ついに世界の檜舞台に
レクサスRC F GT3 concept 発表!
実はこれ、日本車にとって革命ともいえる試みではないかと思う。
レクサスが、今秋発売する「レクサスRC F」に純レーシングマシンであるGT3仕様を設定するというのだ。
自動車メーカーが自ら製作するコンプリートマシンを発売する、なんてことはあるにはあるけれど、たいがいそれは入門向けのライトチューニングモデルであったり、ワンメイク用のベースモデルである場合だった。
だがこれは、それとは次元が異なる。世界最高峰のツーリングカーカテゴリーとして、いまもっとも「旬」なGT3仕様なのである。狂ったような速さのマシンを、誰でも手に入るようにした。これがエポックメイキングでなくて、何に驚けばいいというの?
市販車の面影を残しながら限りなく速く…
GT3はFIAが定める世界統一レース車両規格のことだ。簡単に言ってしまえば、市販車を徹底的に改造したモデルで戦われるレース仕様だ。市販モデルの面影や骨格を残しながら、中身をギリギリまでチューニング化し世界最高峰の速さに仕立てたものと考えればわかりやすい。
かなり高度なレベルまでチューニングは可能である。だが、それでいて縛りは厳格なのも特徴。形は限りなく市販車の原型をとどめなければならないし、エンジンも市販車に採用されているものでなければならない。つまり、あくまで市販車の性能とイメージが勝敗に直結されているところがミソ。「オレのマシンが勝った負けた」と感情移入できるのである。
たとえば国内で圧倒的な人気を誇るスーパーGTも、根底のところでは志に違いはない。だが、規定は大幅に緩い。エンジンは市販車に設定されていなくてもいい。駆動方式も問わない。その典型がプリウスやCR-Z。純フォーミュラー用3.4リッターエンジンとハイブリッドシステムを合体させ、それをミッドシップにマウントしている、というあたりがスーパーGTの現状を端的に表している。市販車の面影を残していれば、中身は何でもアリアリなのがスーパーGT規格なのである。
ところがGT3規格は、中身にも市販車の面影を色濃く残すことが義務づけられている。世界標準規格でもあり、日米欧、そしてアジアでも戦うステージがある。スーパーGTが日本でしか戦いが許されずガラパゴス化しているのとは対象的だ。
540PS以上! 速そっ!
ちなみに、レクサスが開発した「RC F GT3」の公表スペックはこうだ。
全長4705mm
全幅2000mm
全高1270mm
重量1250kg
ホイールベース2730mm
エンジンV型8気筒
最高出力 397kW(540ps)以上
そのポテンシャルを想像してほしい。
パワーはスーパーGT500より強力である。だが空力的には大人しい(スーパーGTに比較して)。おそらく最高速度はGT3が優り、コーナリングはスーパーGT500が圧倒するといったところだろう。
ニュルブルクリングで我々のレクサスLFAを唯一置き去りにしていくのはGT3勢だといえば、そのパフォーマンスレベルが想像できるだろう。
群雄割拠に孤軍奮闘!
GT3は世界のメーカーがこぞって参戦しているカテゴリーでもある。
ポルシェ、アウディ、アストンマーチン、メルセデス、BMW、ベントレー、マセラティ、ランボルギーニ…。GT3のホモロゲーション取得済みマシンはなんと「33台」を超える。つまり、世界の主要自動車メーカーのほとんどがGT3マシンをベースに戦われるレースに意欲的であり、逆にいえば、GT3マシンを持たないメーカーが稀なのである。
そこにレクサスが挑む。デリバリーは2015年から。来年の春から、世界各地でレクサス旋風が吹き荒れるかもしれないのだ。
このところレクサスは、次々にブランドパワー構築のための施策を打ってでている。その欠かせないものとしてモータースポーツを掲げている。GT3挑戦はそのプロジェクトのひとつなのである。
まずは期待したい。レクサスRC F GT3が世界を席巻することを。
キノシタの近況
木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー
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1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」