新居章年リポート
2008年9月29日(月)
いつもご声援ありがとうございます。F1グランプリはアジア3連戦に突入しました。緒戦のシンガポールGPはアジア初の市街地サーキット。しかも、F1史上初となるナイトイベントということで大いに盛り上がりました。それでは、さっそくマリーナベイ市街地サーキットで開催されたシンガポールGPの模様を報告いたしましょう。
シンガポールへは、モナコ以来となるハイダウンフォース仕様を最新のものへバージョンアップして投入。また、ブレーキへの負担も予想して車両を用意した。コースの明るさに関しては問題はなかった。
●心配していた照明は問題なし。コースが曲がりくねっていて、テクニカルな印象
F1史上初のナイトイベントということで、通常コースチェックは木曜日の午前中に行っているんですが、シンガポールでは前夜となる水曜日の夜にコースを1周しました。照明の光度が心配されていましたが、歩いてみた感じではほとんど問題にならないほどコース上は明るかったです。またすべての照明が下向きに設置されているので、角度によってドライバーの視界に照明の光が入るということもなく安心しました。
バレンシアに続く市街地コースですが、ランオフエリアが広く取られていたバレンシアに比べて、シンガポールは直角に曲がるコーナーが多い。したがって、ブレーキに厳しくなることが予想されました。さらにブレーキングでミスした場合は直進してもエスケープゾーンがあるのですが、コーナーの立ち上がり側はコンクリートウォールやタイヤバリアが迫っているので、ハンドリングの善し悪しが顕著にラップタイムに反映されそうなサーキットというのが最初の印象でした。
路面は事前に予想していた以上にバンピーで、週末を通してその攻略に苦労した。ティモが「辛い状況下でのドライブで、レース翌日には体が痛くなるかもしれないね」と語るほどの難コンディション。
●最新のハイダウンフォース仕様を投入、2回のフリー走行で車高を確認
今回は我々がシンガポールに持ち込んできた空力パッケージは、モナコ、ハンガリーに次ぐハイダウンフォース仕様でした。ただモナコGPのときからアップデートされたものもあるので、今シーズンもっとも高い効率のハイダウンフォース仕様といえるでしょう。
1回目のフリー走行ではドライバーが夜間の照明に慣れ、コースレイアウトを習得するために、1セットのみのタイヤでできるだけ多くの周回を重ねてもらうようにしました。1回目の走行を終えた段階で、マリーナ・ベイ・サーキットが予想していたよりもバンピーだということに気付きました。そこで2回目のフリー走行に向けて車高を調整。さらなるセットアップと2種類のタイヤの比較テストを行いました。
2回目のフリー走行の順位はティモ(グロック)が10番手で、ヤルノ(トゥルーリ)は19番手。両ドライバーともふたつのセッションでほとんどミスすることなく、予定していたプログラムを消化してくれたので、収穫のある初日でしたね。ただし、低速コーナーでアンダーステアが若干、残っていて、中高速コーナーではオーバーステアが出ていたので、その辺の対策を、いかに講じるかが予選に向けての課題でした。
ストリートコース、そして史上初となるナイトレース。不確定要素が多いシンガポールGPに対して、チームはふたりのグリッドポジションとレース展開を考慮したピット戦略を実施、見事的中した。
●2台揃っての予選Q3進出ならず。タイヤ選択と安定性に課題
ふたりとも、もう少し上へ行けると思っていただけに残念な予選結果となりました。
まず、第2ピリオドをヤルノが突破できなかった原因ですが、最後のアタックで特に大きなミスを犯したわけでもなく、ティモが最終ピリオドへ進出していることからも、クルマに重大な問題があったわけでもなかった。考えられることは、タイヤの選択だったかもしれません。というのも、予選の第1ピリオドで我々はソフトとスーパーソフトの2種類を少なくとも1回ずつ履いてアタックさせる予定でいたのですが、スーパーソフトを履いた2回目のアタックで、ヤルノが予想できなかったトラフィックに会い、中断してピットインしてきたため、スーパーソフトの評価を正しくできなかったのです。そのため、第2ピリオドの1回目のアタックでもう一度スーパーソフトを履いたのですが、結果的には第2ピリオドは2回のアタックともソフトで行ったほうがヤルノにとっては良かったかもしれませんね。
一方、ティモもヤルノと同じように第2ピリオドの1回目はスーパーソフトで、2回目にソフトを履いてのアタックとなりましたが、1分44秒台に入る素晴らしいアタックを披露してくれました。ただ、それだけに最終ピリオドの最後のアタックでもう少しタイムを刻んでくれると思っていました。あとふたつか3つは上のポジションを狙っていたので、課題の残る予選となりました。
ドライバーの努力とピット戦略でポジションを徐々に上げていき、ティモは4位でフィニッシュ。ヤルノも6番手まで浮上、今季4回目のダブル入賞まであと12周というところで、油圧系トラブルで涙を呑んだ。
●荒れたレース展開を見越した戦略が的中。ダブル入賞を逃したのは無念
土曜日の予選後に、予選6位のニック・ハイドフェルト(BMWザウバー)に3番手降格のペナルティが科せられたため、予選8位だったティモのスタート順位はひとつ繰り上がって7番手からとなりました。スタートはティモも11番手からのスタートとなったヤルノも悪くなく、1コーナーから3コーナーにかけてのポジション争いもうまく切り抜けて、ふたりとも順位を上げてコントロールラインに帰ってきました。
今回、我々はふたりのレース戦略を分けることにしました。ティモは2ストップ作戦、ヤルノは1ストップ作戦を採用しました。これはスタートポジションが分かれたことも関係していますが、市街地コースのマリーナ・ベイ・サーキットでのレースは、セーフティカーが出動する可能性が高いことも考慮した結果でした。その作戦自体はうまく機能したと思います。
ティモは2度もセーフティカーが出る荒れた展開となったレースをミスなく、ハンガリーGPの2位に次ぐ好成績を挙げました。一方ヤルノも1ストップ分の重い燃料を搭載しながら、序盤から粘り強いレースを披露して、ティモとともにダブル入賞まで、あとわずかというところまで走ってくれました。そんな中、ハイドロ系にトラブルが発生したことは本当に残念であり、そこまで粘り強いレースを行っていたヤルノに対して申し訳ない気持ちでいっぱいです。
今回のシンガポールGPでは2台そろって入賞することが目標だっただけに、やや残念な結果となりました。しかし、レース終盤まではその目標に手の届くところで2台が走行していたことは評価したいと思います。この悔しさは、次の日本GPでぜひ晴らしたいと思います。日本GPにはさらなる進化を遂げた姿を披露したいと思っていますので、ご声援よろしくお願いします。
シンガポール(マリーナ・ベイ)での新居章年。F1史上初のナイトレースでティモが4位入賞!次はいよいよ富士スピードウェイでの日本GP。2台そろっての上位進出を狙う!