- Round5
- 全日本ラリー選手権 第5戦 洞爺
レポート
厳しいサバイバル戦となった雨のグラベルラリー
積み重ねた信頼性で完走、JN5クラス2位入賞
2016年シーズンの全日本ラリー選手権第5戦「ARKラリー洞爺 Supported by Sammy」が、7月1日~3日に開催され、TOYOTA GAZOO RacingチームのTGR Vitz GRMN Turbo(大倉聡/豊田耕司組)が、JN5クラス2位、総合19位で完走を果たした。
第4戦福島に続くグラベル(未舗装路)ラリーとなる洞爺には、福島同様にグラベル向けのセットアップが施された1号車を投入。現在、選手権ランキングでは大倉選手が僅差の2位につけており、この戦いがシーズン後半戦に向けて重要な一戦となる。
金曜日に行われた特設会場でのSS1(スペシャルステージ1・タイムアタック区間でありタイムが計測されるコース)に続き、2日の土曜日から本格的なラリーがスタート。午前中に小康状態だった雨は午後になると激しさを増し、水が溜まり滑りやすくなった路面に多くのドライバーがコースオフやマシントラブルなどでストップしてしまう。そんななか「攻め過ぎないように自分のペースを守りました」と大倉選手が語るとおり、堅実なドライビングでクラス2位をキープする。
ラリー2日目は雨こそ止んだものの、場所によっては乾いた路面と湿った路面が切り替わる非常に難しいコンディションとなった。今回全日本ラリー初参戦のヘイキ・コバライネン選手と熾烈な2位争いを繰り広げた大倉選手は、前日の雨で増水した川渡りの後にエンジンがストップするトラブルに見舞われながらも冷静に対処。2位表彰台を獲得した。
SS12ではJN5クラスベストタイムを記録するなど安定したスピードを見せた大倉選手は、「最後まで競った展開になりましたね。グラベルでの走らせ方がだいぶ分ってきたこともあって、プッシュすることができました。チームが1年間開発を重ねてきたTGR Vitz GRMN Turboは本当に信頼性の高いマシンです。メカニックがしっかりと整備してくれたこともあり、ドライバーも安心してステージを走ることができました。今回は何度もマシンの頑丈さに助けられました」と、フィニッシュ後に語っている。
チーフメカニックを務める豊岡悟志は、「終盤はコバライネン選手と競った展開になり、最後は緊張感がありました。我々の強みは信頼性にあります。まずは完走を目標にして、堅実に走ったのが良かったですね」と、表彰台獲得に笑顔をのぞかせた。
めざせ凄腕メカニック~「いいクルマづくり」への道~Vol.05
Team TOYOTA GAZOO Racingにおいて、マシンの製作・整備を担当するのは、凄腕技能養成部の社員メカニックたち。厳しいラリー環境で技能を磨く彼らから、毎回1名のスタッフを紹介する。第5回目に登場するのはラリー参戦グループでメカニックを務める、市名俊彦だ。
「私は入社以来、ずっとエンジンの開発一筋でやってきました。しかし、エンジン以外のセクションに関する知識や経験がないことに、自分自身少し不安を感じていたことも確かです。そんな時、今回の凄腕技能養成部の話を聞き、『ぜひ、よろしくお願いします』と手を挙げチームに加入させていただくことができました」と、プロジェクト参加に至った経緯を語る。
しかし、ラリー初参戦の衝撃は想像以上に大きかったようだ。「昨年の開幕戦唐津ではプロのメカニックがリタイアした車両を復元する様子を目の当たりにして、衝撃を受けたことをよく覚えています。正直その頃は『自分がこんなことをできるのかな』と、思っていました」。
これまでモータースポーツに携わった経験のない市名にとって、最初のシーズンは見るもの聞くものすべてが新しく、あらゆる時間が貴重な勉強の場になったという。「何も知らない状態でラリーの現場にやってきたので、最初はどの作業もこなすだけで精一杯でした。でも、1年間戦い抜いたことで、今年はラリーメカニックとしての動きができるようになってきたという実感があります。そしてチームの一員として、主体性や責任感を持って作業することが徐々にできるようになってきたのでは、と思います」。
事前の予報通り雨となり、難しいコンディションとなった洞爺ではチームとドライバーが綿密に連携し、細かいトラブルにも冷静に対処。サバイバルラリーで2位表彰台を獲得した。
市名は実戦での経験を、"気づき"として活かしたいと語る。「最後まで気の抜けない展開になりました。今回はシーズン初のウエットコンディションですし、ラリーを終えるたびに新たな経験が蓄積されます。そういった経験を次のラリーに向けた"気づき"にしていきたいと思っています。それが元の職場に戻った時にも、きっと役に立つはずです」。
奴田原文雄選手、難コンディションでシーズン初勝利!(JN6クラス)
全日本ラリー選手権のトップカテゴリー、JN6クラスは、三菱ランサーエボリューションXをドライブする奴田原文雄/佐藤忠宣組が優勝。今シーズン、初勝利を獲得した。
シリーズランキングトップの勝田範彦/石田裕一組(スバルWRX STI)が、金曜日の夜に行われたギャラリーステージで、砂埃により視界を奪われてまさかのミスコース。早々に遅れをとってしまう。本格的なステージがスタートする土曜日、SS3でそれまで首位を快走していた新井敏弘/田中直哉組(スバルWRX STI)がスピン。これで奴田原選手がトップに立った。雨脚が強くなった午後のステージでも奴田原選手はトラブルもなく好タイムを記録。2位まで順位を戻した勝田選手に12.2秒差を付けて2日目を終えた。
最終日に入っても抜群の安定感を見せた奴田原選手が、2位の勝田選手に対するアドバンテージを守り切ってフィニッシュ。「気が抜けない展開になりましたね。雨が降ってからのタイヤ選択が今回の勝因です」と、奴田原選手はシーズン初勝利に喜びを隠さない。3位には「ウエット路面で前の2台に追いつけなかった」と語った鎌田卓麻/市野諮組(スバルWRX STI)。4位は「最初のスピンで25秒もロスしたのが最後まで響いた」と振り返る新井選手が入っている。
元F1ドライバーが日本のラリーを疾走!(注目のチーム)
激戦のJN5クラスに、注目のドライバーが初参戦を果たした。SUPER GTにLEXUS RC F(LEXUS TEAM SARD/DENSO KOBELCO SARD RC F 39号車)で参戦するヘイキ・コバライネン選手が、トヨタ86をベースとするラリー専用車GT86 CS-R3でエントリーを果たしたのだ。F1での優勝経験を持つなど、サーキットを中心に活躍してきたコバライネン選手。ラリー王国フィンランド出身ということもあり、実は大のラリーファンだという。
「子供の頃からWRCの1000湖ラリー(現在のラリーフィンランド)を見て育っていたし、ラリーはずっと大好きだった。これまでもフィンランド国内のラリーには出たことがあるけれど、こうやって新しいマシンで日本のラリーを走れるなんて本当に嬉しいよ」と、コバライネン選手。
2年前に参戦したフィンランド選手権アークッテクラリーまでは、フィンランド人コ・ドライバーとコンビを組んで参戦していたが、今回は初めて日本人の北川紗衣選手がコ・ドライバーを務めた。
「コンビネーションは全く問題ないよ。実は英語でペースノートを作るのは今回が初めてなんだ。最初はちょっと戸惑ったけれど、妻との会話は英語だし、スムーズにラリーを走ることができたね」
サバイバル戦となった洞爺で3位表彰台を獲得。「とても楽しかった。本当に良い経験になったよ」と、コバライネン選手は笑顔を見せた。フィニッシュ後には多くのファンがサインを求めて彼を囲んでおり、今後のイベントでも大きな注目を集めそうだ。
もっとラリーを楽しもう
サービスパークから徒歩でわずか数分の距離に置かれたのが、1日(金)のオープニングステージとして行われた「SS1 NEW VOLCANO」です。全長700mと短いステージですが、スタートからフィニッシュまでを高台から全て見渡せる絶好のロケーション。トップドライバー達が、砂煙を巻き上げながらドリフトする様子に、かつてWRCが開催されていたこともあり、ラリー文化が根付く北海道の観客からは「まるでギリシャのステージみたい!」と、驚きの声が挙がっていました。
また、2日(土)のラリーカーの走行しない時間帯にはラリー同乗走行体験を開催。コ・ドライバーシートに座って、実際のステージを体験した参加者は「観客として見ているよりも、実際に走ってみるとずっと荒れた路面でした。想像以上に岩がゴロゴロしていて驚きました」と、興奮気味に感想を語っていました。
次戦予告
- 8月25~8月28日 全日本ラリー選手権 第6戦
- 「モントレー2016 in 嬬恋」
8月25日~28日に開催される第6戦「モントレー2016 in 嬬恋」は、真夏の高原を舞台に行われる、全日本ラリー随一のハイスピード舗装ラリー。ギャラリーステージは林道に加えて、サービスパークからアクセスの良い場所にも設定されます。TOYOTA GAZOO RacingブースにはヤリスWRCを展示し、GAZOO Lady2名も登場予定です。