大きくレギュレーションが変わることになった今年、パナソニック・トヨタ・レーシングが投入するトヨタTF105も大きな進化を遂げた。エアロダイナミクスの大幅な改良とレギュレーションの変更で、見た目に大きく変わったトヨタTF105を前にして、高橋敬三技術コーディネーション担当ディレクターは自信たっぷりに新型車の特徴を語ってくれた。
「今年のレギュレーション変更点は大きく分けて3つのポイントがあります。まず、エアロダイナミクスの変更。フロントウイングとリヤウイングの位置、ディフューザーが規制され、ダウンフォースが減らされたこと。ふたつ目は、昨年は1レース、1エンジンだったのが、 1エンジンで2レースを戦うことになったということです。そして3つ目がタイヤで、予選、決勝を1セットのタイヤで走りきらなければならないことです」
つまり、すべてのレギュレーション変更がF1カーを遅くする方向にあるのだ。エアロダイナミクスの規制では約25%ものダウンフォースが削られることになるという。「大きくレギュレーションが変わったことで、コンセプトも大きく変わりました。中でもエアロダイナミクスは、フロントウイングの位置が上げられ、リヤウイングの位置は前に、そしてディフューザーも下げられたことで、空気の流れが大きく変わってしまいました。ですので、TF105はその新しい流れに沿って開発してきました。一番気を使ったのは、ディフューザーの部分ですね。大きく落ち込んだディフューザーの部分のダウンフォースを回復するために、サイドポンツーンやエンジンカウルなど、全体の形状を見直しました」
エアロダイナミクスの変更は全体の印象も大きく変えることになった。大幅に位置を上げられたフロントウイングにより、車両下面はぱっくりと口を開けたようになり、リヤウイングも前に移動されることによって、翼端板だけが後ろに張り出される形となった。サイドポンツーンは後ろに向けて大きく削られ、空気をデュフューザーに向けて集めていくような形状となっている。
トヨタTF105の開発は昨年6月から行われてきたという。新しいレギュレーションに沿って開発は進められ、その中でも順調に進んだのがエンジンだった。エンジンは昨年のシーズン中には用意され、昨年のシーズンオフのテストでトヨタTF104に載せられて十分な走り込みが行われていた。
「エンジンは昨年オフのテストでかなり走り込んで、データを取っています。2レース持たせなくてはいけないということで、約1500kmのライフが必要になってくるわけですが、すでに信頼性の部分では確認済みです。性能的にも、昨年のエンジンに比べ、回転数、馬力ともに遜色ないものです」
エンジンの信頼性を上げるためには、ピストンなど回転部分の耐久性を上げてやらなければならない。そのためには重量的に増えてしまうことになるが、重くなると当然回転を上げることができない。軽く、しかも耐久性を上げる。この相反するふたつの条件を満たすため、開発には非常に苦労したというが、すでに満足いくレベルまで仕上がっているという。日本のトヨタ自動車と連携した研究、開発による、トヨタお得意のエンジンパフォーマンスは今年も健在のようだ。
最後は、タイムに最も影響するタイヤだが、これもすでに昨年末のテストでかなりのデータが取れているという。「去年のオフシーズンテストに今年用のタイヤをいろいろとトライして、良いものを見つけましたが、まだ最適かどうかというところまではいっていませんね。1レースを持たせるタイヤを見つけなければならないので、テストもレースディスタンスを走り、評価する必要があります。そのため、昨年のテストはかなり多くの距離を走りました。また、タイヤの使い方も非常に重要になってくると思います。ダウンフォースなど、タイヤの磨耗についてはいろいろな要素があるからです。そういった意味でも、TF105は新しいタイヤをうまく生かせるためのセッティングが施されています」
新たに加わったふたりのドライバーも新しいF1カーの開発に大いに役立っているという。ふたりとも昨年はトップチームに在籍していたため、勝てるマシンに必要なことがわかっているからだ。彼らがもたらす情報がトヨタTF105の開発に大いに役立ったのだという。
「昨年のテストで、ヤルノもラルフもTF104の印象は思ったより良かったようですね。ただ、ウィークポイントもはっきりしました。我々が思っていたことが、それほどずれてはいなかったですね。テストでのふたりは、やはりヤルノは一発の速さを持つドライバー、ラルフは一発の速さもある上、レースを速いペースで走れるドライバーという印象ですね。どちらにせよ、昨年中に新しいドライバーと一緒に仕事ができたのは良かったと思います。すでにチームの中で良いコミュニケーションが取れていますからね」
ドライバーとのコミュニケーションもそうだが、チーム全体も円滑に動き始めているという。昨年、シーズン途中に大きくチーム内の改革を進めてきたパナソニック・トヨタ・レーシングだったが、ここに来てその効果は出てきているようだ。
「TF105の製作も非常に順調でした。思ったより早く出来上がって、おかげで年末はゆっくり休めました。パーツの試作などでも精度が上がって、何度もやり直すということがなくなりましたからね」
マイク・ガスコインがトヨタに移籍してから初めて一から作り上げたF1カーとなるトヨタTF105。F1参戦4年目となる今シーズン、このF1カーの仕上がりに大きな期待が寄せられている。
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