木下隆之連載コラム クルマ・スキ・トモニ 169LAP

2016.04.12 コラム

HONDA GRMN S2000誕生か!

「スーパー耐久開幕、SPOONから打倒 TOYOTA GAZOO Racing 86で」

 2016スーパー耐久開幕戦ツインリンクもてぎ。久しぶりの国内レース復帰の緒戦として契約させてもらったのは名門・SPOONだ。マシンはホンダ!ホンダS2000で戦ったのである。
 残念ながら、結果は満足できるものではなかった。予選はミッショントラブルで計測できず。最後尾グリッドからのスタートを余儀なくされたし、決勝は、松井/中島の激走で一旦は5番手まで駆け上るも、徐々にエンジン不調の兆し、僕にステアリングを託された直後に症状が悪化、我慢のドライブを続けながら結局はクラス13位でゴール。なんとか完走したものの、自慢できる順位ではなかったのだ。
 もともと優勝候補の筆頭だ。マシンは速い。信頼性もある。たとえば一昨年の富士に、一度スポット参戦させてもらった時には、1スティントで19台ごぼう抜きをした。GAZOO Racing 86を駆る井口卓人をぶち抜いたりもした。その嬉しい記憶が鮮やかに残っており、今回も大いに期待して挑んだのだが、結果は残念。まあ、こんなこともあるさ…。

「木下人気の裏側で…」

 ともあれ、レース週の木曜日から、SPOONが基地を構える41番ピットには、たくさんの関係者やファンが訪れてくれたのは嬉しい誤算。カメラを持ち出してマシンを撮影してくれる人々が次々に訪れてくれたのだ。
 僕の人気もなかなかのものだわな…。ほくそ笑んだのである。
 だが、意外な人気の理由は、木下隆之久々の参戦を祝うものではなかった。
 実はブルーとイエローのSPOON伝統のマシンに、TOYOTA GAZOO Racingのステッカーロゴを貼っていた。ホンダのマシンにTOYOTA GAZOO Racingロゴ?その異例の組み合わせを一目見ようと、世間が反応したというわけだ。
 モーターレーシングは車両開発の場であるばかりか、走る広告塔としての効果がある。それゆえに、競合ブランドが重なることなどタブーだった。だというのに、ホンダのマシンにトヨタのロゴが貼られているなど、前代未聞である。
「SPOONのマシンにTOYOTA GAZOO Racingのステッカーが貼ってあるぞ」
 しかも、トヨタ自動車・豊田章男社長のサーキット名であるモリゾウのシールも添えてある。
 いきなりFacebookでは、S2000のフロントフェンダーにぺたりと貼られたTOYOTA GAZOO Racingのロゴがシェアされまくっていたし、AUTO SPORTは誌面展開もしてくれるという。サーキット内だけではなく、SNSを通じて世界に話題が駆けまくった。
 仕掛人はおよそ想像がつくことだろう。

 すわ、木下はTOYOTA GAZOO Racingからクビになったのか?そう心配する人もいた。中には深読みして、GRMN S2000の開発か?あるいはトヨタとホンダが業務提携か?と勘ぐる人もいた。 ここで断じて言っておくけれど、僕はTOYOTA GAZOO Racingをクビになっていないし(少なくともいまのところ…(笑))、GRMN S2000開発などこれっぽっちも感じていない。企業間の経営に関しては僕が立ち入る分野ではないが、それもおそらくないだろう。
 では、なぜホンダのマシンにTOYOTA GAZOO Racingのステッカーが?

  • ホンダS2000にTOYOTA GAZOORacingのロゴが参戦と輝く。世界初のコラボじゃない?
    ホンダS2000にTOYOTA GAZOORacingのロゴが燦然と輝く。世界初のコラボじゃない?
  • 予選最後尾に沈んだ僕のところに、TOYOTA GAZOO Racingメンバーが駆けつけてくれた。これこそがTOYOTA GAZOO Racingの精神かも…
    予選最後尾に沈んだ僕のところに、TOYOTA GAZOO Racingメンバーが駆けつけてくれた。これこそがTOYOTA GAZOO Racingの精神かも…
  • 一番美味しいフェンダーにペタリとね。夥しいシャッター音が響いた。
    一番美味しいフェンダーにペタリとね。夥しいシャッター音が響いた。
  • もちろんモリゾウステッカーもお守り代わりに…。
    もちろんモリゾウステッカーもお守り代わりに…。

「TOYOTA GAZOO Racingの精神を象徴する出来事…」

 理由はしごくシンプルである。
 TOYOTA GAZOO Racingの志は、クルマ応援団を増やすことなのだ。そのためならば、トヨタでもマツダでもスバルでもいい。もちろんホンダだっていいのである。
 実は参戦に際して前段がある。
 ホンダで戦うことをモリゾウさんに告げた。他メーカーで走ることを咎められるのではないかと心配していた。だが、モリゾウさんはこう言って僕を驚かせた。
「ホンダ? 問題? 何が問題なの? クルマスキを増やすことがTOYOTA GAZOO Racingの精神なんだから…」
 そんな話をSPOON代表の市嶋樹社長に告げれば、こっちも精神に違いはなく、一発快諾。前代未聞の夢のコラボは、クルマスキボス達の気持ちが一致したことで実現したというわけ。
 実は裏では、常識はずれの企画に眉をひそめる人もおり、針のむしろ状態で戦ったのだけど、まあそんなことはいいじゃないのって気分です。クルマスキがクルマスキを増やすためにクルマスキ達の精神を代表して企画したのだから…。

 レースの結果は残念だったけれど、SPOONというチームは高い技術力を備えているだけではなく、温かい雰囲気がある。「打倒TOYOTA GAZOO Racing 86」掲げて挑んだのにもかかわらず、彼らには惨敗したけれど、気持ちは晴れやかだ。

  • 松井猛敏、中島保典、市嶋樹、そして僕。とてもいいドライバーだ。中央の市嶋社長が、TOYOTA GAZOO Racingの精神を粋に感じてくれた人だ。
    松井猛敏、中島保典、市嶋樹、そして僕。とてもいいドライバーだ。中央の市嶋社長が、TOYOTA GAZOO Racingの精神を粋に感じてくれた人だ。
  • 「いいんですかねぇ?」「問題ありませんよ」 ステッカーを貼るシーンすらシャッターチャンスになった。
    「いいんですかねぇ?」「問題ありませんよ」 ステッカーを貼るシーンすらシャッターチャンスになった。
  • SPOON S2000 TOYOTA GAZOO Racing仕様?
    SPOON S2000 TOYOTA GAZOO Racing仕様?
  • 最高にアットホームなTEAM SPOON だ。見習うことがたくさんある。
    最高にアットホームなTEAM SPOON だ。見習うことがたくさんある。
  • スプーンの「リジカラ」と「TOYOTA GAZOO Racing」の異色コラボはヘルメットにも。
    スプーンの「リジカラ」と「TOYOTA GAZOO Racing」の異色コラボはヘルメットにも。
  • SPOONドライバーとTOYOTA GAZOO Racingが一枚の写真にパチリ。
    SPOONドライバーとTOYOTA GAZOO Racingが一枚の写真にパチリ。
  • もちろん僕も表敬訪問してきた。
    もちろん僕も表敬訪問してきた。

キノシタの近況

キノシタの近況写真

 GRMNとG'sの歴代全マシン一気乗り。とっかえひっかえ、全モデルを転がしてわかったことがたくさんある。合計10数台。ニュルだけではなく、もちろんこうして国内のサーキットやテストコースで開発しているのです。さすがに最新のGRMN 86の開発車両がこれだけ揃うと圧巻だよね。

木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー

木下 隆之 / レーシングドライバー

1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」

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