〜片山右京/鈴木利男/土屋圭市+由良拓也対談〜1999年レジェンドトリオがル・マンを語る 第2回(1/2)

1999年のル・マン24時間。TS020の3号車は予選8位から徐々にポジションを挙げ、片山右京選手、土屋圭市選手、鈴木利男選手の奮闘で、レース終盤に2位に浮上。ラスト30分ほどでトップまで20秒まで迫りました。しかし、不運なことにタイヤバーストというトラブルに見舞われてしまいます。それでも右京選手の素晴らしいリカバリーとピットの早技で、2位のままでゴール。その不屈の姿に大観衆からも惜しみない拍手が挙がりました。そんなレジェンドとなった3人の対談も第2回。その時のテレビ解説を務めた由良拓也さんを聞き手に、レースの核心に迫ります。

「見てろよ。壊さないで速く走ってやる!
っていう思いはあった」

土屋圭市

由良 1999年のル・マン、僕はテレビの解説で現地にいたんですが、日本人トリオの3号車は前半ペースは抑えめでしたね。途中で上位がバタバタッと消えてから、一気にペースが上がったから、"なんだ速いじゃないか"って思ったんですよ。あれは最初からそういう作戦だったんですか?

土屋 違う。作戦として「前に出なくて良い」と言われてたの。優勝を狙うのは1号車と2号車の役目で、なんかあったときの我々3号車だったから。まあ、オレたち3人としては口には出さなかったけど『見てろよ。壊さないで速く走ってやる』っていう思いはあったよね。

鈴木 あの時、僕らはとにかく"絶対に完走しよう"って決めていた。その中で「無理をしないで行けるペースで走ろうよ」「勝負は夜が明けてから」ってね。

土屋 利男さんもオレも毎年のようにル・マンに行ってたから分かっていたけど、ほんと夜が明けてから行っても十分間に合うわけよ。その時に手が届くポジションにさえいれば。

1999年ル・マン24時間、レース終盤に2位まで浮上したTS020 3号車

「ル・マンというのは"24時間後に
どこにいるのか"が問題なんです」

鈴木利男

鈴木 あの年、1号車と2号車って他のライバル車とレースをしちゃってたのね。確かにレースなんだけど、ル・マンというのは"24時間後にどこにいるのか"が問題なんです。ル・マンって他のクルマとレースをしちゃダメなんですよ。まあ、チームとしてはレースをするクルマも必要だったのかもしれないけど...。そういう意味では、僕らは『割と好きにやんなよ』みたいな感じだったから、結果的にはそれが良かったんじゃないかな。まあ、最後は『行け!』だったけど。

土屋 オレたちの決めごととは「無理をしない」、そして「縁石には乗らない」で、その中で速く走るというものだった。オレはスタートで2号車のティエリー・ブーツェンに追いついちゃったの。別に飛ばしていたわけじゃなくて、普通に自分のペースで走ったら追いついちゃっただけなんだけどさ。そうしたらピットから『下がれ』という指示が出た。だから"まあいいや、夜明けまで我慢するか"と(笑)。

片山 ル・マンのコースってペースを上げていくと急にバランスが変わるポイントがあるんです。3分37秒ぐらいで走っているともう普通のドライブですよ。それが、3分33秒ぐらいにペースを上げると急にアンダーステアとかスナップオーバーとかが出てきて、ポルシェカーブなんかもふわっとなる。燃料をあまり積まないでニュータイヤだったら3分28〜29秒とか出るんですが、それをぐっと抑えて3分35〜36秒とかで走ればギアボックスも痛めないし燃費もちょうどいい。

左リアタイヤがバーストしピットで修復中のTS020 3号車

「次の次の周ぐらいでトップに立てる
計算だった。そこでバースト」

片山右京

由良 そうこうするうちに1号車と2号車が姿を消し、3号車が唯一残ったトヨタ車となりました。あの時トップは見えていましたか?

土屋 うん、見えていたよね。

鈴木 僕が最後に乗った時、コルタンツから「今3位でこのペースで行けば2位にはなれるからプッシュしてくれ」と言われ「分かった」と。しばらくすると1位を走っていたBMWがストップした。と言うことは、ペースを上げて走れば"トップに立てるかもしれない?"って思いました。

由良 そう思ったときは緊張しましたか?

鈴木 いいえ、ぜんぜん緊張しなかったですね。指示に従いペースを上げていったとき、TS020ってすっげーいいクルマだなと思ったんです。ポルシェカーブから高速S字の切り返しなんか、スピードを落とすよりも少し駆動をかけていった方が安定していましたから。

片山 僕がファステストを出す前に、利男さんが出していた。トップよりも毎周7秒ぐらい速くて、その時3分33秒ぐらいで走っていたんですけど、それが3分30〜31秒ぐらいになって22秒差まで来た。だから、本当なら次の次の周ぐらいでトップに立てる計算だったんですが、そこでバースト。

由良 ユノディエールのストレートで、時速328kmで左後輪がバーストしたんですよね。あれは突然来たのですか?

片山 いきなりウウッときて『うわっ、やった〜』と思って、サイドミラーを見たらもう煙が出てバーストしていた。ドライバーだから自分の手に負えるアクシデントかそうじゃないか分かるじゃないですか。『これは無理だ、止められない』って一瞬思ったんです。 で、クルマが左右に振られて道の右側に飛び出しかけた時、映像を見たら分かりますけど、そこだけちょっと路側帯があって、(そこに当たって)右前輪のブレーキが効いて左方向に戻った。もしあそこが、その直前と同じようにダートだったら立て直せずにぶつかっていたと思う。

鈴木 何事もなかったように戻って来たからね、右京君。

土屋 あんなこと普通できない。バーストしたら終わりだよ。(経験があるから)自分で分かるからさ、どうなるかって。だから改めて思ったよね、"右京ってすんげーヤツだな"と。

片山 あれは運が良かっただけですよ、ほんとに。

鈴木 でも、運もドライバーが持っている大事な要素だよ。

土屋 そうそうそう。

片山 もし、今同じことが起きたら、絶対にダメだって自信をもって言える(笑)。

鈴木 バーストはしょうがないし、立て直せないクラッシュで終わってしまうことも、よくあります。そういう状況でドライバーができることは限られているし、コースがちょっと広くてクラッシュを回避できたのは本当に運が良かった。

由良 僕も監督経験があるから分かるけど、無事に戻ってきてくれたことは大きい。だからこそ、2位という結果が残ったわけですから。あの時、右京さんはコクピットの中でどんな気持ちでしたか?

片山 ピットに戻れるのか、それともここで止まってしまうのかっていうのが怖かったですね。なんとか直して欲しいと思いながらピットを目指しました。

鈴木 普通、タイヤがバラバラになるとカウルも粉々になっちゃうもんね。

由良 タイヤがバッタンバッタンなって、カウルが壊れてすっ飛んでいってしまうのに、そうならずに戻って来た。相当丁寧に、うまくタイヤを横にずらさないように走ったんでしょうね。よくあの状態で戻って来たなと思いましたよ。