木下隆之連載コラム
クルマ・スキ・トモニ 120LAP

2014.05.13 コラム

レクサスNX、デザインが組織を動かす

それは芸術作品のように刺激的なのだ

 北京モーターショーで華々しくワールドプレミアを放った「レクサスNX」は、その姿を目にしたものすべてのハートを惹き付けるパワーを秘めていると思えた。
 金属の無垢の塊を彫刻のごとく左右で大胆に裁断したかのようなエッジの効いたボディは、量産自動車というより、博物館に展示されている造形作品のようにも見える。実は数々のパーツで組みつけられた自動車には違いないのだが、鍛造的な趣がある。芸術作品のような雰囲気が漂うのだ。
 細部にわたって丁寧にデザインされている様子も伝わってきた。特に、陰影が際立つチタニウムシルバーではそれが強調され、その場に立ちすくみ、およそ1時間以上も見とれてしまったほどだ。

  • 北京モーターショーで世界初お披露目となったレクサスNX。新参者ではありながら、今後のレクサスを牽引するに違いない存在感を感じる。
    北京モーターショーで世界初お披露目となったレクサスNX。新参者ではありながら、今後のレクサスを牽引するに違いない存在感を感じる。
  • NX200t F SPORT
    NX200t F SPORT

デザインの力は果てしない

 幸運にも、デザインを担当した方々と食事をする機会を得た。そこで見聞きした話は実に興味深く、デザインが開発に与える影響力の強さを知ることになった。
「このクルマは新参者なのです。だから、社内での立場はけして高くはなかったんです」  マイナーチェンジでもなければフルモデルチェンジでもない。これから歴史を作っていくニューブランドなのだ。だから、クラウンやマークXといった長い歴史を持つブランドとは比較にならないほど、社内での認知度は低いのだという。
「たくさんの開発部署で、無数の新技術が開発されています。我々NX専門のスタッフがその技術のすべてを把握しているとは限らないんですね。だから、それぞれの開発担当から、こんな技術があるけど使いませんか?と売り込んでもらわなければならない」
「だけど、新参者だから売り込みがない?」
「そうなんです。レクサスLSといった王道に技術が最優先して売り込まれる傾向にあったんですね」
「それがデザインによって変化した?」
「そうなんです。NXはこんなクルマですよ、って社内でお披露目したんです。それから大きく変化したんですね」
「社内スタッフの気持ちが?」
「そうです。これはカッコイイ、面白そうだ、となる。すると、それまであまり振り向いてくれなかった部署も目をかけてくれるようになる。他の車では採用していない新技術があるのですけど、NXで採用しませんか?とね」

  • 眼光鋭く、都会を駆るアーバンクルーザー。細部を舐め回すようにしていると、そのデザインに最後は引き込まれる。 
    眼光鋭く、都会を駆るアーバンクルーザー。細部を舐め回すようにしていると、そのデザインに最後は引き込まれる。 
  • NX200t F SPORT
    NX200t F SPORT

デザインが気持ちをひとつにまとめていくのだ

「開発のテンポも良くなっていくんです」
「テンポ?」
「ええ、NXにはハイブリッドと、2リッターターボを採用しています。世界的に隆盛のダウンサイジングターボを初めて投入するクルマなのです。だけど、ただ単に環境だけ重視したクルマにはしたくなかった。動力性能も高めたかったのです」
「それとデザインはどう相関しますか?」
「何度となくエンジン屋さんに足を運んで求める性能を説明するのですが、理解してもらうには時間がかかる」
「社内の調整が簡単ではないと」
「そうなんです。ですが、NXのスタイルをお見せすると、それだけでエンジン屋さんが要求性能を理解してくれるんですね。これは元気に走りそうなクルマだね。だったら出力特性は鋭くパワフルにしましょうかとなる。多くを語らなくとも、デザインに見合った性能を盛り込んでくれるのです」
「足回りに関しても同様ですよね。レクサスらしい上質の乗り心地が担保されていながら、締め上げられた足回りになった。それはデザインがすべてを語っていたからなのかもしれません。都会的な香りがする。しかも、元気に走りそうなスタイルをしている。だったらそれに相応しい走りに仕上げてみましょう、とね」
 エンジンやミッションといった動力性能を担当するエンジニアも、足回りやボディを設計する専門家も、このデザインに負けてられないぞといった対抗心も芽生えるのかもしれないと想像した。

  • NX200t F SPORT
    NX200t F SPORT
  • NX200t F SPORT
    NX200t F SPORT

デザインが車を引っ張りだすこともある

 こんな噂を聞いた。数年前のデトロイトモーターショーでレクサスは「LF-LC」とのコードネームであるスタイリッシュスポーツクーペを発表した。それはあくまでコンセプトモデルであり、市販を前提に公表したものではなかった。だが、あまりに反響が大きく、社内での評価も高かった。すわ、開発をスタートさせるように社内が動いたという。
 今年初頭のデトロイトモーターショーでトヨタが「FT-1」と呼ばれるマッチョなスポーツクーペを発表。だがそれも、米国デザインセクションであるキャルティが温めていたデザインスタディとしての提案であり、市販化するものではなかった。だが同様に、開発の動きがあるという。
 デザインが社内を動かすという恒例であろう。

 かつてホンダがオデッセイを開発する時に、開発プレゼン資料の表紙に、あるいは開発部署の壁のそこかしこに、黒豹の写真を添えたという。常に黒豹を意識させることで、すべての機能品にあるひとつの統一感を持たせるためだったという。
 NXのその個性的なデザインには、それ以上のパワーがある。

  • NX200t F SPORT
    NX200t F SPORT
  • NX300h
    NX300h

キノシタの近況

キノシタの近況写真1

いよいよマリンの季節到来です。実はボート・オブ・ザ・イヤーの選考委員などもやっていたりする。そんな関係で、マリン関係のトークショーに出演。マリン雑誌のインタビューなども経験しているのだ。そろそろ大海原でプカプカしようかな!

木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー

木下 隆之 / レーシングドライバー

1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」

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