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Higashi Fuji Technical Center at the forefront of R&D in Japan
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研究施設内部を一部公開
主査:永井洋治  
今回公開することになった研究施設を紹介しよう。

東富士研究所の役割
TMGは目前に迫ったレースに神経と労力を集中させている。TMGがレースに集中できるよう、東富士研究所のスタッフがトヨタ自動車(株)のリソースを有効に使い、研究開発を行っている。実戦を担うTMGと、それを支える東富士研究所という構図だ。どちらが欠けてもF1参戦活動は成り立たない。

● 東富士研究所の役割を教えてください。
モータースポーツ部エンジン主査 永井洋治:「TMGはレース活動に焦点を絞っています。レースで競争力を得るには5馬力、10馬力が大事になるのですが、それを研究するのが東富士研究所の役割です。どういう燃焼にしたら効率が良くなるのかなど、原理原則を研究し、得た技術をレース部隊であるTMGに投入しています」

● 研究・開発の領域はエンジンだけなのでしょうか。
永井:「当初はエンジン開発を一所懸命やっていましたが、それだけでは不十分だと、車両開発も行うようになりました。車両については、空力と運動解析がメインです」


● どのようなキャリアを積んだスタッフが働いているのですか。
設計グループマネージャー 多田博:「量産車開発からレースエンジンに来る人、逆に出て行く人、形態はいろいろです。私もそうですが、人に付いて回る技術の行き来というのがあります。東富士研究所でF1のエンジンに携わると、その人の技術レベルが上がり、それが量産車に展開される。また、その逆もあります」
  設計グループマネージャー:多田博

エンジン実験担当:
松浦幸三
 
実験グループ 松浦幸三:「F1に参戦するにあたって社内公募があったのですが、私はそのとき燃料電池関連技術の開発をしていました。燃料電池は将来性のある技術ですし、面白くもあったのですが、いろんなことをやればその後きっと何かに生きるはずだろうと、思い切って手を挙げました。F1で身につけたことを将来何とか生かさなくては、と思っています」

車両技術コーディネーション 森谷昌弘:「モータースポーツの厳しい世界で鍛えられますので、エンジニアの育成にとって非常に有効な環境だと思います。私のグループだけを見ても、駆動系出身の私をはじめ、実験、サスペンション、生産技術と、いろんな部署から人が来ています」
  車両技術コーディネーション担当:森谷昌弘

● TMGとの情報のやりとりはどのように行っているのですか。
松浦:「エンジン関係だけで2週間に1回、TMGとテレビ会議をしています」

永井:「また、必要に応じて、モータースポーツ部からの出張者が順次TMGに向かいます」

森谷:「空力関係は週に1回TMGとミーティングを行っています。先行開発がメインですが、計算には時間がかかりますので、現行モデルの開発でTMGをサポートする場合もあります。そういったやりとりをテレビ会議を通じて行っています」


1. エンジンシミュレーション試験

実験棟の一室からF1のエンジンサウンドが聞こえてくる。シフトアップとシフトダウンを繰り返すなど、まるで本当にサーキットを走っているようだが、これは「サーキットパターン・シミュレーション」という実験を行っているからだ。


シミュレーション試験担当:佐藤真之介  
担当エンジニア 佐藤真之介:「サーキットでの実走行データを元にして、耐久性試験や実車走行時の現象を再現しています。改修前のホッケンハイムをメニューに用意していますが、それは全開率をはじめエンジンにかかる負荷が高いからで、評価に適しているからです。ホッケンハイムのほか、スパ・フランコルシャンや鈴鹿、インディアナポリスなども再現できます」

● この試験のメリットを教えてください。
佐藤:「例えば、サーキットパターンのシミュレーションを行っているときでも、ピストンの状態を時々刻々と測れることです。こうすることでより実走行に近い状態での解決策を見つけられるようになりました」


  CFDアプリケーション画面
2. CFD
東富士では、エンジンの先行開発だけでなく車両関連の先行開発も実施しているが、代表例としてCFDを公開しよう。CFDとは数値流体力学を意味する英語の頭文字を組み合わせた専門用語だが、要するに目に見えない空気の流れを視覚化する技術のこと。この技術を用いて空気の流れを解析し、得られたデータをウイングをはじめとするボディパーツの設計に反映させている。

担当エンジニア 原本誉剛(工学博士):「F1カーを速くするためには、ダウンフォース(空気の流れを利用して車体を地面に押さえ込む下向きの力)を大きくすること。さらに、空気抵抗を減らすことの2つが重要になります。東富士研究所では数レース先での投入を目指した開発をTMGと連携して行っているほか、どうすれば効率が良くなるかといった原理原則の研究、いわば先行開発を行っています。例えば、TMGと連携した直近の開発では、『このパーツをCFDにかけて効果を調べてほしい』というようなリクエストが来ます。それを受けてこちらで検証し、TMGにフィードバックしています」
  CFD試験担当:
原本誉剛

● 2005年シーズンで記憶に残る出来事はありますか。
原本:「冷却風を増やす方法にルーバーの設置があるのですが、付ける場所によって空力性能が落ちてしまいますので、ダウンフォースの値を維持したままいかに冷却風を増やすかに苦労しました。TMGの風洞できちんと結果が出たときにはホッとしました」


3. その他の研究・開発
トヨタ東富士研究所が担うF1先行開発の具体例を紹介したが、東富士研究所ではこのほかにも、さまざまな開発を行い、TMGを強力に支援している。

● 順に、担当業務の内容を教えてください。
吸排気系開発担当 田中淳哉:「吸気ポート、排気ポート、燃焼室形状など、吸排気系アイテムの研究開発をしています。エンジンに空気を吸わせる通路を吸気ポートと言いますが、この形状により性能が変わってきます。コンピュータを使い、うまく性能が出るような形状を解析しています。排気ポート、燃焼室形状についても解析を通じて形状を最適化しています」

 
吸排気系開発担当:
田中淳哉
吸排気系シミュレーション

動弁系開発 主担当員 河北耕作:「実物のシリンダーヘッドに動弁系、すなわち吸排気バルブ、ニューマチックシステム、カムなどを取り付け、試験を行い、新しいアイデアを探し出してTMGに提案しています。エンジンは空気をたくさん入れてしっかり燃焼させ、高回転にすればするほど馬力が出ます。そのためバルブは高回転まで設計通りにちゃんと開閉しなければいけません。その一方で、フリクションを押さえ込めばロスが減って馬力が増えます。これらに対して動弁系はどうあるべきかを探っています」

動弁系試験   動弁系開発担当:
河北耕作

単気筒性能試験 担当員 家田尚幸:「単気筒エンジンを使った先行開発、とくに、先端計測技術を利用した燃焼解析、燃焼改善を重点的に行っています。クルマが年々速くなると、馬力だけでなく燃費を良くしてレース戦略に自由度を持たせ、好成績に結びつけることが大事になります。レースでも燃費はすごく重要なのです」

単気筒性能試験開発 担当:家田尚幸   単気筒試験

2軸ベンチ試験 主担当員 高岡俊夫:「実車のギヤボックスを搭載した状態でサーキットシミュレーションを行っています。より実車に近い状態で計測し、車両の総合制御の検討に役立てています。V10試験機のおかげでエンジンが壊れなくなりましたが、2軸ベンチを稼働させれば、ギヤボックスも壊れなくなります」

二軸ベンチ試験   二軸ベンチ試験担当:
高岡俊夫

車両運動解析 担当:
三浦知彦
 
車両運動解析 担当員 三浦知彦:「走行中の車両の動きを擬似的に再現させるツールを用い、車両開発の効率化に結びつけています。走行した際にサスペンションアームがどう曲がるかなど、車両運動解析のツールを使えば、実際に走行する前に予測がつきます」

車両運動解析 主担当員 角賢治:「車両運動解析は最終的にはタイヤのためにやっているようなもので、タイヤをメインに見た場合にサスペンションレイアウトはどうあればいいのか、という提案のもとにシミュレーションしています。来週や再来週のためのセットアップというより、少し長めのスパンで物事を見ています」
  車両運動解析 担当:
角賢治


こうしてトヨタ東富士研究所の活動を見渡してみると、F1カーの開発において、同研究所の受け持つ役割の大きさに気づくことだろう。日本とドイツ、拠点は遠く離れていても、実質的には一丸となって動き、その過程でグローバルに展開するトヨタの総力が結集しているのだ。

そして、トヨタ自動車(株)本社地区の生産部門でもF1に携わっている者たちがいる。
エンジンの要の部品であるシリンダーヘッドやシリンダーブロック、クランクシャフトを作っている。加工精度はある程度機械を使って上げることができるが、最後は匠の仕事が必要になる。その、匠の仕事──技能、技術に優れた匠達が仕上げた部品が、TMGに送り出されている事も、改めてここで紹介させていただく。

表舞台に立つことはないのでそうとは気づかないが、実に多くの日本人スタッフがその活動を支えているのである。

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