木下隆之連載コラム クルマ・スキ・トモニ 125LAP

2014.07.22 コラム

いたれりつくせり観戦スタイル!

それぞれが思い思いのままに…

 微笑ましい親子が、サーキットで戯れるシーンを見掛けることは、けして少なくない。

 子供が小さな手を父親の大きな手に求めつつ、楽しげにパドックを歩く。少年は、サイズが不釣り合いな、ご贔屓チームのキャップをブカブカにかぶっている。そろそろ小学生になろうかという年齢だろうに、まだ小さなつぼみではあるもののすでにレース好き特有のオーラが感じられた。

 少年が背負うバッグには、応援フラッグが突き刺さっていた。これからはじまるレースに、心躍らせている。

 それにしても最近、キャンパー然とした装備と出で立ちでレース観戦をする仲間が増えたように思う。サーキット側が前日からの宿泊を解禁したことがキャンプスタイルでの観戦者を増やしたのに違いないし、キャンプ観戦スタイルがもはや伝統にさえなっているニュルブルクリンク24時間の報道などがなされたこともそれに貢献しているのだろう。

 ミニバンやらSUVやらは仮眠所スペースになる。いや、コンパクトなクルマにぎゅうぎゅう詰めになるのも思い出だ。BBQコンロでこしらえた粗末な食事が格別にウマい飯になる。

 一方で、キャンギャル目当てのカメラ小僧達の勢いも止まる所を知らない。レースなどには一切興味なしのその潔さはたしかに市民権を得た。かつて感じた憤りなど霧散させてしまったのだから彼らの底力は恐ろしい。

 もちろん彼らの入場を否定する気はない。入場料を払っている。むしろより高価なパドックパスを購入してくれるのだから上得意様でもある。レースよりも女性の応援ということに一抹の寂しさはあるにはあるが、それはそれで受け入れるしかないのだろう。そう言い聞かせているのが本音だ。

アンナコトモ、コンナコトモ、できるの?

 レクサスが昨年から始めたスーパーGT観戦スタイルの提案は、新たなレースファンを発掘するかもしれない可能性を秘めている。既存のレースファンを頻繁にサーキットに呼び込む起爆剤になるかもしれない。実際に、開催開始から好評で、告知とともに定員を満たしてしまうという新たな企画が話題になっている。

LEXUS AMAZING EXPERIENCE スーパーGT観戦ツアー

 このコンセプトを一言で表現すれば、いたれりつくせりのおもてなし観戦、ということになるのだろう。

 わざわざサーキットに足を運んでくださるファンの方々が観戦する上での、肉体的にも精神的にも伴う負担を可能な限り取り除こうとの思いが込められているように思う。

 たとえばこうだ。

 ・サーキットタワーに専用観戦ルームを確保。

 ・グランドスタンドやコーナースタンドに、特設観戦エリアを設定。

 ・レクサスドライバーの特別トークショー開催。

 ・スタート前グリッド優先入場。

 ・ピットウォーク優先入場。

 この辺りは想像の範疇だ。

 ・コースサイドでの豪華ランチ。

 ・コースサイドでの生演奏付きディナー。

 ・コースサイドでのロッジ宿泊。

 ・専属レース解説者帯同。

 ・コースサイド緊急エリアからの観戦。

 ・パレード走行。

 ・レーシングマシン、コクピット体験。

 ・秘密パーツ撮影許可。

 ・レクサス作戦会議トレーラー潜入。

 いやはや、つまりは希望がすべてかなえられていると言っていい。

 しかも朝から晩まで、専属のスタッフがエスコートする。初めてサーキットに訪れる人の不安を解消し、肉体的な疲労を抑えてくれているのだ。

僕も一日中お客様と…

 不肖木下も、Jスポーツ出演とレース参戦の合間に「レース専属解説者」として参加している。そこで感じるのはなんと贅沢な企画だろうということ。最寄りの空港や駅から、最新レクサス車での送迎も当然のように行われているし、前日、あるいは後泊には近隣の豪華旅館宿泊もセットされるという凝りようだ。レクサス九州工場見学も、希望に応えるというのだから至れり尽くせりを完全に超越している。

 イベント毎にコンテンツも募集人数も変化する。儲けは完全度外視。「メーカー問わず、とにかくレース好きになって欲しい。できればレクサスファンになってくれれば嬉しいけれど…」といったスタイル。押し付けがましいところはひとつもないのが印象的だった。

 先日行われたスーパーGT大分阿蘇オートポリス観戦ツアーでは、定員10組20名に、その三倍以上のスタッフが携わっている。全員コンシェルジュ。ホスピタリティレベルは驚くほど高いのだ。

 ここだけの話、仮にレクサスファンでなく、手厚いホスピタリティを期待していなくとも、このツアーに応募した方が得だと思われる価格設定だ。入場券とパドックパスを購入し、ちょっと高級なレンタカーを借りたらこの程度の金額になってしまうというわけで、これほどお得なツアーも少ないだろう。

 告知と同時に応募締め切りとなってしまうのもうなずける。

傲慢スタイルからの脱却

 そもそもレース観戦は構造的な欠陥を抱えていると思う。サーキットは基本的に人里離れた僻地にあるし、距離的にも敷居も高い。それは、その状況を長年放置してきた我々レース関係者の怠慢以外の何ものでもないが、結果的に今まではお客様の負担の上に成り立ってきたことは否めない。

 それゆえ、今後もモータースポーツを発展させるためには、観戦の負担を減らすことが不可欠だと思う。

 もともと日本のモータースポーツはヨーロッパ型モータースポーツの影響を強く受けてきた。貴族だけが楽しむものとされてきたヨーロッパ型モータースポーツには、観戦したければご自由にどうぞ…といった傲慢な性格が残る。それが近代日本には馴染まず、観客減少の元凶となっていたのだと思う。

 そんな傲慢観戦スタイルにメスを入れたのがLEXUS AMAZING EXPERIENCEなのかもしれない。

 観戦スタイルは人様々であっていいと思う。マイカーで野宿しての観戦もとびきり楽しい。親子で連れ立って、のんびりクルマを眺めるのもけっこうだ。さらには、至れり尽くせりのおもてなしを好む人もいる。その意味ではレクサスのこの新しい試みは大いに歓迎できる。

 まさにAMAZINGである。

 ちょっと財布に余裕があるのなら、参加した方が得かもしれないよという思いである。

キノシタの近況

キノシタの近況写真

ニュルブルクリンク24時間優勝の感動はまださめない。むしろ日増しに高まってくるといった方がいいかもしれない。なんせ祝賀会イベントが目白押しなのだ。その最高の形がMEGA WEBで開催された「ニュル24時間レース 3クラス優勝報告会」だ。多くの人に来場してもらい、トークショーを展開したのだ。やっぱり3台ともが優勝して良かった。みんなで騒げるからね。

木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー

木下 隆之 / レーシングドライバー

1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」

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