変態的バイク隆盛
このところ、変態的な進化を感じるのがオートバイである。ネットサーフィンをすれば、ほとんどバイクとは形容できない奇妙な乗り物を発見するのだ。
ハーレーは旧くからモディファイの定番だし、スクーターカスタムにも慣れた。それに混じって最近、ぶっといタイヤにただただしがみついているだけのようなバイクもある。映画のプロモーション用かとおぼしきタイプもある。ハンドルがホイールから生えていたり、やけに全長が長かったり…。機構的に成立するのか不明の乗り物も多い。ほとんどトランスフォーマー的な近未来マシンである。実際に走る姿を確認するまでは、バイクとは認められないものが氾濫しているのだ。
バイク天国
欧米を旅していると、バイク天国であることが肌感覚で伝わってくる。特にドイツは、クルマ先進国かと短絡視していると裏切られる。そう言えばBMWはバイクメーカーでもあったよなぁ。夥しい数のバイクが街を闊歩しているのだ。
アメリカはハーレー系、もしくはビッグバイク系が多い。ノーヘルで巨大なエンジンを抱え込みながら走る姿は、いかにも大陸的だ。風を浴びながら突っ走るのが気持ちいいからバイクに乗るんだぜ…といった趣である。
それとは対象的に、生真面目な国ドイツはやはり、正統的なビッグバイクが多い。標準的体型の日本人では、つま先立ちしても足が届かないバイクも少なくない。ありゃ、ほとんど馬だね。鉄の馬。アメリカのようなロード系ではなく、オフロードも走破可能な足長タイプが主流。爽快感を求めてというより、機能的だから乗る…といった雰囲気がするのは偏見だろうか。
黒装束の軍団闊歩
その証拠に、ほとんどが正統派の黒皮つなぎである。しっかりとヘルメットを被っているのだが、それもほとんどが黒。安全性にも敏感のようで、脊椎パッドも必需品である。
ズドドドドドとハーレーサウンドを轟かせるアメリカとは異なって、ドイツではマルチバイクでアウトバーンを疾走する姿も珍しくない。250km/hオーバーで追い越し車線を矢のように駆け回るのだから、そりゃ安全武装にも抜かりはないわけだ。
跨がれるのなら、なんでも来い!
もっとも、二輪車のほとんどは正統派バイクだけど、三輪トライクや四輪バギータイプも少なくない。カワサキのエンジンを搭載したラディカルなど、日本の公道ではまずお目にかかれないフォーミュラータイプも頻繁に目にする。
ラディカルをバイクと区分けするには無理がある。ありゃ完璧なクルマである。だけど、その精神は単なるオープンカーとは到底思えない。風と一体になりたいという意味ではバイク感覚である。そう、地味な黒装束で正統派バイクを転がす生真面目なドイツ人もやはり、風を感じ、路面との一体感を得たいのである。その点では万国共通なのだ。
そんなに珍しいのかい?
ニュルブルクリンク近郊のガソリンスタンドで見掛けたタンデムライダーに声をかけてみた。
「ドイツ人はバイクが好きですねぇ」
「えっ、日本では走ってないの?」
「スクーターが流行です」
「ホンダやカワサキがあるのに?」
あごひげを蓄えた恰幅のいい男性は、怪訝な顔をした。
たしかに、スズキやヤマハなど、世界に名だたるバイクメーカーを抱えている。
ホンダなんかそもそも、本田宗一郎が開発したバイクが発祥なのだ。軍用無線機用発電機を自転車に括り付けたそれが始まりだ。バタバタと音がすることから、通称バタバタと呼ばれて親しまれた。そんな日本なのにバイク人口は減っているという。バイクが衰退の憂き目だというのは寂しい。
「バイクに乗るのは週末だけだよ」
「クルマは?」
「もちろんクルマも大好きさ。普段はオペルに乗っている」
「ドライブもする?」
「いや、週末の楽しみはバイクでのツーリングだよ。こいつと一体になって走るのが気持ちいいんだ」
そう言って巨大なガソリンタンクを愛おしそうに撫でた。
そもそもドイツには、ツーリング(もしくはドライブ)をしたくなるような爽快なワインディングロードが多い。都会からちょっと足を伸ばせば、緑豊かな美しい丘陵地帯にやってこられる。環境がそもそも違うのだ。不粋な速度制限もないしね。
バイクは女性?
ちなみに、オートバイは完璧な和製英語だ。英語圏では通じない。モーターサイクル。もしくはモーターバイクが正解。オートバイク=エンジン付き自転車が転じてオートバイと呼ばれることになったのだろうと推察する。
ドイツ語でバイクは「モトアラート」。クルマは男性定冠詞を伴うのに対してバイクは女性定冠詞である。
その理由は諸説あるものの、話を聞いた男性が愛おしく愛機を撫でる様子から、やはりバイクには女性定冠詞が似合うのだろうと思ってしまった。
ともあれ、乗り物はすべて魅力的である。
木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー
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1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」