「フォーミュラカー・ドライビングの基本」
緊張の初日。それを知る講師は話しやすい雰囲気を作る。
今年からカリキュラムが大幅にリニューアルされたFTRS。それに伴い講師陣の顔ぶれも変わった。土屋武士、平手晃平、小林可夢偉、中嶋一貴、石浦宏明、中山雄一という6人の講師を取りまとめるのが、片岡龍也主任講師。自らもFTRSを受講し初代のスカラシップ生となった片岡講師は、今年のFTRSの取り組み方についてこう語っている。
「今年の講師陣は、自分たちもFTRSを過去に受講したメンバーを揃えました。自分たちが経験したからこそ、このスクールで何を得て、今があるのかを知っています。事前に講師の皆さんとミーティングをして、受講生たちの未来を真剣に預かるという意識を共有してきました。彼らの人生を左右する3日間になるんだということを念頭に、アドバイスをしていきたいと思っています」
初日は開講式を終えると、フォーミュラカーを操作する基礎的な知識を学ぶ座学と、実際に3日間自分が乗り込むマシンのシート合わせ、そしてコクピットドリル(マシンの操作説明)からスクールが始まる。シート合わせでは、ペダルの位置や座った時の目線の位置をレクチャーしたり、事前に用意されているウレタンシートを、講師自ら受講生の体型に合わせて削る手伝いをする姿も。その後はコース説明を挟みながら、夕方までFCJ(フォーミュラチャレンジジャパン)で使用していた本格的なフォーミュラーカーを使っての走行練習が続く。それぞれの受講生には担当講師がつくが、ローテーションが組まれているのでどの講師からもアドバイスをもらいやすい環境だ。
とはいえ、初日はどの受講生も緊張の色が隠せず、またこれがフォーミュラマシン初走行という人もいて、目の前の走行に取り組むだけで精一杯の様子。コースサイドのポストに陣取る講師のもとへ、アドバイスを求めに来る受講生はそれほど多くはない。しかし、2001年にFTRSを受講しスカラシップを獲得した小林可夢偉講師は、その様子を普通に受け止めている。「初日はね、あんまり聞きに来る子は少ないですよ。でもこれが、最終日になると変わってくるんですよ」という。
FTRSで学ぶのは、技術だけではない。技術以上に大事な「意識の持ち方」について学ぶことも重要だ。「コーナリングセオリー」というテーマで行われた、田中実特別講師による座学は、スキルだけでなく「どうしたらレーシングドライバーになれるのか」、「どうしたら速く走れるのか」といった、"どうしたら"を考える力についての講義でもある。
田中講師によれば「レーシングドライバーとしての命(活動できる時間)」は、FTRSを受講している今この瞬間から約1,000日だという。その限られた時間で誰よりも前に進むには「絶対にレーシングドライバーになる」という気持ちの強さと、「そのためにはどうしたらいいか」を考えることが重要だ。ドライビングスキルを磨くのに必要な「速く走ろうとする気持ちの強さ」と、「人、クルマ、環境を自分の方に向けてもらう」という成功の方程式を説いてもらった受講生たちは、同じように与えられた時間をどんな意識で取り組むのか。翌日から、受講生たちの姿勢に少しずつ変化が見えてくるようになる。