イタリアGP
テクニカルインサイト パスカル・バセロン Q+A
●来年は空力のレギュレーションが変わりますが、その理由を説明してもらえますか?
「来年のレギュレーション変更には基本的に3つの狙いがある。一つ目はドライバーが追い越しをするチャンスを増やすこと、二つ目はクルマのパフォーマンスを制限し、速くなる一方のスピードを抑制すること、三つ目はウィングレットやターニングベインやチムニーなど小さな空力パーツを取り払い、クルマの見た目をすっきりとさせることだ」
●クルマの見た目はどのように変わるのでしょう?
「このレギュレーション変更の大きな要素の一つが、F1カーの見た目を変えて、もっとスッキリさせたいという点だ。現在のF1カーの外見は純粋に空力的な観点から決まっているわけではない。我々は“合法的な箱形の空間”の範囲内でクルマの制作を行っている。クルマの特定の部分においてのみ、ダウンフォースを発生する付加パーツが許されているんだ。その取り付け位置は、純粋な物理法則に従っているわけではない。空力効率だけを優先してレーシングカーを設計した場合、最終的にはウィングレットなどない、流線型になるわけだからね。来年のレギュレーションになれば、我々がそういったパーツを目にすることもなくなるだろう」
●新しい空力レギュレーションによって追い越しが容易になるというのはどうしてなのでしょう?
「新レギュレーションの目的は、前を走るクルマから生じる気流の乱れに対し、後ろのクルマが空力的な影響を受けにくくすることにある。速いスピードで走っているクルマのすぐ後ろでは空気の乱れが生じるからね。この課題に対し、オーバーテーキング・ワーキング・グループは二つの方向から対策を講じた。最初の目標は、前を走るF1カーから生じる乱流の悪影響を弱めること、二つ目は乱流に対し後ろのクルマの空力パフォーマンスが敏感に反応しないようにすることだ」
●F1にスリックタイヤが復活するのはなぜですか?
「スリックタイヤは、追い越しを促進することを狙いにした新レギュレーションのもう一つの側面と言える。このコンセプト全体の中で大きな割合を占めているのがスリックタイヤだ。追い越しを増やすには、クルマから生じる乱流が背後のクルマへ大きな悪影響をもたらしている現状を変えなければならない。ただし、後ろのクルマのパフォーマンス低下を防ぐには、空力パフォーマンスとメカニカルグリップのバランスも変える必要がある。新レギュレーションではメカニカルグリップを増やすことが重要な要素になっている。もちろん他車の乱流の中にあってもタイヤのグリップは変わらないし、また、スリックタイヤは溝つきタイヤよりもグリップが大きいため、追い越しを容易にするという目標に貢献してくれるというわけだ」
●調整可能なフロントウィングは何が狙いなのでしょう?
「これもまたクルマのパフォーマンスに対する乱流の影響を抑制するための変更の一つだ。後ろを走っているクルマの特徴の一つとして、フロントのダウンフォースを失い、そのせいでアンダーステアが生じる、という点が挙げられる。新レギュレーションはこの現象を抑制する方向で策定されているが、それでもまだ十分ではない。そこで別の可能性として考えられるのが、ドライバーがカーバランスを好きなように変えられるようにしたらどうか、ということだ。これを実現する一番簡単な方法は、運転中にフロントウィングを調整できるようにすることだ。これにより、(後ろのクルマが)アンダーステアになったらドライバーはフラップの角度を増やしてバランスを改善することができる。ここでの狙いは、やはり前のクルマに接近している際のパフォーマンスの低下に歯止めをかけ、それによって追い越しのチャンスを広げることにある。また、前にクルマがいない時でも、これを利用すれば特定のコーナーにおけるバランスの問題を補うことができるだろう。来年は間違いなくドライバーがもっと忙しくなるだろうね!」
●そういったレギュレーションの変更に対応するのはどれくらい大変なのでしょう?
「もちろんこれは一つの挑戦になる。非常に大きなレギュレーションの変更になるわけだからね。だがこれは本当に興味深くてエキサイティングな挑戦と言えるだろう。我々のチームの状況を考えれば尚更だ。F1の世界での我々はまだ若いチームだし、我々はこれまで現在のレギュレーションへの対応に関してより多くの経験を持つ他チームに追いつくべくがんばってきた。だがこの新レギュレーションにより、全員が経験値という意味ではゼロにリセットされることになる。どのチームも最初から始めることになるからね。我々はチームスタッフの面々の自由な想像力に任せている。何も縛りを設けずにね。その結果は大いに期待に応えるものになっている。これは取り組むのが楽しい挑戦と言えるね」
●ここまでの進捗には満足していますか?
「そうだね。既に幾つかはいい方向に進んでいると信じているが、ただし、当然ながら自分達にどのくらいの競争力があるのかは最初のレースまで分からない。この新レギュレーションの場合は尚更だ。ここまでの所は面白い体験だった。このような新しいコンセプトに取り組む場合、必然的に初期段階のステップは非常に大きなものになる。そのため、仕事に出掛ける度に、その日の終わりになると何か重大な発見をすることになるんだ。これはとてもやりがいを感じられることだ」
●他チームがどんなソリューションを採用してくるのかについて、いつもの年よりも色々と憶測が働くものでしょうか?
「どのチームも参考になるものがない状況で開発を進めているだけに、果たして新車がどんな外見になるのか、みんな本当に楽しみにしている。レギュレーション自体は今までよりも縛りがキツくなるとは言え、これまでのシーズンで目にしたよりも更に大きな違いがチーム間で生じることになるだろうね。規定の範囲内で、各チーム毎に様々な異なるソリューションを目にすることができるだろう」
●空力について今年学んだことは2009年のクルマにも応用できますか?
「一般的なF1カーの空力について我々が理解を深めたうちの一部分なら応用できるだろう。だが、TF108に固有の課題の対応策については無理だ。そのくらい単純な話だね。レギュレーションが大きく異なるため、例えばターニングベインからどうやって最高のパフォーマンスを引き出したらいいのか、といった知識は、2009年のクルマには特に関係なくなるだろう」