スペインGP テクニカルインサイト
ルカ・マルモリーニ Q+A
●共通ECUに対応する際、どの位の作業が必要だったのでしょう?
「かなりの作業が必要だった。(開発が)凍結されているエンジンは、マネッティ・マレリ社製の別のECUと共に開発されていたため、数多くのロングランをこなさなければならなかった。その上、トラクションコントロールやエンジンブレーキの禁止などの制約にも対処しなければならなかった。たとえそういった変更があっても、自前のECUに自由に合わせることができれば大いに違ったはずだが、実際にはECUも共通化されたわけだ。共通ECUのシステムを説明した書類は受け取っていたものの、それを適性化するにはダイナモ上だけではなくコース上でもテストしなければならなかった。非常に複雑な見直しの作業が必要だったため、全てをテストする時間はなかった。ただし、不確定要素の大半は確認できたと思う」
●以前のECUと共通ECUの違いはどれくらい大きいのでしょう?
「非常に大きい。エンジンに関する部分のみならず、ギアボックスとギアシフトのコントロールの面でもかなり大きい。シームレス・ギアシフト・コントロールは非常にデリケートに出来ているため、些細な不具合やミスも許されない。これに関してチームは素晴らしい仕事をしてくれたが、多大な開発作業が必要とされた。開発が凍結されたエンジンと共通ECUがあるのだから開発はゼロだとみんなは思うかもしれないが、実際には、完全に新らしいエンジンを開発するのに等しいくらいの作業量となった。システムの不適応に関して数多くの問題を抱えることになったし、また、我々は適切なパラメーターの範囲内で動作させるやり方を学ばなければならなかった」
●チームは今も共通ECUを学んでいる途中なのでしょうか?
「それは間違いない。以前のシステムで我々がやっていたことを考えてみれば分かると思う。我々はレース毎にソフトウエアをアップグレードしたが、それにはパフォーマンスに関する改良だけではなく、レース戦略に最適化させる作業も含まれていた。従って、共通ECUに合わせて(システム全体を)完全に最適化するにはまだまだ学ぶことが多くある。新しい装置そのものはちゃんと扱えているし、レースでも問題ないが、ただしあらゆる状況下でテストできたとは思えない。我々のチームは素晴らしい仕事をしてくれたと信じているが、それでも学習の段階はやはりまだ残っている。全ての問題が解決できたと考えるわけにはいかないし、オーストラリアではティモのギアボックスに問題が生じた。あれはシステムをセットするやり方に関して、我々が誤った解釈をしていたためだった」
●クルマの挙動に関してどんなことが変わったでしょう?
「昨年と今年のクルマを直接比較してみるとかなり興味深い結果になるはずだ。ドライバーのペダルポジションは昨年の方が遥かにデジタル化されていた。そのためコーナーの中盤でペダルがフラットになってもエンジンのスロットル(の動作)は遅れる形になっていた。今年の場合、エンジンのスロットルと足の動きが直接比例する形になっている。つまり、昨年までECUがやっていたことを今年はドライバーが自分でやらなければならないんだ。ドライバーにとってはスロットル操作がより難しくなったが、当然ながら、我々はエンジンをもっとスムーズにすることによってその作業を手助けしている。その結果、ラップタイムの違いは僅かでしかないが、ただしミスを犯す危険は大きくなった。レース全体を通じてもそうだし、また、グリップレベルが変化する状況ではドライバーに一層ストレスがかかることになる」
●ドライバーは、トラクションコントロールよりもエンジンブレーキの方が大きな問題だと言っているのでしょうか?
「新レギュレーションに変わった当初はトラクションコントロールの禁止に目が行きがちで、効率の良いブレーキングをもたらすエンジンの貢献がどれほど大切なのかについてはそれ程重要視されていなかった。だが、これが実はドライバーにとってかなり大きな意味を持つことが分かっている。ブレーキングが不安定になるとクルマのコントロールを失いやすくなるため、ドライバーはグリップの変化に注意を払わなければならない。レギュレーションの範囲内であれば、幾分ドライバーを手助けするためにエンジンのマッピングを利用することもできるが、昨年と比較するとその効果は僅かでしかない」
●ローンチコントロールがなくなったことにより、スタートの手順はどの位変わりましたか?
「以前より遥かにドライバーのスキルに依存するようになった。スロットルの開きが僅かな時にエンジンのレスポンスを弱める特別なローンチ用マッピングを使用することができるため、ドライバーはホイールスピンを上手くコントロールすることができる。ただしこのマッピングは90秒間使わなければならないため、過度なセッティングはできない。そうしないと1周目にスピンする危険を抱えてしまうからね。スロットルを全開にすれば当然スロットルが全開になるわけで、それを遮断することはできない。例えば、最初のうちは非常に繊細な反応にし、その後に荒々しい反応となるようスロットルマップを作っておくと、ドライバーが順位争いを繰り広げる1周目にリスクを抱えることになる。つまり、スタートだけではなく1周目のパフォーマンスも重視しなければならないわけだ。例えば、ヘアピンに差し掛かった時に突然スピンしてもらいたくはないからね。新レギュレーションは、特別なローンチ用マッピングがドライバーを過度に手助けしないように考えられているんだ」