ニュルブルクリンクへの挑戦 2010
VLN1レポート

2014.03.18 ニュルブルクリンクへの挑戦2010

GAZOO Racingのニュルブルクリンクへの挑戦は4年目を迎え、2007年からの一貫したテーマ、レースを通じた“クルマの味づくり”を胸に、今年も新しい戦いが始まった。5月に行われる「ニュルブルクリンク24時間レース」へ向けたテストを目的に4時間耐久シリーズ「VLN」3大会に出場、その開幕戦に密着した。

ニュルブルクリンクの魅力

ドイツのニュルブルクリンクで年間10戦が行われる「VLNシリーズ」の第1戦は、3月27日、気温9℃の曇り空の下で幕を開けた。日本では馴染みのない「VLNシリーズ」だが、出場車両の排気量が1400CCから6250CCと幅広く、ミニ、プジョー、ゴルフからBMW、ポルシェ、フェラーリ、アストン・マーティン、ダッヂ・バイパーに至るまで163台の多種多様なマシンが集まったことが証明するようにドイツでは非常に人気のある耐久シリーズである。

免許を取ってから日の浅い10代の若者から60代のベテランまでのアマチュア、プロを目指す者、現役のプロとドライバーの層も厚いが、それぞれがお互いを尊敬し合う気持ちがレースの安全性の最大のキーとなっているのも特徴である。ルーキーは先輩から先ず「バックミラーをよく見て、速いマシンの邪魔をしないように走れ」とアドバイスを受けるが、速いマシンを駆るドライバーたちは「スピードの遅いマシンをさり気なく抜いてこそプロ」と語る。

ニュルブルクリンクは、フランクフルトから北西に車で約2時間の森の中に位置する、1927年に開設された伝統的なサーキット。F1開催で知られる約5kmのグランプリコースとオールドコースあるいは北コースと呼ばれる約20kmを合わせたコースはもちろん世界最長である。170を超えるコーナーのほとんどが先の見通せないブラインドで、コース幅は狭く、アップダウンが連続し、路面にはいたるところに凹凸がある。だからこそ、世界中の自動車メーカーが走行性能の開発テストを繰り返し、得るものは大きい。

3年目のLFAにフレッシュな風

GAZOO Racingは2007年から、レースを通じた“クルマの味づくり”をテーマにニュルブルクリンクへの挑戦を行っている。今年のマシンはLEXUS LFA、昨年秋の東京モーターショーで世界限定500台の発売が発表され、これからデリバリーされる未販売車両は3年前からニュルブルクリンクのレースに挑戦しながら開発の仕上げを行ってきた。販売直前のクルマを一目見ようというこれまでの以上の視線とフラッシュを浴びながらLFAレース仕様車がピットに運び込まれた。

「VLN」シリーズ参加の目的は、2010年型ニューマシンのテスト、そして、新たにチームに加わった二人のドライバーのコース習熟と24時間レースへの参加資格の取得(2回の完走が必須条件)である。

8時30分からの予選では、先ず、ニュルブルクリンク3年目となる飯田章選手がコースイン。前日からの雨は上がり、ほぼドライコンディションと思われたが、開始と同時に小雨が降り始めウェットコンデションへ。雨の可能性から既にレインタイヤを装着していた飯田選手は、マシンチェックを行いながら8~10番手のタイムで順調に走行。

3ラップを終えて、ニュルブルクリンク初挑戦の脇阪寿一選手へステアリングを託す。脇阪選手は、昨年、GAZOO RacingのLFAで24時間レースに出場したアンドレ・ロッテラー選手のチームメイトで、共に国内最高峰のスーパーGTの2009年チャンピオン。飯田選手とも2002年に王座を獲得しておりチームからの信頼は厚い。前日に初めて数周走っただけの難コースをマシンの感触を確かめながら丁寧なドライビングで3ラップ、路面が少しずつ乾いてきたため順位はほぼ変わらないがタイムアップを果たす。

続いて、やはり初挑戦の大嶋和也選手へチェンジ。チーム最年少22歳の若手は、国内二つのトップカテゴリーで頭角を現してきたドライバーで、2008年にはドイツのケルンに住みヨーロッパのF3選手権を戦っていたこともあって、ひょうひょうとした表情でコースイン。この頃には、雨も上がり路面コンディションが一気に回復、各チームはドライタイヤへ交換してタイムアタック合戦が始まる。しかし、GAZOO Racingは大嶋選手のコース習熟という本来の目的を優先し、レインタイヤのままで周回を重ねる。終盤、大半のマシンが大幅にタイムを更新する中、予定の3ラップを終了。計測2ラップのタイム誤差が1秒もないドライビングにチームスタッフの表情も明るい。予選結果は総合52位/クラス1位。2時間後には早くも決勝レースを迎える。

気持ちを一つに、秘めたる戦いを

決勝直前の天候は曇り、気温9℃、路面温度は9℃とこの季節のレースとしてはかなり低く、ただでさえ滑りやすいコースがより一層難しい状況になっていた。定刻の12時に「VLN1」決勝レースがスタート。163台のマシンが様々なエンジン音を響かせながら第1コーナーへなだれ込んでいく。予選ではテストプログラムに専念しタイムアタックを行わなかったため本来より後方のグリッドからの発進となったGAZOO RacingのLFAは、経験豊富な飯田選手がスタート直後の混雑を見事にクリアしてペースを上げていく。

ところが、2周目に早くもピットイン。タイヤを交換して直ぐにピットアウト。次の周も再びタイヤを交換。これによって順位はほぼ最後尾まで沈む。取材陣や周辺ピットのチーム関係者が「トラブル発生か?」と集まってきたが、2回目のタイヤ交換後には納得した表情で戻っていく。この「VLNシリーズ」では本番の「24時間レース」へ向けての実戦テストを行うチームも多く、GAZOO Racingは序盤からタイヤのテストを行っていたのである。ニュルブルクリンクはレース開催時以外でも走行できるが、25kmもの超ロングコースを単独や少ない台数で走行してもレースへ向けてのデータが取得できないのが現実。しかし、「VLNシリーズ」では160台以上ものマシンがアクセル全開で戦うため路面のコンディション、例えば、タイヤのゴムが張り付いたコーナーやエンジントラブルによるオイルの飛散など、本番に近い環境下でのテストが可能で、さらにライバルとの比較もできる。

タイヤの他にマシンのチェックも行いながら約1時間経過した12時55分、飯田選手から脇阪選手へ交代。タイヤをまた新しいものへと交換して快音とともにピットアウトしていく。ニュルブルクリンクで初めてのレースとなった脇阪選手は、コース攻略と初めてのマシンの感触をつかむことが目的としながらも、序盤から安定したハイペースで走行。チームスタッフが、さすがスーパーGTチャンピオンと思わず声を漏らす。交代から約1時間後、50位前後まで戻したところで給油のためピットイン、燃費データの取得も今回の重要なテスト項目の一つである。

14時50分、トラブルなく完璧にテストプログラムを消化した脇阪選手が36位で最後のピットイン、タイヤ交換、給油を行って、交代した大嶋選手が勢いよくピットアウト。ピットロードを走るLFAのエキゾーストノートは独特の音で、ピットアウトの度にLFAの後ろ姿を見つめる、いや耳を向ける関係者やファンが多かった。大嶋選手は、初めてのコースとは思えないスムーズなドライビングで快走。その実力をよく知る飯田選手、脇阪選手をはじめ、チームスタッフも安心した面持ちでモニターを見つめている。

16時、「24時間レース」4連覇中のマンタイ・レーシングのポルシェにトップチェッカーが振られ4時間のレースが幕を閉じた。GAZOO RacingのLFAは序盤のタイヤテストのためにほぼ最後尾からの戦いながら、総合28位/クラス1位でテストプログラムを消化した。耐久レースでは前後に順位を争うライバルが不在の場合、早目にペースダウンするマシンも多いが、大嶋選手は全開でチェッカー。ひときわ甲高いV10サウンドの余韻と想いは、次なる戦いへと確実に繋がっていった。