連日そんな報道がなされるサマーシーズン。キノシタにとっての夏の風物詩は「高校野球」である。灼熱の太陽が照りつける中、無心に白球を追う高校球児に気持ちが奪われる。
高校球児の目指すステージは甲子園であろう。全国各地の高校野球部が、ツタの絡まる伝統球場に憧れを抱きながら、日々球と格闘する。
もっとも、僕が特に惹かれるのは、野球エリート達が覇を競う甲子園ではなく、むしろ弱小チームが戦う地区予選会である。地元の無名な球場で無名な高校が、必死になってゲームをするのが好きなのである。時間の合間をぬって、小さなスタンドしか持たない地方球場に足を運ぶのはそのためだ。
先日観戦した★★シード校と○○弱小チームとのゲーム。
★★高校 「423 15」
○○高校 「000 0X」(5回コールド)
結果を見るかぎり、★★高校の圧勝である。
初回に大量点を奪った後も攻撃の手を緩めることがなかった。勝利が確定しているにもかかわらず、5回にはさらに大量点を追加。とどめを刺した。
一方の○○高校は、技術的にも体格的にもあきらかに未熟で、まるで高校生と中学生のゲームを見ているようだった。○○高校のユニフォームも、どこか体型にあっていないようでブカブカだった。
ところが、スタンドから眺めていて爽やかに感じたのは○○高校だった。弱い、圧倒的にヘタだ。点差でもわかるとおり、まったく打てず、まったく守れなかった。
★★高校が、出塁すれば必ずバントで進塁させ、短打を巧みに積み重ねて点を稼いでいく。時には長打が炸裂することもあるものの、基本的にはバントで塁を埋めて確実にホームベースを狙う作戦だった。基本的にバットは短く持っている。
一方の○○高校は、完全な長打狙い。バントの指示はほとんど出ない。バントで進塁を狙おうとしても、そもそもランナーがいないのだから送りようもない。という事情があるにせよ、バットを長く握って、ストライクゾーンに来た球を強振する。その繰り返しなのだ。つまり、空振りの積み重ね。強振しすぎてバッターボックスに倒れる選手もいたほどだ。バットがボールにあたらないから完封されてしまう。だがそんなことはおかまいなく、力強くバットを振る。その姿が爽やかだったのだ。
高校生の野球スタイルがどうあるべきか…?古くから語られている命題でもある。かつて松井秀喜の星稜高校時代に取られた「5打席連続敬遠策」が話題をさらった。貪欲に勝利を狙う明徳義塾の監督は、一度も松井秀喜と勝負させなかった。これが松井秀喜の名を世に知らしめたことは事実だが、高校生野球の本質とはなんだ?社会的問題にまで発展したのだ。
たとえ送りバントや敬遠が勝つために必要な策だったとしても、青春サカリの高校生に相応しいとはなんとなく思えないというわけだ。勝利に固執するのか、のびのびプレーさせるのかの議論は終わりがない。
超進学校の開成高校野球部監督の特異な理論が、エコノミストに掲載されていたから抜粋しよう。1学年400人のうち200人が東大に合格するというエリート校の野球理論には、おもわず手を打ちたくなった。
「1番の足の速い選手に出塁させてから送りバントで2塁に進め、打力のある3番打者に打たせる。確実に1点を取るという攻め方はセオリーですが、うちには通用しません。なぜなら、苦労して1点をとっても相手に10点取られてしまうからです」
ではどうする?
「10点取られる前提で、一気に15点取れる打順を組みます。1番に強い打球を打てる選手、2番にはもっとも打てる強打者を置く、3番以降はそこそこ打てる選手を配置します」
守備は?
「中学生でも追いつける内野ゴロを捕って1塁に送球してアウトにすれば十分です。横っ飛びになって補球する必要はありません」
投手は?
「投げ方が安定しているのがピッチャー、そこそこ安定しているのが内野手、それ以外が外野手です。打ち取ろうなんて思うな!キャッチボールのようにど真ん中に投げろと」
練習は?
「過激なほど徹底してバッティング練習をします。思いっきりバットを振るのです。ピッチャーが投げてからキャッチャーが捕球するまでの間のどこかに、必ずバットがボールに当たるタイミングがある。一種のギャンブルですが、その一瞬にかけて思いっきりバットを振るのです」
進学校の開成高校は2005年夏、このスタイルで東東京大会でベスト16まで勝ち進んだ。どこか、爽やか野球と勝利のバランス点がそこにあるような気がする。
プロのレーシングドライバーを目指す後輩達に、ドライビングアドバイスを求められることがある。そんな時、僕は、こう言うことにしている。
「ラップタイムが乱れてもかまわないから、誰よりもブレーキングを遅らせることを心掛けなさい。誰よりも、だ」
コーナーへのツッコミが優っていれば、抜けるし抜かれないからである。ただそれだけ。
車を道具にする競技である以上、物理的な限界がある。ブレーキングミスをすればタイヤの消耗が進むし、かえってラップタイムが安定しなくなる。だけど、そんなことはプロになってから学べばいい。ブレーキングに自信をもったドライバーは強い。そもそも、ブレーキでライバルを抜くのは実に気持ちいいのだ。
こうも付け加えている。
「小さいドライビングをするな。クレバーな運転は、そのうち自然に身につくから」
地方球場で涙を流す爽やか高校球児と、若いレーシングドライバーが必死になってコーナーと格闘する姿が重なった。
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