新居章年リポート
2008年8月4日(月)
いつもご声援ありがとうございます。3月に始まったF1も8月に入り、残すところあと3カ月余りとなりました。8月最初のグランプリは、東ヨーロッパで唯一開催されるハンガリーGP。それでは、最高気温が30℃以上に達した真夏の祭典ハンガリーGPの模様を報告しましょう。
ハンガロリンクにはモナコ同様にハイダウンフォース仕様のクルマを持ち込んだ。さらにフリー走行においてその効果が確認された新型シャークフィンエンジンカウルを投入した。
●前戦でティモのクルマに発生したトラブルをしっかりと分析
ハンガリーGPに向けての話をする前に、まず前戦イギリスGPでティモ(グロック)のクルマに発生したトラブルについて報告いたします。ケルンに帰ってファクトリーでさまざまな調査を行ったところ、ティモがホッケンハイムリンクの最終コーナーでコントロールを失ったのは、右後輪を固定するトーロッドが破損したのが原因だということがわかりました。通常であればシーズンの半分ぐらいは使うことができる部品なので、耐久性に問題があったわけではありません。走行データを詳しく調べていき、ドイツGPの前に行われたイギリスGPの決勝レース中にティモがコースオフした時に受けたダメージが引き金になったとの結論になりました。そのため、我々はファクトリー内での安全管理を見直し、二度と同じ事故がサーキットで繰り返されないよう、早急に手を打ちました。
さて、今回のハンガリーGPに向けてですが、舞台となるハンガロリンクはモナコに次いで狭く曲がりくねったサーキットなので、ハイダウンフォース仕様のパッケージとなっています。ただし、5月に行われたモナコGPからは、さまざまな部分にアップデートした空力パーツを投入しています。その中でも特徴的なのが、通常のエンジンカウルの後端が水平に伸びたシャークフィン型のエンジンカウルです。ただし、ハンガリーGP直前の合同テストでレギュラードライバーが試していないため、金曜日のフリー走行で従来型のエンジンカウルと比較してみて、レースで採用するかどうかを決定したいと考えていました。
スタートでクビサを抜き、4番手に上がったことが表彰台の大きな要因になった。ここで順位を上げられたからこそ、前を走るチームのトラブルをうまく味方につけることができたと言えるだろう。
●好感触のシャークフィン型新エンジンカウルで戦うことに
金曜日のフリー走行でのポジションは、ヤルノ(トゥルーリ)が9番手でティモが11番手という結果に終わりましたが、これはさまざまなメニューをこなしている中でのベストタイムなので、気にしていませんでした。またドライバーはタイヤのグレイニング(めくれ摩耗)に苦しんでいましたが、これは軟らかいコンパウンドのタイヤが投入されるハンガリーGPでは珍しいことではなく、すべて想定内でした。
2種類のエンジンカウルを試した結果は、我々が期待していた通り、シャークフィン型のほうが速いことがレギュラードライバーの運転によっても確認できたので、土曜日以降はこの新型エンジンカウルで戦うことにしました。昨年やや苦しんだセクター2において、今年はとても快調に走行できたので、2日目以降への期待が高まりました。予選での目標は2台揃って最終ピリオドに進出すること、そのうえでトップ10の真ん中あたりに2台が食い込んでくれることを願っていました。
ピットストップでトラブルがあったものの、ティモは自己そしてチーム最高位となる2位表彰台を獲得した。GP2時代の走行経験も役立ち、集中力を切らすことなく後続の猛追を退ける素晴らしい走りを見せた。
●満足なアタックではなかったものの、予選で2台揃ってトップ10入り
トップ10に2台のクルマを入れるという最低限の目標はクリアされたので、本来であれば喜ぶべきなのでしょうが、トップ10の真ん中に2台を食い込ませることはできなかったので、正直残念な予選結果となってしまいました。特に予選5番手を獲得したティモのベストタイムは一度使用したタイヤで記録されたもので、ニュータイヤを履いて行ったアタックではそのタイムを上回ることができませんでした。本来であれば、新しいタイヤでの走行時にはコンマ数秒速く走ることができますので、悪くとも4番手、うまくいけば予選3番手も可能だったと思います。
一方ヤルノは今週末、クルマのバランスに悩んでいて、第1ピリオドでは3番目に速いタイムを記録しましたが、最終ピリオドでは再びバランスに苦しんでいました。
我々が持っている力を出し切れなかったものの、ティモが5番手、ヤルノも9番手とふたり揃ってトップ10内に入り、そのうち1台がトップ5に食い込んだことで、我々の開発に間違いはないということが証明されました。そして、日曜日のレースではコンストラクターズ選手権4位の座をキープするため、しっかりとポイントを獲得したいという目標を改めて確認しました。さらにチャンスがあれば、表彰台にも上りたいと思っていました。
ヤルノの予選順位は決して悪くはなかったが、狭く抜きにくいこのサーキットでは最後まで前をふさがれる形になってしまった。それでもポイントを獲得し、チームに貢献した。
●ドライバーとチームスタッフの頑張りで70周を走りきり、実力の2位を獲得
チャンスがあれば表彰台を狙いたいと思っていましたが、そのチャンスが本当に訪れて、それをしっかりと手にできた素晴らしいレースをドライバーとチームスタッフが一体となって披露してくれました。
まずスタートでティモが絶妙のダッシュを決めてロバート・クビサ(BMWザウバー)の前に出て、フェラーリのフェリペ・マッサとマクラーレン勢2台に続く4番手に上がったことが最初のポイントでした。その後のペースも前を走るヘイキ・コバライネン(マクラーレン)と遜色ないタイムを刻み、力強い走りを披露してくれました。ところが1回目のピットストップで給油リグのノズルにトラブルが発生して、約6秒ロスしてしまい、コバライネンとの差が再び広がってしまいました。それでもトラブルに対するバックアップ体制をとり、それがきちんと機能してロスタイムを最低限にとどめ4番手をキープしたことがふたつめのポイントでした。
2回目のピットストップでスーパーソフトタイヤを履いてからは、キミ・ライコネン(フェラーリ)に迫られましたが、我々のクルマはホームストレート直前のセクター3が速かったことから、ストレートでライコネンにスリップストリームに入られない自信はありました。結局トップを走行していたフェリペ・マッサ(フェラーリ)にトラブルが発生して、ひとつ上の2位を獲得しましたが、トラブルもレースのひとつ。レース中のペースもトップ2チームと遜色なく、実力で勝ち得た結果だと思います。
これでヨーロッパラウンド後半戦に入り、4戦中2度表彰台に立ちました。これをきっかけにチームのモチベーションも上がることは間違いないでしょうから、終盤戦はもうひとつ上(優勝)を目指した戦いができればと思っていますので、ご声援よろしくお願いします。
ハンガロリンクでの新居章年。今季2度目の表彰台獲得!そしてダブル入賞も達成した。夏休みの後のヨーロッパGPでもこの勢いで上位入賞を目指す!