新居章年リポート
2008年10月14日(火)
いつもご声援ありがとうございます。第16戦の舞台はわれわれのホームコースである富士スピードウェイ。昨年はあいにくの天候となり、我々が準備した富士スペシャルは不発に終わりましたが、今年は天候にも恵まれ、秋晴れのもと日本GPを迎えることができました。それでは2年目の開催となった富士スピードウェイ、F1日本GPの模様を報告しましょう。
「低、中、高速そして1.5kmのストレートが組み合わされている富士。それら全てに対応できるセットアップを見つけ出さなければならないためチャレンジングだ」とシャシー部門マネージャー、バセロン。金曜日に確認した内容から今回のセットを決定した。
●空力的に近いマニ・クールでの好成績もあり、表彰台を意識しての帰国
富士スピードウェイはコースの前半と中盤、そして後半で異なるキャラクターを持っているサーキットなので、空力をどのレベルのダウンフォースに合わせるのかがポイントになります。もちろん、事前にシミュレーションしてはいますが、路面コンディションや天候の変化など、実際のグランプリでは不確定要素が残っており、こればかりは現場で最終的な調整を行うしかありません。そのため、この富士スピードウェイには数種類の空力パーツを持ち込み、金曜日のフリー走行でそれらを幾通りか組み合わせて使用し、予選と決勝レースに臨む予定でした。
今年は昨年のような富士スペシャルはありませんでしたが、富士スピードウェイと比較的近いダウンフォースレベルのマニ・クール(フランスGP)でヤルノ(トゥルーリ)が表彰台を獲得したように、相性は悪くないはずだと考えられましたので、2年目の今年は是非とも表彰台を賭けた戦いをしたいと思っていました。
富士での走行は初めてのティモ。しかし事前にコース図を入手したり、テレビゲームを利用してシミュレーションを重ねていた。日本へも、どのドライバーよりも先に入り、ホームグラウンドでの戦いに向け気合いが入っていた。
●ティモが2回目のフリー走行でトップタイムをマーク。幸先の良いスタート
金曜日、セッションを終えてみたら、タイミングモニターの一番上に我々のクルマが残っていましたが、特にトップタイムを狙って走った結果ではなかったので、少々ビックリしたというのが正直な感想でした。
フリー走行1回目の午前中は予定したようにいくつか異なる空力パッケージを試用しました。その上でダウンフォースレベルをどれくらいに設定するかを、走行後に話し合いました。そして、そこで出した結論を元にクルマのセットアップを変更し、午後のフリー走行2回目に臨みました。フリー走行2回目もロングラン走行をしながら予定していたプログラムを消化。セッション開始直後からヤルノもティモ(グロック)も手応えを感じる走りをしていたので、我々が狙っている方向性が間違ってはいないと分かりました。
ただ、ティモがトップタイムをマークしたのが、セッションが開始してから30分後でしたので、路面コンディションが良好になっていくセッション後半で、誰かがティモのタイムを更新してくるだろうと考えていました。ですからトップに立っているからといって、それほど気にはしていませんでした。
もちろん、トップとはいってもまだ金曜日。本当の戦いはこれからです。どんな状況であれ、タイムシートの一番上に我々のドライバーがいるというのは気分が悪いものではありません。ただ、セットアップに関しては、まだ煮詰めなければならないところがあるので、走行データをしっかり見て、土曜日に備える予定でした。
事前のシミュレーションが功を奏し、ティモは金曜日フリー走行、予選Q1でもトップタイムをマークした。ヤルノもここ数戦でのミスを日本のファンの前で取り戻したいと、決意を新たにし、予選、決勝に臨んだ。
●重いタンクでのバランスに苦しみ、ここまでの流れからすると残念な7番手と8番手
特にミスがあったわけでもなく、クルマの仕上がりも順調でした。母国グランプリで、昨年は進出することができなかった最終ピリオドに、2台がそろって駒を進めることができたという点では悪くなかったと思います。しかし、金曜日のフリー走行2回目、そして土曜日の午前中に行われたフリー走行3回目の調子が良かっただけに、7番手と8番手という予選結果は、正直喜びは半分でした。
特に全員が空タンクでのタイムアタック合戦となる第2ピリオドで、ヤルノが4番手、ティモも5番手とフェラーリやマクラーレン勢に肉薄しており、最終ピリオドではもう少し上位に行くだろうと予想していました。それだけに残念でした。ティモは第1ピリオドからクルマが好調で、ヤルノは高速コーナーで若干アンダーステアでした。そのあたりを調整して、第2ピリオドではふたりともクルマにはまったく問題がありませんでした。
ところが、決勝レース用に燃料を搭載してタイムアタックを行う最終ピリオドでは、ヤルノもティモも重量の変化によってクルマのバランスがそれまでと異なってしまい、クルマのスピードを十分引き出すことができなかったようでした。この問題がなければ、トップ10の中団グループは僅差だっただけに、ポジションはあとふたつぐらい上へ行けたでしょう。
ただ、やるべきことは最低限できたと思いますし、この位置からなら表彰台もまだ狙えると手応えを感じて決勝に臨みました。
予想していたほど気温が上がらなかったこともあり、表彰台の目標は果たせなかった。しかしヤルノはポイントを獲得し、富士に向けて、年間を通して続けられてきた開発の成果が随所に見られたGPとなった。
●オーバーステア傾向から順位を上げられず。ポイントを獲得したものの、悔しさの残るレース
フェラーリとマクラーレンというタイトル争いを演じている2チームが、スタート直後に混乱したのでチャンスがあったレースでした。そのチャンスを地元の我々がものにすることができなかったことが残念です。2台そろってポイントを獲得したかったのですが、ティモのクルマにシートのトラブルが発生してしまい、リタイアを余儀なくされました。まだ原因はわかっていませんが、その直前に6コーナーの出口で縁石を乗り上げた際、宙に浮くほど飛んだと本人が言っているので、もしかしたらそのときに過度な入力がクルマにかかったのかもしれません。予選まで本当に好調だっただけに、ティモにとっては非常に残念な初ホームGPとなりました。
一方ヤルノはよく走ってくれたと思います。スタート直後の1コーナーで発生した混乱をうまくくぐり抜けて4番手に浮上したあたりは、さすがヤルノでした。ただ日曜日の富士スピードウェイは想定していたよりも気温・路面温度が低かったことが不利に働きました。第1スティントでヤルノはリアタイヤのグリップ不足に悩んでオーバーステアとなってしまいました。そのため、1回目のピットストップでヤルノのフロントウイングを若干寝かせるように対応しました。しかし、それでもネルソン・ピケJr.(ルノー)に対して十分なギャップを築くことができず、2度目のピットストップでさらにひとつポジションを失って5位でフィッシュすることとなりました。
皆さんのご期待に応えられず、残念な結果となりましたが、1台はポイントを獲得するという最低限のレースはお見せできたと思います。ルノーとのコンストラクターズポイントはさらに広がりましたが、まだシーズンは終わっていません。残り2戦も全力で戦いたいと思いますので、ご声援よろしくお願いします。
富士スピードウェイでの新居章年。前年以上に調子上げての日本戦ということで、多くの報道陣への取材対応に追われる。惜しくも表彰台には届かなかったものの、ヤルノが5位入賞を果たし、これまでの日本GPで最高の結果となった。残り2戦、コンストラクターズ選手権4位を目指して全力を尽くす!