木下隆之連載コラム クルマ・スキ・トモニ 139LAP

2015.02.24 コラム

2兆9200億円っていくら?

好業績にビックリ!

 このところ、日本企業の業績好転が新聞を賑わせている。特にもうけ頭のトヨタ自動車好業績の話題は、末端にいる一人のドライバーにとっても嬉しいかぎりだ。

 2015年3月期の連結営業利益が過去最高を記録、今期の売上高予想は3.1%増の26兆5000億円に上方修正した。リーマンショック直前(08年3月期)の過去最高26兆2892億円を、7年ぶりに更新するのである。日経新聞の予想によると、予想経常利益は2兆9200億円に達するというから頼もしい。

 一方、世界販売計画は905万台に下方修正。豊田章男社長の言葉でもあるとおり、無闇に数を追うことはしないという。つまり、無謀な売れ売れドンドンではなく、構造改革によって収益率が高まったことを意味する。アベノミクスの恩恵も無視できないだろうし、為替が円安に動いたことも幸いしただろうが、企業としての体力が備わったとみるべきだろう。

 特に北米の経済好転が追い風となった。レクサスも好調だ。地に足をつけながら、桁外れの利益を生み出しているのだ。

  • 財務情報によると、年々確実に連結業績が好転していることがわかる。日本の売り上げだけが伸び悩みか?
    財務情報によると、年々確実に連結業績が好転していることがわかる。日本の売り上げだけが伸び悩みか?
  • 通期ではなく、第3四半期決算報告の抜粋だけど、業績回復は顕著だ。消費税アップの被害も少ない。
    通期ではなく、第3四半期決算報告の抜粋だけど、業績回復は顕著だ。消費税アップの被害も少ない。

 このコラムとしては不釣り合いな経済新聞風の書き出しになったけれど、それには理由がある。

 「経常利益が2兆9200億円だって…」新橋の飲み屋でそんなネタが肴になるものの、あまりに桁が多すぎて、我々庶民には実感がない。ホッピーで酔った頭には、どうも感覚がわからないのだ。

 「一円の円高が400億円の利益を生み出します…」なんてフレーズを目にすることも多いから、400億円という数字程度ではそれほど驚かなくなっている。でもよくよく考えてみれば、ドル円が119円から120円にちょこっと動いても(ちょこっとではないんだけど)、僕の財布が厚くなるわけでもないんだけど、トヨタにとっては400億円の増益。逆にドル円が1円高くなれば、400億枚の一万円札が消えていくのである。恐ろしい金が動いている計算なのだ。

  • 「それでもまだ、金融危機前からすれば円高だが、収益体質が大きく改善したことが大きい」と。これでもっと円安になったら?
    「それでもまだ、金融危機前からすれば円高だが、収益体質が大きく改善したことが大きい」と。これでもっと円安になったら?
  • 決算報告会。好業績の報告を聞こうと、いつにもまして多くのマスコミが集まった。
    決算報告会。好業績の報告を聞こうと、いつにもまして多くのマスコミが集まった。

僕の電卓では表示不能

 そこで事務所の電卓をパチパチと叩いて、2兆9200億円という数字を庶民感覚に置き換えてみようとした。ところがいきなりつまずいてしまった。2兆9200億円を電卓で表示すると「2,920,000,000,000円」となる、13桁の数字を打ち込まなければならないんだけど、個人事務所の電卓が表示可能なのは10桁までだった。つまり、その気になって計算しようと打ち込んでいたら、「29億2000万円」で立ち止まってしまった。1000倍足りないのだ。まったく情けないかぎりである。

 というわけで、これから並べる数字は、文系出身の僕が指を折って数えたものだから信憑性は怪しい、ってことを前提に箸休めにしてほしい。

ここで質問です

 もし君が毎日、毎日、新車のTOYOTA 86を購入したとする。毎日毎日だ。日曜日も年末年始もお盆の最中も休みなく、本当に毎日毎日購入しつづけるとすると、1年後には君のガレージに365台のTOYOTA 86が並ぶことになる。それをさらに続けるとすると、その2兆9200億円がなくなるのは何年後でしょうか?

 あまり頭で計算せずに、イメージで答えてほしい。

 5年?

 50年?

 もう死んでいるかもしれないほど先の100年?

 正解はなんと…「3478年!」

 TOYOTA 86は1台およそ230万円

        10台で2300万円

        100台で2億3000万円

        1000台で23億円

        1万台で230億円

        10万台で2300億円

        100万台で2兆3000億円…

        126万9565台で2兆9200億円(端数切り捨て…)

 TOYOTA 86が1日で1台増えていく。

          10日で10台

          100日で100台

          1年で365台

          10年で3650台

          100年で3万6500台

          1000年で36万5000台

          3000年で109万5000台

          3478年で129万5020台

 つまり、いまから3478年後までTOYOTA 86を買いつづけることができるのだ。

  • これだけの86を買ってもまだ1年強分。置くだけで富士スピードウェイを何周するやら。
    これだけの86を買ってもまだ1年強分。置くだけで富士スピードウェイを何周するやら。

その時まで生きていないけれど…

 3478年後は西暦5493年。孫の孫のその孫の、さらにその孫あたりかな?その時ガレージには126万9565台が並ぶことになるのだ。

 西暦5493年がどんな時代なのかは想像することができないほど遠い先だが、おそらく月か火星に人類が住んでいるに違いない。いや、月や火星なんて通勤圏内で、サラリーマンがネクタイして毎日通っているかもしれない。もう地球が滅亡していたりして…。

 逆に振り返ると、現世が紀元後2015年だから、3478年前は紀元前1463年である。

 紀元前1463年は日本の縄文時代。日本人は竪穴式住居に住み、土器や石器で生活をしていた時代。土器がスマホになるまでのその長い年月をこの先ずっとTOYOTA 86を買いつづけることができる計算なのである。

 いやはや、実感を得るために計算しはじめたのだが、かえってイメージが沸かなくなってしまった。

 つまりそれほどの金をトヨタは一年で稼ぐのである。

 そんな先までTOYOTA 86が生産されている保証はないし、納車を待っている間に金利が嵩むわけで、おそらく買っても買ってもむしろ貯金は増えるばかりだろう。

 そんな上級顧客なら、大幅値引きをしてくれるはずだから230万円も払わなくたって納車してくれるに違いない。となると、答えは「3478年」ではなく「未来永劫」が正解なのかもしれないね。

 ともあれ、細かいことを無視していえば、年間にして恐ろしい額の利益を生み出していることには違いない。それを、地道に愚直にボルトを一本一本締め上げて稼いでいることは凄いとしか言いようがない。ファンドや金融ディーラーのように、通帳の中の仮想貨幣を動かしているだけのバーチャル的商取引とは異なる。そこに凄みがあるのだ。

  • 佐々木卓夫常務役員は「筋肉質な経営基盤を愚直に築いてきた」と強く語った。
    佐々木卓夫常務役員は「筋肉質な経営基盤を愚直に築いてきた」と強く語った。

ところで2兆9200億円を運ぶとすると…

 ところで2兆9200億円を1円玉にすると2兆9200億グラムになる。それを10トントラックで運ぶとなると29万2000台が必要となる。それをグループ会社の日野自動車で調達するとさらに増産しなければならないから連結の利益が増えてしまう。つまりまた、いつまでたっても使い切れない計算なのだ。

 はぁ~、溜め息が出る。

 ちなみに、自分の通帳をめくってみたら、印字できるのが99億9999 万9999円までだった。トヨタ自動車の通帳って、横長なのだろうか?

キノシタの近況

キノシタの近況写真

厳寒の富士スピードウェイ。レクサス「F」オールラインナップの動画撮影に挑んだぞ。この手のモノモノしいカメラカーはロケに欠かせない。ルーフに取付けられたクレーンは、サソリの尻尾のように複雑にうねるのだ。その名もスコーピオン。激しく走りながらカメラが上下する。その迫力の映像は今、編集中だ!

木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー

木下 隆之 / レーシングドライバー

1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」

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