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Rd16. Grand Prix of China
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新居章年リポート
2006年10月1日(日)
 

いつも応援ありがとうございます。今回はレースウイークを通じて苦しい戦いとなりました中国GPのご報告をいたします。

新しい空力パッケージで中国GPに登場したTF106B。エンジンカウルとその周辺に大きな変更が施されている。  

●日本GPを念頭に置いたアップデートを実施
今シーズンも残り3戦になりましたので、頑張りたいという気持ちで上海に来ました。クルマについては、エンジンの排気系、エンジンカバー、フロントウイングを変えました。

排気系は形状を変えてタイトにしましたが、これは空力を踏まえた形になっています。トヨタはエンジンと車体をひとつ屋根の下で開発しているのでできることですが、空力的なことを追求するために、排気系を変更したということです。かなり苦労しながら開発を進めましたが、これも日本グランプリに間に合わせるためです。エンジンカバーがスリムになったのは、見ていただくとわかると思います。

 
TF106Bをうしろから見ると、もとからシャープな形状だったエンジンカウルだが、さらにスリムになったことがわかる。

フロントウイングも変わってますが、これは細かなチューニングの範囲ですので、見てもすぐには分からないでしょう。排気系、エンジンカバー、フロントウイングの変更で、少しではありますが性能向上を実現しています。

昨年は9番手からスタートしたラルフが3位に入りましたが、レース中のファステストラップはかなりいいレベルに達していました。そのときはダウンフォースをかなり付けたセッティングで臨みましたので、とくに低速区間であるセクター2でいいタイムを刻むことができました。今年はどれだけ最高速に振ることができるか、を課題に臨みました。

●突然の雨に振り回された金曜日
朝の時点ではいつものように、午前中にインスタレーション(機能チェックのための走行)を行い、午後にセットアップの調整を含めた走行を行うつもりでした。降水確率も25%だったので、雨は降らないだろうと思っていたのですが、午後1時頃になったら「降るぞ」ということになったので、バタバタ準備を始めました。

いつもの午後はセットアップの変更を2~3回やりつつ、ロングランを行っているのですが、この日はタイヤの比較をしただけで、セットアップを詰める作業まで進めることができませんでした。ロングランのあと、ラルフは少しセットを調整しましたが、ヤルノはそこまでやっていません。予報どおり雨が降ってきたこともあり、ヤルノはインターミディエイトを履いて少し走りました。

空力を中心にセッティングの変更を試しましたが、路面コンディションのせいでタイヤの摩耗が激しく、ウイングの角度を変えるなどして、バランスの変化を試せるような状況ではありませんでした。

データを見ていると、ダウンフォースを付けるとコーナーの多いセクター2は確実に攻めていけます。タイムを稼ぐだけならそこだけ攻めればいいのですが、レースのことを考えると、直線のあるセクター3を大事にした方が有利です。その当たりの見極めは土曜日に持ち越しとなりました。

●2台がまさかの第1予選敗退、この経験を今後に活かす
土曜日午前中のフリープラクティスでは前日積み残したプログラムを消化する予定でしたが、ウエットのコンディションでしたので、ウエット用のセッティングに切り替えました。ただ、土曜日の段階では、決勝日はウエットとドライと半々くらいの確率、しかもスタートはウエットで徐々に回復する傾向だろうと予測していましたので、ドライのセッティングを基本にフロントウイングで調整する方法を選択しました。

Q1で敗退となったため、リスク覚悟のトライをレース戦略に盛り込むことを決定。スタート前に最終確認をするヤルノ。  

予選ではいろいろなことが起きてしまいましたが、残念で仕方ありません。タイムアタックのタイミングの問題などもありましたが、総合的な力が足らなかったと思います。細かく見れば、あそこでアンダーステアを出さなければとか、雨の強さが変わらなければとかいろいろあります。

Q1(予選第1セッション)では最初、ユーズドタイヤを履いてインスタレーションラップを行いました。そこで機能を確認し、新品タイヤに交換して出て行きました。1ラップ目の計測ラップでうまく行かず、2ラップ目に入ったところで赤旗が出てしまいました。ウエットのコンディションで1ラップを完璧に走ることは難しい。それは誰にとっても一緒です。次の鈴鹿も雨の可能性がありますので、今回の結果を糧にして、雨対策をしっかりやりたいと思います。

●レースではリスク覚悟でチャレンジする姿勢を見せる
決勝レースも非常に残念な結果に終わってしまいました。事前の天気予報では、12時半頃まで雨が降ってその後は雨が降らないだろうということでした。スタート時の路面はウエットですが、その後、乾くという予想を念頭に作戦を立てましたが、問題は風もなく日も差さない状態だったので、路面が乾きにくいことです。その場合、ウエットからドライにタイヤを履き替えるタイミングが難しくなります。

上海では、普通に考えれば2ストップが妥当です。路面が乾く状況を考えると、2回目のピットストップの際にドライに履き替えるのが順当でしょう。僕らの作戦の基本もそうだったのですが、チャレンジをしようということで、1回目のピットストップの際に最後まで走りきれる燃料を積み、同時にドライに履き替えました。

 
ピットでドライタイヤを装着、その後ファステストをマークしたラルフ。残念ながら作戦が成功かどうかはわからないままレースを終えてしまったが、トライした価値はあったと新居DTCは振り返る。

あのときはピットに入る4~5周前からピットとドライバーとでどちらのタイヤを装着するか相談しました。ドライバーは「まだちょっと早い」という反応だったのですが、「リスク覚悟で挑戦しよう」と決断し、思い切ってドライに履き替えることにしました。

結果としては交換するタイミングが少し早かったのですが、他のチームと同じペースでタイヤを交換し、そのときのポジションを守っても仕方ありませんので、やって良かったと思っています。ラルフはドライに交換して5周目くらいでペースが良くなり、その時点でのファステストラップを更新しながら走行しました。結果は付いてこなかったのですが、挑戦した価値はあったと感じています。

ヤルノは(空気圧でエンジンのバルブを駆動する)ニューマチックのトラブル、ラルフもエンジンの油圧低下でリタイアすることになりました。2台リタイアの非常に残念な結果ですが、チャレンジする姿勢が打ち出せたのは収穫です。次の日本グランプリでも最善を尽くし、我々のクルマの実力をしっかり出せるよう頑張りたいと思います。

雨に翻弄された中国GPで表情も曇りがちな新居章年。次戦の日本GPでも天候の心配があるだけに、雨対策は必須。目の前に迫った母国GPに向けて最後の追い込みをかける。