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遠征レースの舞台裏
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ヨーロッパを離れた海外のレースでは、チームがレースで戦うために必要なものすべてを確実にそろえておくことが非常に重要になる。ここでは、そんな遠征レースを裏で支えているスタッフの様子を紹介しよう。

目の前には100近いコンテナが雑然と並んでいる。サイズはまちまちでどれもなんの変哲もない箱だ。しかしこれらのコンテナの中には、総計40トンにも及ぶレース用品が収められている(それぞれの箱は所定の“パレット”と呼ばれる積荷台にまとめられる。海外レースでは8~9個のパレットを使用し、これが航空便に積み込まれる)。すべては現代レースの粋を集めた装備ばかりで、シャシーや予備のクルマを組み立てるのに十分なスペアパーツもこのボックスに収められている。  

一見するとどこに何があるか見当もつかないが、パナソニック・トヨタ・レーシングのスタッフの手にかかれば、ものの数時間でケルン工場のミニチュア版が、この超モダンなピットレーンに姿を見せることになる。

海外でのグランプリでは約40トンものパーツや機器が積み降ろしされる。

10人のスタッフからなるこのチームを仕切るのがチーフメカニックのゲルハルト・ルコック。このトヨタの先遣隊は4名のメカニックと6名の「トラッキー」と呼ばれるドライバー(欧州で開催されるGPの場合チームはトラックで移動する)で構成されている。

月曜日の朝8時。ルコックのチームはガレージの組み立てに取り掛かる。スタッフの雰囲気も明るく和やかだ。

スタッフ全員、ルコックが作成したマスタープランに沿って無駄ひとつない作業を進める。ルコックのプランは緻密そのもので、どのパーツがどのボックスに収納されているかもれなく記されている。当然、ガレージのレイアウトから一見些末に見えるディテールまで、すべてが計画済みだ。

●無駄にできる時間は1分もない

F1カーは水曜日まで梱包されたまま保管される。

「最初にクレーンを組み立てます。その後、あらかじめケルンで練っておいたレイアウトに従い、ガレージの各スペースを仕切る壁を取り付けます。これによりエンジン、タイヤ、データ測定などオペレーションごとのエリアが実現され、効率よく働く空間を造ることができるのです」とルコックは語る。

2日目。スタッフ第二陣が到着。ガレージも細部まで組み立てられた。準備が着々と進んでいく中、手の空いたスタッフは清掃に余念がない。チームとしての誇りということもあるが、F1では微細なダストでさえパフォーマンスに影響を与えかねない。ガレージ内を清潔な状態にキープしておくことは非常に重要だ。

F1カー自体はコンテナに収納されたまま水曜日まで誰ひとりとして触れることはないが、この頃になるとガレージは完成し、チームスタッフも全員が顔をそろえる。またケルンから送られた補充のスペアパーツも続々と到着する。ガレージにおいてはまさに「時は金なり」。紛失したパーツを探している暇など1分たりともないからだ。

チームはすべてがミスなく進むよう、集中している。

「時間はいくらあっても足りないですよ」とルコックは言う。

「いざ必要なときに、工場からそのパーツが送られてくるのをただ待っているなどもってのほか。すべてのリソースが常に過不足なく配置され、円滑に機能していなくてはなりません。時間を無駄にすることは、ライバルチームの手助けをすることに他ならないのです」

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