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新居章年リポート
2006年5月14日(月)
いつもご声援ありがとうございます。5月に入り、ヨーロッパラウンドがいよいよ開幕。それでは、その緒戦となったスペインGPの報告をいたしましょう。 ●1週間前の合同テストで新しいエアロダイナミクスをテスト ピット作業中のヤルノ車。改良されたターニングベインが見える。ターニングベインからチムニー、ギアボックスカバーと空気の流れが改良されているという。
今回のグランプリが行われるカタロニア・サーキットで、1週間前に合同テストが開催され、我々もそのテストに参加しました。そのテストでの主なプログラムは、序盤戦でTF107をうまく乗りこなすことができなかったラルフのセッティングを煮詰めることでした。さらにヨーロッパラウンドに向けて、投入を予定している新しい部品を試すことも重要なテーマでした。途中雨に見舞われることもありましたが、基本的にそれらは消化して、スペインGPに臨むことができました。ただ、先週のテストはあまり風がなく、風による影響が新しい空力パーツでどれくらい軽減されているのかを正しく判定できませんでした。レースウイークは3日間ともドライコンディションになると予報されていますが、風は先週よりも強いと聞いています。新しい空力パーツがどれくらい効果を発揮するのか、楽しみでした。
●フリー走行で空力の改善を確認、しかし信頼性には不安を残す 新しい空力パーツが投入されたTF107。改良点はギアボックスカバー、チムニーダクト(冷却用排気口)、ターニングベインなどで、前週に行われたテストで好感触を得ての投入。
これまでの我々のセットアップの進め方だと、金曜日はまずダウンフォースを付け気味の状態からスタートして、その後、徐々に削っていくため、金曜日の時点での最高速は相対的に遅いという傾向がありました。しかし、今回は初日としては最高速が遅くなく、最終コーナーの脱出スピードも悪くありませんでした。これは空気抵抗を増やすことなく、ダウンフォースを稼ぐという空力効率を改善した新しいエアロダイナミクスが効果的に作用している証拠だと思います。まだ、ライバル勢がどの程度の燃料を積んでいるかわからないので断定はできませんが、ライバルたちとのギャップも少し詰めることができたと思います。
ただし、一日を通して、そのパフォーマンスを維持できず、消化不良の一日となったことも確かです。ヤルノのクルマには発生しませんでしたが、午後のフリー走行で、ラルフのクルマを襲ったメカニカルなトラブルは、あってはならない初歩的なミス。すでに土曜日に向けて改善することができましたが、今後再発しないように、一層注意して行きたいと思っています。
●ヤルノが今季最高位の予選6番手を獲得 第3ピリオドでは渾身のアタックだったとヤルノが振り返るように見事な予選の戦いぶりで今季最上位グリッドとなる予選6位を獲得。開幕からトップ10グリッド以内をキープしている。
予選でトップ3(フェラーリ、マクラーレン、BMWザウバー)の一角を食うという目標を、ヤルノが6番手を獲得して達成してくれ、それに関しては素直に喜びたいと思っています。
特に予選第1ピリオドの最初のアタックでハードタイヤを履いたヤルノに対して、チームは走行状態を見て、2回目のアタックで使用することとなるミディアムタイヤの空気圧や、アタック前にフロントウイングを細かく調整したスタッフたちはいい仕事をしていたと思います。また、第1ピリオドの2回目のアタックで、2人とも2週連続という作戦を授けたチームの判断も素晴らしかった。これはアタックが集中することが予想されたので、事前に2回連続でアタックすれば、渋滞に引っかかるリスクは軽減されるという理由で採用しましたが、ヤルノのアタックではまさにこの作戦が功を奏しました。
一方、チームメイトのラルフは第1ピリオドの2回目のアタックで、2度とも混雑に遭遇してしまいました。そのため、チームメイトからわずかコンマ2秒で第1ピリオドで脱落。今日の予選はタイムが接近していたために、それが2人を予選6番手と17番手に引き離す結果となりました。ただし、ラルフがセットアップの点で決してクルマに満足していなかったことも確かです。その点はいま一度、反省する余地が残されていると思っています。
●残念な2台リタイアとなったものの、性能向上は確認 決勝でのスタートはうまくいったものの、今回は“渋滞”の中で苦しい戦いを強いられてしまったラルフ。アクシデントの影響で車両のパフォーマンスをフルに引き出せなかった。 2台そろってトラブルに見舞われ、完走することができず、本当に残念です。まずスタート直前にヤルノに発生したトラブルは、燃圧低下によるエンジンストールです。その後、ピットレーンから再スタートすることができましたが、再び同じ症状を繰り返したので、ピットに入れてリタイアさせることにしました。
一方ラルフの方は、序盤戦で我々が課題としていたスタートを無難に切り、ポジションをキープしてくれましたが、1周目の混乱に巻き込まれ、早々にピットインを余儀なくされました。リアタイヤにダメージを負っていたのでタイヤを交換し、作戦を変更して、燃料を少し補給しました。リアウイングの翌端板も損傷していましたが、ペースは悪くなかったと思います。ところが、追突された影響からか、中盤になって今度は車体前方から振動が発生。緊急ピットインさせ、原因を究明した結果、ノーズの取り付けが緩みかけていたことが判明したのですが、すでにレースはそのときかなり進行してしまったため、コースに復帰することは諦めました。
新しいエアロダイナミクスパッケージで臨んだヨーロッパラウンド開幕戦でしたが、残念なことに今季初めて2台そろってリタイアに終わるという結果となりました。とはいえ、アップデートした空力パーツによって、クルマのパフォーマンスが向上したことは確認できました。次のモナコGPでも新しい部品を投入する予定ですので、今後もパナソニック・トヨタ・レーシングへのご声援、よろしくお願いします。
スペインGPのパドックで談笑する新居章年。新しい空力パーツが予選で効果を発揮したものの、レースでは結果を出せなかった。この悔しさを晴らすべく、次戦、伝統のモナコGPではさらなる新パーツを投入する予定。 |