木下隆之連載コラム クルマ・スキ・トモニ 133LAP

2014.11.25 コラム

クルマ屋が作る豪華クルーザー

もっとマリン業界に活気を!

 日本の国土は四方が海に囲まれている。だというのに、マリンレジャー環境はまだまだ後進国だといわざるを得ないかもしれない。

 造船は日本の伝統的産業だから、つまり海洋技術は一流であろう。なのに、船で遊ぼうぜ、となるとまだまだ少数派。クルーザー=金持ちの道楽的に思われている節があって、なかなか一般には根付いていないのが現状だ。成金国家アメリカや、貴族のヨーロッパとはちょっと雰囲気が異なる。

 まあ、たしかに船は安い買い物ではない。ただ、「船」といえば、豪華客船クイーンエリザベスも含まれるし、となると、とても手が出ない印象だが、「ボート」と言い替えれば「ゴムボート」も含まれるわけだから多少は身近に思えるのではないか?ちょっとだけ意識を変えれば、マリンレジャーは身近なものになる気がする。

  • レインボーブリッジをくぐる。デザインは今度発売されるレクサスの新型に似ている(?)。
    レインボーブリッジをくぐる。デザインは今度発売されるレクサスの新型に似ている(?)。

待望の超高速クルーザー誕生

 トヨタマリンが新しいボートを発表した。「ポーナム-31」という豪華クルーザーである。31という数字は31フィートを意味する。船名はたいてい数字が記されている。その数字はたいがい、船のサイズを表すのだ。

 ポーナムシリーズは「35」、「28」がラインナップされていたから、今回デビューした新艇はその中間を埋めるサイズ。船内にはトイレやキッチンも装備されているから宿泊も可能だ。それでいて、遠くまでのクルージングもこなす。たとえば関東圏でいえば、相模湾から伊豆七島あたりだったら日帰りクルージングも可能。マリーナにプカプカ浮かべて穏やかな休日ライフをエンジョイしてもいいし、ちょっと本格的にカジキマグロとビッグファイトを演じてもいい。行動範囲の広さがこのクラスの特徴なのだ。

 この船が、マリンレジャーがメジャー化するカンフル剤になると確信する。

  • このクラスでは余裕のあるアフトデッキ。プカプカ遊びでも、ビッグファイトでも便利だ。
    このクラスでは余裕のあるアフトデッキ。プカプカ遊びでも、ビッグファイトでも便利だ。
  • 東京湾での試乗会には、マリン関係者が多数集まった。期待が凄い。
    東京湾での試乗会には、マリン関係者が多数集まった。期待が凄い。

海の危険と不安を払拭してくれる

 というのも、特に海の世界はなかなか素人が手を出しづらい環境でもある。大海原に白い軌跡を残してクルージングするのはこのうえない快感ではあるものの、海には危険が潜んでいる。僕も軟弱船乗りのひとりだから、その気持ちがとてもよくわかる。

 まず怖いのが、ボートの故障。たとえばエンジンが故障したら漂流してしまう場合もある。ポーナム-31ではその危険性と不安がかぎりなく低いのである。

 海で突然故障したら、携帯電話やマリン無線が役立つ。SOSを発信すれば迅速に助けがくる。だけど、エンジントラブルは、自動車のエンジンがちょっと機嫌を損ねたのとはワケが違う。漂流することを思うと背筋が凍るのである。 

 そもそも鉄の固まりを海水につけ込んでいるのだから、最悪の環境である。基本的には海水冷却方式だ。海水をラジエターシステムに循環させ、エンジンを冷やしているのだ。そりゃ、故障も少なくないわけである。

 ちなみに、一般的なボートの保管パターンはふたつ。

 マリーナに備え付けられたポンツーン(桟橋)に括り付けたまま浮かべておくか、わざわざ陸地に上げておくかの2パターンである。楽チンなのは「海置き」だけど、船の劣化が少ないのは断然「陸置き」。中古艇の査定では、この「海置き」か「陸置き」かが大きく影響する。「海置き」されていた船を買うには相当に覚悟がいるわけで、金額に大きな差が生じることも少なくない。というほど船乗りは故障に敏感になっているのだ。

信頼性トップのクルマ屋だからこその安心感

 その点、ポーナム-31のエンジンは信頼性のトヨタが製造しているわけで安心感が高い。しかも、ランドクルーザーの45リッターコモンレール+ターボチャージャーである。劣悪環境のアフリカでも信頼性が一番だし、パリダカールラリー常勝エンジンでもある。それが海で簡単に故障するとは考えづらい。この絶大なる信頼性が武器なのである。

 プカプカと揺りかごにゆられるような心地良さ。海でのノンビリライフは格別である。

 ところが、一旦大海原を疾走しはじめると事態は一転、乗り心地は劣悪になる。まるで鏡のようなべた凪だったらまだしも、ちょっとでも波が立とうものなら、波頭を叩くたびにがっつんがっつんと衝撃が襲ってくる。快適などという言葉とは無縁の世界に落とし込まれるのだ。

 だがそれすらも、ポーナムなら安心である。なんといっても船体がFRPではなくアルミ製なのである。衝撃吸収性に優れているから、多少荒天であっても走破できる。

 そもそもアルミ技術はクルマ屋の得意分野である。

 その他、クルマ屋ならではの高度な技術も満載である。

 狭い港内での移動でも、ジョイスティックひとつで360°移動可能だし、海原の架空のある一点で停止し続けるバーチャルアンカーモードも備わっている。荒天でも船首を一定に保つバーチャルスパンカーモードなどなど、ハイテク技術も少なくない。けしてポーナムだけの装備ではないけれど、クルマ屋だからってことで安心感が強いのだ。

  • アッパーデッキのあるなしで豪華か否かが分かれる。リアシートはリクライニング機能付き。
    アッパーデッキのあるなしで豪華か否かが分かれる。リアシートはリクライニング機能付き。
  • ド派手な赤いシートは、実はクルーザーでは珍しい。どうせならこのくらい華やかでなきゃ!
    ド派手な赤いシートは、実はクルーザーでは珍しい。どうせならこのくらい華やかでなきゃ!

宣伝するつもりじゃなかったけれど…

 たぶんに宣伝っぽくなってしまったけれど、言わんとするところは「クルマ屋の船ならではの安心感」である。故障が命取りの海にあって、この安心感はこのうえない。船専門メーカーにもメリットはあるけれど、それとは異なる良さがポーナムにはあるのだ。

 ちなみに、価格は2980万円。オプションを除いた定価だけど、高価なマリンエアコンは標準で装備。クラストップの最高速度を誇る31フィート艇としては革命的破格の安値です。

 最後まで、宣伝っぽくなってしまった (汗) 。

  • ポーナム-31の特徴のひとつは、最高速度がクラストップだってこと。漁場まで誰よりも早くつく。
    ポーナム-31の特徴のひとつは、最高速度がクラストップだってこと。漁場まで誰よりも早くつく。
  • なんで速いかって?開発にモリゾウさんと飯田章が参画しているから…(笑)。
    なんで速いかって?開発にモリゾウさんと飯田章が参画しているから…(笑)。

キノシタの近況

キノシタの近況写真

ポーナム-31の爽快なクルージングを楽しんだ翌日、相模湾でしらす漁の手伝いをした。漁船は漁船で面白い。高級キャンピングカーもいいけど、働くトラックも最高って感じだった。手伝いって言っても、ひたすら邪魔しているだけだったけどね。

木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー

木下 隆之 / レーシングドライバー

1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」

>> 木下隆之オフィシャルサイト