No.02 Nothing is the same at high altitude クルマの限界を見た、高地

標高5640mのアタカマ天文台へ

未知の経験を求めて訪れた南米の中でも、“高地”での走破は、まさしく日本から遠く離れなければ体験できないものだった。ペルーは首都のクスコでさえ、標高が3400m。旅の最高地点となったチリのアタカマ天文台へと向かう途中、5000mを越えたあたりで、車両技術開発部の森本が運転していたRAV4が停まった。高地による酸素不足が、クルマに影響してしまった。
「クルマがクルマとしての機能を停止する境を、テストコース以外で初めて体験することができた」と、自身の体験を振り返る。

クルマだけではない。運転者のほとんどが、酸素ボンベをつけながらクルマを走らせている状況。まさしく極地なのだが、そこでもトヨタ車を走らせて働いている日本人がいた。東京大学アタカマ天文台(TAO)へと案内してくれた吉井教授は、「こんなところにもエンドユーザーがいることを知ってください」と語っていた。「トヨタ車は、このTAOプロジェクトの一員なんです」という激励の言葉に、クルマを作ることの意味を考えるメンバーたち。

高度の影響を語り合うメンバー

“クルマの限界”と表現する際にさまざまなベクトルがあるが、“高度”という視点は日本人には持ち難い。だが、「ここが本当に4000m級なのか、街中に比べると幹線道路の路面が整備されていてビックリした」と車両技術開発部の立松が語るほど、富士山の標高を超えるような地点にも人々の営みはあって、クルマを必要としている。頻繁に繰り返されるアップダウンでは、ガソリン車のパワー不足が議題に上がる一方で、ディーゼルエンジンの性能を改めて見直す結果となった。

高地という、新しい座標

土地に合ったクルマについて話す日本人メンバー。しかし、現地クルーからはパワー不足を指摘されることはない。それは運転の仕方の違いから来るものではないかと車両技術開発部の安達は指摘する。
「ペルーではカーブミラーをほとんど見ることがないですよね。事故への意識がとても高かったり、他車への意思の伝達が日頃から上手なんでしょう。追い抜きの際にもコミュニケーションをし合っているのを感じます」

では、日本と南米、どちらの意見に合わせてクルマを作るべきなのか? そもそも誰もが満足するクルマを作ることはできるのか? 求められる基準は一つではないことを如実に感じた高地での体験。新しい指標を体の深い部分に植え付けることになったはずだ。

crew’s VIEW 南米大陸で隊員たちが得たもの

高地ではエンジン出力低下とブレーキの効きの悪さを体感。空気抵抗が小さくなり、低地とは比較にならないほど空走するため、下りではエンジンブレーキを多用することになる。しかし、強いエンジンブレーキを引き出すまでに、複雑なシフト操作(RAV4だとD→S→B)をする必要があり、使いたい瞬間に使えないことがある。ステアリングから手を離さなくてもいいように、ステアリングにBレンジ&Sレンジ相当の切り替えボタンがあると運転しやすい。
2016.9.27 MSボデー設計部 / 国政孝幸

【写真】容赦なくパワーを奪う山岳路

海抜ゼロから一気に4000mまで駆け上がる。ずっと一人で運転している訳ではないが、やはり高地に行くほどパワーが落ちるのがよく分かる道。パワーの出る状態で行う坂路評価だけで○を出していたら、この国では通用しない。ちゃんとどこまでパワーが落ちるのかをしっかり考えた上で判断していかなければ、アンデス山脈のユーザー期待値は超えられない。
2016.10.5 ドライブトレーンシステム統括部 / 尾渡正和

【写真】エンジンブレーキ性能も低下 / 崩れかけている歩道

3000m級の山岳路を走行!所々に落石があるが、路面は整備されていて走りやすい。街中はバンプ&ポットホールなどで荒れており、走りづらい。今日はプラドに試乗した。ばね上の収まり、各操作系の遅れに少々手こずった。昨日同様、現地クルーたちの第1プライオリティは、ワインディングにおける追い越し時のパワーであると感じた。もっと細かくクルマを知るとさらに要求性能が高くなっていくだろう。
2016.9.28 凄腕技能養成部 / 田中英幸