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Rd8. Grand Prix of Great Britain
grand prix
新居章年リポート
2006年6月11日(日)
 

いつも応援ありがとうございます。伝統のグランプリ、シルバーストーンで行われたイギリスGPの報告をいたしましょう。

モナコとはまったくキャラクターの異なるシルバーストーンでTF106Bの真価を試したい
モナコGPの後、われわれはバルセロナで合同テストに参加しました。もちろん、シルバーストーンで行われるイギリスGPに向けたテストが主な目的です。中高速コーナーが多いバルセロナは、シルバーストーンと似たようなキャラクターを持ったサーキットだからです。以前ポール・リカールで行ったテストでも、シルバーストーンに向けたテストはしていますが、直前に行われた今回のテストでは最新スペックのタイヤをトライするなど、最終調整を行ったわけです。それとともに、カナダ・アメリカに向けたテストも引き続き行いました。

ノーズコーンが外され、足回りの構造がよく見えるTF106B。走行時でも違いが判別できるプッシュロッドの角度の他に、これまではモノコックに下部にあったキール部がなくなり、ノーズの断面形状が四角くなったことまで確認できる。  

レースカーは次のグランプリに備えて、ファクトリーでメンテナンスしなければならなかったため、テストでは新型106Bに関してはTカーで使用しているTF106/06を持ち込み、もう1台はTF106/05をリカルド・ゾンタとオリビエ・パニスが走らせました。

今回シルバーストーンに持ち込まれたTF106Bは、モナコGPで走らせたハイダウンフォース仕様から、いくつかの空力パーツが取り除かれたスタンダード仕様に変更されています。空力以外、メカニカルな部分はモナコGPから大きな変更はありませんが、前回モナコで無念のリタイアの原因となったハイドロ系のポンプは、新しいものに交換。エンジンに関しては2台ともモナコから引き続き同じものを使用しました。

シルバーストーンは路面が粗く、タイヤに負担が大きいサーキットです。Bスペックはタイヤのパフォーマンスをうまく引き出すために開発されたクルマなので、モナコ以上にTF106Bの真価が試されるグランプリになると考えています。そういう意味では、日曜日は是非ともドライコンディションで戦いたいと思っていました。

Bスペック2戦目の今回は順調にセットアップが進行
4月にシルバーストーンで行われた合同テストに参加していなかったこともあり、午前中は通常行うインスタレーションラップ(機能チェック走行)だけでなく、ヤルノ・トゥルーリが計測ラップを2回行いました。ところが初日のシルバーストーンは風が強くて、コースのコンディションもあまり良くなく、走行を終えたヤルノも「グリップレベルが想像以上に低かった」とコメントしていました。そのため、午後の走行に向けて、われわれはヤルノだけでなく、ラルフ・シューマッハーのクルマのセッティングも調整し直しました。

そのため、午後のフリー走行では、まず変更したセットアップの方向性が正しいかどうかを確認することから始めました。その上で、少しずつセッティングを煮詰めていく作業に移り、クルマのバランスがとれたところでロングランを行いました。

 
予選までは好調なグランプリウイークをこなしていたラルフだったが、今シーズン何度かあったように、2人のドライバーに対して交互に不運なトラブルやアクシデントが発生。決勝ではラルフはスタートの周でリタイアとなる。
Bスペックのデビュー戦となった前戦モナコでは、初日のフリー走行ではやるべきことがたくさんあり、少々ドタバタしたところもありましたが、今日は非常に順調にセッションを消化することができたと思います。予選では2台そろってトップ10に入ることはもちん、今シーズンの予選最高位である6番手を更新して、さらにはチームとしての自己ベストを更新したいと考えていました。



僅差で今シーズンのベストグリッドは逃すも、レースへの手応えはあり
金曜日のうちに、予選とレースで使用するタイヤに関してはおおよそ選択の目途はついていました。そのため、土曜日午前中のフリー走行では、選択する予定のスペックのユーズドタイヤを装着して、レースに向けたファインチューニングを行っていました。セッションの最後に念のために、もう1種類のスペックのユーズドタイヤを履いて、ラップタイムの推移を確認して、予選前に最終的なタイヤ選択を行いました。

しかし、予選では第1ピリオドの1回目のアタックでヤルノのエンジンにトラブルが発生。アタックラップに入ったところで、テレメトリーのデータ上に異常が見られたので、すぐにピットインするように指示したのですが、ピットロードで白煙をあげてしまいました。まだ、正確なところはわかりませんが、エンジン本体のトラブルであることは間違いないので、日曜日のレースに向けてエンジン交換をしました。ヤルノは金曜日から調子が良く、クルマもいい感じで仕上がっていましたから、本当に申し訳なく思っています。

シルバーストーンサーキットに持ち込まれたTF106Bは、市街地サーキットであるモナコ仕様から、追加されたウイング類が取り外された仕様となっている。モナコが特別ダウンフォースが必要なため、今回の仕様が通常時のものとなる。  

今年何度かトラブルが出ていますが、同じトラブルは繰り返して発生させてはいません。でも、サンマリノGPから連発していることは確かです。今後は信頼性の向上を上げることが急務ですね。

ラルフに関しては、ほぼ予定通りの結果だったと思っています。予選では想定していたよりも若干グリップが足りなかったようですが、燃料搭載量を考えれば、その時点では非常に期待できるポジションを獲得してくれたと思います。あとは最終ピリオドでニュータイヤを2セット使えるような戦い方をすることが、われわれの今後の課題でしょうか。

タイヤ選択はブリヂストン勢でも分かれていましたから、これが日曜日のレースでどのような結果につながるのか、特にラルフには上位フィニッシュのチャンスがあったので、レースは楽しみにしていたのですが……。ヤルノもクルマは決まっていましたので、決勝ではどこまでポジションを上げてくれるかという気持ちでした。

ポイントにはつながらなかったが、TF106Bのポテンシャルは確認できた
そして決勝ですが、ラルフに関しては、もう言えることはありません。まず、スタートで出遅れてしまいました。スタートダッシュはスペイン、モナコと2戦連続して失敗していて、今回はその対策をトライしたのですが、うまくいきませんでした。そのため、ラルフは1コーナーを通過した後、12~13番手までポジションを落として高速S字コーナーに進入し、最初にスコット・スピード(トロ・ロッソ)に追突され、姿勢を崩した所で今度は後続のマーク・ウェバー(ウイリアムズ)とクラッシュしてしまいました。

対照的にヤルノのほうは出遅れなくスタートできました。1コーナーまでにポジションを上げることはできませんでしたが、その後、次々と前車をパスして、1周目に13番手までポジションアップしてくれました。しかし、シルバーストーンはタイヤの摩耗に厳しいサーキットであると同時に、燃料搭載量がラップタイムに与える影響の大きいコース特性を持っているので、そのためどうしても前車のペースに自分の結果が左右されやすいんですね。今回のヤルノはそのようなレースになったと思います。だから、最後尾からスタートして11位という成績は、決して悪くはありませんが、もう少し上へ行くことができたと思うだけに残念です。

 
成績こそ11位というものではあったが、レースを通じて安定したパフォーマンスが見られ、新型車投入の効果が確認された。特に、これまで何度かあったスティントごとにペースが変わってしまうということがなくなったことは今後の戦いの上では大きな役割を果たすはずである。
今回のグランプリでは、前戦モナコGPでは正確に把握することができなかったBスペックのポテンシャルを把握するというのが、ひとつのテーマでした。実際にレースを行ってみて、これまではスティントごとにペースが変わることが少なくありませんでしたが、今回はヤルノのラップタイムを見てもわかるように、各スティントとも安定したペースで走行できていました。「特にセクター3でのトラクションが良かった」とレース後、ヤルノもBスペックに満足しています。

こういう結果を総合すると、残念ながら今回のイギリスGPで、われわれパナソニック・トヨタ・レーシングはポイントを獲得することはできませんでしたが、TF106Bのポテンシャルの高さを確認できたという点では収穫があったと思います。その成果を次の北米2連戦につなげていけるよう頑張っていきますので、今後とも応援よろしくお願いします。

シルバーストーンでの新居章年。レースの結果は振るわなかったがTF106Bのポテンシャルは確認できた。次の北米2連戦では実力発揮なるか?