう。できれば十分な冷却時間を確保するという観点で、走行と走行の間は45分程度の間隔を開けることを強く推奨します。また、次の走行に向けた走行前準備も、手順は前述したとおりです。ホイールナットのトルクチェック、タイヤの空気圧や傷のチェック、車両下の液類の漏れなど、一連の確認事項をルーティンにすると、スポーツ走行をより安全に楽しむことができるでしょう。
3.走行後整備
●ホイールナット締付
スポーツ走行は車両に大きな負荷がかかるため、安全に帰路につくためにも走行後の車両整備は重要です。ホイールナットは、素材によってスポーツ走行で極端に熱がかかった場合、走行後に緩む場合があります。トルクレンチを使って推奨トルクで締まっていることを確認してから帰宅して下さい。
●液漏れ(車両下)およびエンジンオイル量
走行前準備や走行間の車両点検と同じく、車両下の液漏れチェック、エンジンオイルの量などのチェックも、一般道でのトラブルを避けるためにも行いましょう。エンジンオイルが減っている場合は、補充してから帰路についてください。エンジンオイルが著しく減っている場合は、エンジンが破損する場合もあるので、お近くのGR Garageや車両整備工場で点検することをお薦めします。また、車種や車両の状態によってはブローバイガスがエアフィルターに付着している場合もあるので、エアクリーナーのチェックもお忘れなく。
●ブレーキまわりおよびブレーキパッド残量
ブレーキも、スポーツ走行では大きな負担がかかります。ブレーキパッドの残量や、高温による炭化などブレーキパッドの状態、ブレーキキャリパーまわりにオイルの滲みがないかなどを確認してください。また、ブレーキフルードが沸点に達し、気泡が発生してブレーキの効きが悪くなる症状が発生することがあります。ブレーキペダルを踏んだ時にふわふわするような感じになる、ブレーキペダルを何回踏んでもペダルタッチが固くならず、ペダルが底付きするまで深く踏めるようになった時は、ブレーキフルードにエアが噛んでいる可能性があります。ブレーキの効きが甘い状態で走行するのは危険ですので、GR Garageや車両整備工場で必ずエア抜き作業を依頼するようにしてください。
わずかな隙間だがブレーキキャリパーのブレーキパッドの残量が確認できる。
ミニサーキットなどはサーキット内にガソリンスタンドが設置されていないケースが多いため事前に確認を。
●タイヤ空気圧およびタイヤ残量
スポーツ走行を行っている時はタイヤの温度が上がり空気圧が上昇するため、空気を減らす方向で調整することが多いです。そのためタイヤの温度が冷えた時には、規定よりも空気圧が低くなっているケースがほとんどです。帰路につく前に、冷間時で規定の空気圧になるようにサーキットで調整してから、一般道を走行するようにしてください。また、スポーツラジアルタイヤのなかには、スポーツ走行時の摩耗が激しいタイプのタイヤもあります。特に、ユーズドタイヤは注意が必要です。スリップサインが出た状態で一般道を走るのは法定違反にもなりますので、スリップサインのチェックも必ず行って下さい。サーキット内での点検項目と同じく、トレッド面やサイドウォール、タイヤ内側などの傷も同様に確認が必要です。特に、自分自身はクラッシュ等のアクシデントがなくても、他車のパーツの破片などをタイヤで踏んでしまい、スローパンクチャーのようにゆっくりと空気が抜けてしまうケースもあるので、要注意です。
●運転支援システムの設定
スポーツ走行中にLTAやVSCなどの運転支援システムをOFFにした場合は、設定を元に戻すことも忘れないようにしてください。特に、家族でクルマをシェアしている場合は注意が必要です。車種によってはエンジンを一度切り、エンジンをかけ直すことでOFFの設定がONになる場合もありますが、必ずメーターパネルやマルチインフォメーションディスプレーで設定がONになっているのを確認してから、一般道を走行するようにしましょう。
トラクションコントロール(TRC)および横滑り制御機能(VSC)のON状態のイメージ例(ス リップ表示灯が点滅)。機能の有無、操作方法等、詳しくは所有車の取扱説明書を必ず参照を。
レーントレーシングアシスト(LTA)のON状態の開始画面例(赤点線内)。機能の有無、操作方法等、詳しくは所有車の取扱説明書を必ず参照を。
レーントレーシングアシスト(LTA)のON状態の設定確認表示例(赤点線内)。機能の有無、操作方法等、詳しくは所有車の取扱説明書を必ず参照を。
GRコンサルタントからのワンポイントアドバイス
サーキット走行会などのスポーツ走行でのワンポイントアドバイスを現役GRコンサルタントからお伝えします。
今回はサーキット走行会開催中のGR Garage ASAHI(大阪市旭区)のお二人におうかがいしました。
GR Garage ASAHI(大阪市旭区)のGRコンサルタント 鵜野さん(左)と同じくGRコンサルタントの木津さん(右)
●GR Garage ASAHI GRコンサルタント 鵜野増一郎さん
Q:サーキットに行く前に点検しておくべきポイントを教えてください。
A:鵜野さん/いわゆる日常点検と言われるような、オイル量やウォッシャー液、タイヤの状態、ガタツキなどのチェックはマストです。スポーツ走行は皆さんの想像以上にタイヤに負担がかかりますので、十分に溝が残った状態での走行をおすすめします。ブレーキ残量についての判断も含め、難しいと思ったらGR Garageや販売店で聞いていただければと思います。
Q:サーキットに到着してから見るべき部分はありますか?
A:鵜野さん/空気圧チェックとホイールナットの締め付けは欠かさず行っていただきたいですね。空気圧は路面状況や天候、走行時にも変化していきます。ひとりで来て毎回エアをチェックするのは大変ですが、たとえば我々や販売店などが開催している走行会であれば、現場でアドバイスなどもすることができますよ。
Q:走行中に何か気をつけるべきことはありますか?
A:鵜野さん/スポーツ走行中は、日常走行ではしない臭いが少なからずするものです。たとえばタイヤやブレーキに熱が入って臭うこともあります。何を基準とするかは難しいところですが、いつもと比べて明らかにおかしいと感じたら、まずはクーリングしながらピットに戻って異常がないかを確認してください。
サーキット走行中のチェックなど、GR Garage主催の走行会なら現場でアドバイスを受けることができることがメリットのひとつと語る鵜野さん。
普段の運転から少しでも気になることがあったらぜひGR Garage ASAHI(大阪市旭区)をはじめ、全国GR Garageにご相談ください。
Q:スポーツ走行をした後、サーキットから帰る前に点検しておくべきポイントはありますか?
A:鵜野さん/まずはヘッドライトやフロントガラス、ウインカーなどに損傷がないか、バンパーや外装部品が外れかけていないか、公道の走行に支障がないかをチェックしてください。それに、走行前にもチェックしたタイヤの摩耗。空気圧も走行前後で変化しますので、各車の適正値に合わせて帰るようにしましょう。
Q:普段の運転から注意するところを教えてください。
A:鵜野さん/聞いたことのない音や異常な振動、臭いがするなどの違和感があったら、ぜひ私たちを頼ってください。ご自身で判断して『大丈夫だ』と思っても、大変なことになる可能性もあります。音や臭いについては普段の走行から気をつけておいていただきたいですね。
●GR Garage ASAHI GRコンサルタント 木津英晃さん
Q:サーキット走行に備えて、点検をお任せできるパックを展開しているそうですね。
A:木津さん/GR Garage ASAHIでは、サーキットをベストな状態で走るための『サーキットチャレンジメンテナンス』というパックを展開しています。『走行前』と『走行後』のメニューがあり、走行前にはエンジン関連/足まわり関連/ブレーキ&クラッチ/タイヤ/保安部品/アライメント測定など、計27項目のチェックを行います。走行後のメニューでは、走行前と同じ点検に加え、走行後の状態に合わせたアドバイスをさせていただいています。
Q:追加でのリクエストなどには対応していただけるのでしょうか。
A:木津さん/別途調整料などはかかりますが、アライメント調整も実施できます。安心を買っていただいている部分もありますので、なるべく柔軟に対応をしていきたいと思っています。
GR Garage ASAHIではサーキットにベストな状態で走るための『サーキットチャレンジメンテナンス』をご用意していますと語る木津さん。
『サーキットチャレンジメンテナンス』では走行前、走行後で各27項目をチェック。走行後はさらに車両の状態によりアドバイスもご提供。
Q:『サーキットチャレンジメンテナンス』の費用を教えてください。
A:木津さん/工賃、消費税込みで『走行前』が1万円、『走行後』が1万円です。前後をセットにしていただければ、1万5000円とさせていただいています。パックを始めて3年ほどですが、皆さまにご満足いただいています。
Q:内容を考えると非常にお値打ちですね。もっと色々な方に知ってほしい取り組みだと感じました。
A:木津さん/GR Garageをご存じない方にも来ていただきたいです。敷居が高く感じるかもしれませんが、お客様のなかには、GRヤリスではない5ドアのヤリスに乗っている方もいらっしゃいますし、『サーキットチャレンジメンテナンス』は少し年式の古い車両にも対応しています。サーキット走行を予定されている方はぜひご検討ください。
『サーキットチャレンジメンテナンス』オイルチェック/タイヤチェック
『サーキットチャレンジメンテナンス』ナット締結チェック/外装チェック
『サーキットチャレンジメンテナンス』タイヤ空気圧チェック
4.まとめ
スポーツ走行ガイドでは全6回にわたり、スポーツ走行を安全に楽しんでいただけるよう、事前準備からサーキット走行後の整備・点検、定期メンテナンスなど様々な注意事項をご説明させていただきました。
スポーツ走行では、日常の街乗りでの使用と比較してクルマ全体に大きな負荷がかかり、スポーツ走行特有の点検・整備が必要である一方で、基本となるのは日頃の基本的な車両点検の延長線上で安全なスポーツ走行が実現されることを知っていただけたと思います。
とはいえ、ご自身で点検するのが難しい場合や、クルマの異常や異音など少しでも気になる点があれば、お近くのGR Garage に駐在しているGR コンサルタントにぜひご相談ください。
TOYOTA GAZOO Racingは、これからも皆様のより安全で楽しいスポーツ走行ライフを実現するために様々なカタチでサポートしてまいります!!
※本ガイドは一般的なスポーツ走行に関するルールや注意事項であるため、事故を完全に防げるとは限りません。
運転者は常に自らの責任で周囲やご自身のクルマの状況を把握し、安全にスポーツ走行をお楽しみください。