「走行実技と講師陣との対話」
コースサイドで走りを見守り、講師は受講生たちの疑問に答える。
昨年までのカリキュラムと比較して、走行時間を大幅に増やしたという今年のFTRS。2日目は朝礼後、すぐに走行セッションが始まる。受講生たちは2組に分けられ、相手の組が走行している間はコースサイドで他人の走りを見たり、同じようにコースサイドで受講生の走りをチェックしている講師にアドバイスをもらいに来る。
2日目になっていくらか気持ちに余裕が生まれたことと、前日の講義で意識が磨かれたことで、受講生の姿勢も少しずつ積極性が見えるようになってきた。このようなアプローチも評価の対象なのだというのは土屋武士講師。
「レーシングドライバーとしてだけではなく、ガレージオーナーという目線からも彼らの姿を見るつもりです。『どの子を自分のチームで走らせたいか』。僕たちへのアプローチやその強さを見ています。そういうパワーの強さが、レーシングドライバーとしての魅力ですから」。
ただ、誰もがいきなり積極的に変われるわけではない。受講生それぞれにペースがあり、性格もある。だからこそ、片岡主任講師は「担当講師の入れ替え制」を導入した。「それぞれの受講生のため、個人個人にあった情報を提供できるような形を作っていきたいというのが、講師としてのテーマです」。
自ら質問をしてくる受講生はもちろん、まだ何を質問すればいいのか悩む受講生にも、講師側から積極的に声をかける。その言葉を頭に入れて自分の走行時間に備え、実践する。この繰り返しによって、はじめは受身の姿勢だった受講生たちがどんどんと言葉を投げてくるようになるのだ。その姿は「レーシングドライバーとしての成長」という言葉にとどまらず、「人としての成長」にも見える。
2日目夜の座学では、講師たちが自分たちのFTRS受講当時を振り返った。2015年のスーパーフォーミュラ王者、石浦講師は、実はFTRSの最終選考まで残るものの、最後の最後で落選。スカラシップを手に入れることができなかったドライバーだ。しかし、彼はここで終わらなかった。「レーシングドライバーになりたい気持ちや覚悟は誰にも負けない」と、自ら営業をかけてスポンサーを集めたり、F3やフォーミュラ・ニッポン(現スーパフォーミュラ)のオーディションを受けたりと動き回った。「この(FTRSの)オーディションはもちろん重要だが、これがすべてではなく、(FTRSを通じて)何を思って、どう動いたかということが大事だと思います」と、受講生に語りかける。
また、1年目の受講では落選したという中山講師は、「1年目に教えてもらったことをカートに応用させて、1年間カートを戦いながら腕を磨いた結果、2年目の挑戦で実力を発揮できた」という。
実は、講師だけでなくFTRSを運営するスタッフの中にもレース経験者は多い。まだFTRSが発足する前にレースの世界に身を投じて戦ってきた元ドライバーたちも、受講生たちに語るのは「気持ちの強さ」だ。
練習時間の先導走行やコースサイドでの旗振りなど、受講生たちのサポートに徹する山下健太、坪井翔（2人はF3参戦）、小高一斗、宮田莉朋（2人はFIA-F4参戦）ら4人は、つい数年前にFTRSを受講し、スカラシップというチャンスを掴み取った先輩たち。実際にステップアップを実現している彼らの姿を間近で見ることも、受講生たちの気持ちを一層高めてくれる。
最後に登壇した片岡講師は、自分のFTRS受講当時を振り返りながら、「最後の決勝レースで、自分の力を出しきれずに終わるのは嫌だったから、とにかく目一杯力を出し切ることだけを考えていました。明日の決勝レースでは、失敗を恐れずに自分の力を出し切れるよう、今夜はしっかりと準備をしてください」と締めくくった。
