新居章年リポート
2008年7月22日(火)
いつもご声援ありがとうございます。いよいよ今年のF1グランプリも半分を折り返し、今回のドイツGPから後半戦に入りました。ドイツGPは昨年から隔年でニュルブルクリンクとホッケンハイムリンクで交互に開催されることになり、今年は2年ぶりにホッケンハイムリンクでの開催となりました。ドイツGPはチームにとっても、そしてティモ(グロック)にとってもホームグランプリ。それでは、さっそくそのドイツGPの模様を報告しましょう。
スペインGP以来の大幅アップデートを施して臨んだドイツGP。そのひとつがフランスGP以来改良を続けてきたフロントウイング。先立って行われたホッケンハイムテストから得られた結果を基に決定されているだけあって、予選では1分15秒122という速さをみせた。
●スペインGP以来の大幅なアップデートでホームグランプリに臨む
直前に行われた合同テストでは、今回のドイツGPで投入を予定していたさまざまな空力パーツを試しました。フランスGPで新しくして、イギリスGPでさらに改良を加えたフロントウイングは、今回のドイツGPでもう一段階ステップアップした仕様となりました。またバージボードとターニングベインが新しくなり、サイドポンツーンの前方についているアッパーボーダフィンも見た目には分かりづらいですが、手を加えました。これらの変更はダウンフォースを維持しつつ、安定して性能を発揮する目的から加えられたものでした。
今回の改良は、ヨーロッパラウンド開幕戦となった4月のスペインGP以来の大幅なアップデートとなりました。スペインGPでは予想していたほど結果に結びつけることはできませんでしたので、今度こそ好結果を期待してグランプリに臨みました。
フロントウイングだけでなく、サイドのエアロパーツも新しいバージョンのものを採用した。ホッケンハイムサーキットは中~高程度のダウンフォースレベルという平均的特徴をもつ。それだけに走行安定性とのバランスを重視したセッティングで臨んだ。
●ベストタイムは伸び悩んだが、クルマの仕上がりは手応えあり
ウエットコンディションでスタートした金曜日午前中のフリー走行は、2台ともクルマのバランスは悪くありませんでした。ところが路面がドライになった午後のフリー走行2回目では、午前中のセットアップに改良を加えたものの、思うようにバランスを向上させることができませんでした。そのためベストタイムだけを見ると、あまり芳しくはありませんでしたが、基本的なセットアップに関してはすでに良いバランスに仕上げた上で、さまざまにトライした結果ですので、それほど悪いものだとは感じませんでした。
さらに我々はグリップ力の高いミディアムタイヤを早い段階で投入しました。ティモは午後のセッションでセクター2まで自己ベストを更新していましたが、その直後にコースアウト。ヤルノ(トゥルーリ)も最後にハードタイヤでアタックに出て、セクター1は自己ベストを更新していたのですが、その後の走りをまとめることができずにタイムが伸びなかっただけなので、それほど気にかけることではありませんでした。
ただこの時点で我々が心配していたのは、土曜日に雨が降る確率が高く、日曜日はドライになるという予報が出ているため、ダウンフォースレベルをどのレベルに設定して、予選に臨むかということでした。
第2のホームで開催された今回の予選で、ヤルノは見事その期待に応え今季最上位グリッドである4番手を獲得した。決勝でも迫りくるライバル達を抑え込む走りをみせたが、クルマのバランスに苦しめられ、4戦連続ポイント獲得はならなかった。
●新フロントウイングの投入がTF108の進化を促進。ヤルノが今季最高の予選4位
土曜日、予選の第1ピリオドでは、今回用意された硬い2種類のタイヤのうち、硬い方のハードでのグリップ感がいまひとつでした。ところが、柔らかい方のミディアムに変えてから急激にグリップ力が増し、ヤルノ、ティモが1000分台まで同一の好タイムで第1ピリオドにクリアしました。さらに第2ピリオド最初のアタックでの1分15秒122というタイムは我々だけでなく、記録を出したヤルノ自身もはっきりとした手ごたえを感じ、自信を深めたと思います。ただ、第2ピリオドの終盤、ふたりのドライバーがアタックしていた際にセクター2で風の影響を受けたのは残念でした。そのため、ヤルノがベストタイムを更新できなかっただけでなく、ティモも思うようなアタックにまとめることができず、100分の2秒差で最終ピリオド進出はなりませんでした。全力を出し尽くして落ちたのではあれば納得もできますが、力を出し切れず僅差で最終ピリオド進出を逃がしてしまい本当に悔しい結果でした。
とはいえ、その最終ピリオドでヤルノがティモの分まで頑張って、素晴らしいアタックを披露してくれました。ずっとモニターを見ていたので4番手のタイムが出た瞬間こそ大きな驚きはありませんでした。しかしこれはフランスGPから投入しているフロントウイングを改良した新型ウイングが、ここにきて風洞実験だけではなく、実走でもドライバーから好評価を受け、高パフォーマンスを発揮するようになったと本当にうれしく思いました。今日の結果は、ドライバーやクルマをセットアップしたレースチームの頑張りだけでなく、ファクトリーで働く開発陣たちの努力のたまものでもあります。第2のホームグランプリでいい予選を披露することができたと思っています。ただ、グランプリはまだ終わったわけではありません。日曜日のレースでは、ぜひとも表彰台を狙って精一杯頑張りたいと願っていました。
リアサスペンションのトラブルとみられるアクシデントに見舞われてしまったティモ。クルマはかなりダメージを受けた様子だったが、幸いにもティモは大事に至らなかった。安定したドライビングを見せていたので次戦に期待がかかる。
●ティモが大事に至らなかったことが不幸中の幸い
まずレースを終えて、ティモの無事が確認されたことが何よりです。まだクラッシュした原因は特定できていませんが、モニターでは右リアサスペンションに何らかのトラブルが発生したように見えました。これからきちんと調査し、二度とこのような事故が起きないよう対策を施さなければなりません。
さてレースですが、2台ともスタートは悪くありませんでした。4番手からスタートしたヤルノは、ポジションをキープしながら5番手のフェルナンド・アロンソ(ルノー)と激しいポジション争いを繰り広げた末に、6番手のロバート・クビサ(BMWザウバー)に4番手の座を明け渡すことになったのは、残念でした。その後は5番手をキープしていたのですが、1回目のピットストップ後からクルマのバランスに苦しんでペースが上がらなくなりました。逆に29周目まで1回目のピットストップを延ばしたティモのほうがハンドリングは良かったようです。おそらく、あのまま走っていれば、2回目のピットストップ後にはティモがヤルノを逆転して、ポイント圏内を走行していたかもしれません。それだけにティモのクラッシュは悔やまれるアクシデントでした。
残念な結果に終わった第2のホームグランプリでしたが、まずは予選での一発のスピードアップに関しては、いい方向に向かっていることが確認できました。ただし、上位陣とレースで戦うにはまだまだ課題が残されていることも再認識したグランプリでした。それらの課題をクリアして、少しでも早くトップに追いつきたいと思っていますので、ご声援よろしくお願いします。
ホッケンハイムでの新居章年。今回は予選の速さがレースの結果につながらなかった。ヘレステストで課題を克服し、次戦では再びポイント獲得を狙う!