〜片山右京/鈴木利男/土屋圭市+由良拓也対談〜1999年レジェンドトリオがル・マンを語る 第3回(1/2)

優勝は逃したものの、日本車に乗る日本人トリオで2位という過去最高の結果を残した片山右京選手、土屋圭市手、鈴木利男手。3人の対談も。いよいよ最終回です。ゴール直後や表彰台での気持ち、そして改めてル・マン挑戦の意義など語っていただきます。そして今年、2015年のル・マン挑戦を控えるTOYOTA GAZOO Racingへのエールも。聞き手は引き続き、由良拓也さんです。

「内容では絶対勝ってたから。
胸を張って誇れる2位でした」

片山右京

由良 1999年のル・マン24時間レースが終了。2位で完走を果たした時はどのような気持ちでしたか?

片山 実は完走した後のことはあまりよく覚えていないんです。とにかく「疲れたなぁ」っていうのと、表彰台の上から見た景色とか、断片的には思い出せるんだけれど...。 あとレースが終わってパリに戻るとき、ちっちゃなレンタカーの後席で、もらったトロフィーを枕にして寝ていた時の事は覚えています(笑)。パリまでの2〜3時間、目を閉じるとル・マンのストリートコースの白線がシュッシュッシュッっと流れていくシーンが浮かんでくる。テレビゲームのテトリスをやる時、落ちてくるブロックをずーっと見ていると、目を閉じてもブロックが残像みたいに見えるじゃないですか。あれと一緒で、レースが終わりしばら経っても頭の中で白線が流れ続けていましたね。

土屋 オレはピットにいて、もう優勝したような気分だったね。1位にはなれなかったけれど、速さでは勝ったクルマに負けていなかったから。TS020というクルマの性能を、ちゃんと引き出すことができたから胸を張れたし、2位でも3位でも良かった。オレらが内容的には勝っていたと思うことができたから。

片山 たしかに勝てはしなかったけれど、普通の2位ではなくて、内容では絶対勝ってたから。胸を張って誇れる2位でしたね。

由良 利男さんはどうでした?

鈴木 僕はその前に他メーカーでしたがデイトナ24時間レースで勝ったことがあって、それで「ル・マン24時間でも優勝できたら嬉しいなぁ」と密かに思っていたので残念でした(笑)。あんなにいいクルマに乗せてもらって、あんなにいいレース展開で、最後は勝って当たり前という状況だった。それでも勝てないっていうのは、"やっぱりル・マンって大変なんだな"って思いましたね。

1999年ル・マン24時間レースで2位表彰台に登った土屋圭市、鈴木利男、片山右京

「表彰台からの景色は特別で忘れられない。
『なんなんだ、このレースは!』って」

片山右京

片山 ル・マンはゴールのシーンが特別ですよね。全員が勝者っていう感じがする。レースをスタートしてすぐにいろいろ起こり、夜はすごく長くて、朝が近づいてくる時は寒くて、太陽が出て来た時はすごく嬉しくて、またコクピット内が暑くなってきて、再び夕方が近づいてきて、残りわずかになるとワクワクしてくる。あんなレースって他にないと思う。

土屋 表彰台からの景色は特別で忘れられないな。正面を見て1コーナーの方まで人で埋め尽くされているんだけど、ふり返って表彰台の裏を見たら、コースがオープンになっていて地平線まで人で埋まっていた。「なんなんだ、このレースは!」って思ったよね。

鈴木 ル・マンって、やっぱりスプリントレースとは違い3人で乗って、クルマも1台を共有しながら最後まで持たせるレースですから、たとえ途中でリタイヤしてもまた行きたいと思うし、完走しても、もっと上に行きたいと思う。その喜びを、スタッフも含めたみんなで分かちあえるから僕は大好きですね。

土屋 オレからすると、この2人に感謝だよね。この2人と組めて良かったなって思った。

片山 僕もこのチームで良かったなと感謝しています。普通は同じチーム内でもちょっといい所を見せようとするじゃないですか。でも、この3人は我慢して我慢して、一番大事なゴールにちゃんと目標を設定して最後まで戦った。 チームの中で僕ら3人だけが2年連続で完走し、そして表彰台に上がる事ができた。この3人でなければ無理だったと思うし、そのことにはプライドを感じますね。

タイヤバーストというトラブルに見舞われるが、素晴らしいリカバリーで見事2位フィニッシュするTS020 3号車

「でもね、もし日本人がこの3人を監督したら
すっごく難しかったと思う」

片山右京

由良 ル・マンはほんと、個人プレーではないですよね。でも、嬉しかったのは、ただ最後まで持たせるためにゆっくり走っていたわけじゃなくて、ファステストタイムも出したじゃないですか。最後まで持つけれど遅いっていうのはあまり嬉しくないけど、ファステストが出ると、中継する側もやっぱり「おおっ」って力が入りましたよ。

鈴木 でも、3人の中で「オレが一番速いんだ」とか、1号車や2号車と比較しなかったのが良かったんじゃない?

由良 傍から見ると凸凹トリオみたいだけど、実は意外とベストメンバーだったと(笑)。夜に速い土屋さんがいて、一発が出る右京さんがいて、淡々と速いタイムを刻む利男さんがいて。

土屋 それぞれに良い所があったから、なんかお互いを認めちゃうんだよね。そこが一番の強みになったんじゃないかな?

鈴木 でもね、もし日本人がこの3人を監督したらすっごく難しかったと思うよ(笑)。

土屋 奇跡のコンビネーション。普通に考えたらこの組み合わせは絶対にない。

由良 その後3人で会って、お酒とか飲みながら昔話をしたりはしましたか?

鈴木 普段は会わないよね。

土屋 でも、オレたちは同じ釜の飯を食った戦友。良いか悪いか別として、思い出は消えないよね。

鈴木 あれから16年が経ったわけだけど、これから20年、25年となっていくと、この絆はもっと強くなる気がするな、多分。