木下隆之連載コラム クルマ・スキ・トモニ 118LAP

2014.04.08 コラム

レクサスCT、CM好感度トップ!

  •  これがCM好感度ナンバー1に輝いた作品。30秒パターンと15秒パターンがある。30秒の中に、十数個のトリックが隠されている。間違い探しのごとく、何度も何度も繰り返して観たくなる。
    これがCM好感度ナンバー1に輝いた作品。30秒パターンと15秒パターンがある。30秒の中に、十数個のトリックが隠されている。間違い探しのごとく、何度も何度も繰り返して観たくなる。
  • トリック、ネタバラし動画。「えっ、これもトリックだったの?」全問正解?
    トリック、ネタバラし動画。「えっ、これもトリックだったの?」全問正解?

白戸家、宇宙人ジョーンズ、並みいる競合と組して大善戦!

 有名タレントのキャラクターと知名度にすがることなく、ハッとするようなコピーワークもない。それでも、新型レクサスCTが、CM好感度調査で自動車業界のトップに輝いたらしい。
 菅野美穂と石倉三郎が軽ーい掛け合いをするダイハツ・タントや、瑛太が理想的な父親像を演じるトヨタ・ヴォクシーを抑えての、堂々たる好感度第1位だというのだ。
 それだけではない。白戸家シリーズのソフトバンクや宇宙人ジョーンズシリーズのサントリーBOSSといった、好感度常連組すべての作品に混じって、堂々の総合11位らしいのだから、この作品のドライビング・ディレクションを担当した身として大きな喜びなのだ。

 まずは作品を観てくださいな。
 いきなり種明かしをするのも野暮だが、もうすでにネタバラしされているとの前提だからお許し願いたい。トリックアートがちりばめられている石畳の街をコンパクトなCTが軽快に駆け回る。ロケ地はポルトガル。狭い街並の至る所に、トリックが仕掛けてある。信号だったりバイクだったりするトリックを踏みつけたりかすめながら駆け回るのだ。「あっ、ぶつかるぅ~」と身構えた直後、それはトリックアートだったことがわかる。最後はレクサスらしく華麗なスピンターンを決める。おっと手だれの仕業かな…と身構えていると、華奢な女性が運転席から降りてくるという仕掛けだ。
 トリックは、路面であったり建物であったりに貼付けている。ある一点のカメラアングルでは自然に見えるような角度で描かれている。主観が、つまりカメラアングルが移動するとそもそも一枚の平面的な写真なわけだから立体性を失って歪んでしまう。その絵を、CTが踏みつけたりかすめたりしていくというわけだ。
 音楽もいい。意表をつくオペラ調。最後は豪快に笑い飛ばすのだから印象的だ。

  • この角度だと、ほとんど歪みはない(リアタイヤがちょっと歪んでいるかな?) 。だが、ひとたびカメラが移動すると路面に描かれていることがわかる。建物に凹凸があるので、なんだか透けて見えてしまうのは誤算?でも本番には解消された。
    この角度だと、ほとんど歪みはない(リアタイヤがちょっと歪んでいるかな?) 。だが、ひとたびカメラが移動すると路面に描かれていることがわかる。建物に凹凸があるので、なんだか透けて見えてしまうのは誤算?でも本番には解消された。
  • 屋外だというのに、ほとんどスタジオのごとき機材で撮影をする。ボディのちょっとした陰影もライティング次第。発色もライティング次第。照明専門家が挑む。
    屋外だというのに、ほとんどスタジオのごとき機材で撮影をする。ボディのちょっとした陰影もライティング次第。発色もライティング次第。照明専門家が挑む。

タレントの知名度にあやかったりはしない。それでもトップ!

 そもそもCM好感度を稼ぐならば、有名タレントを起用するのが手っ取り早いとされている。それは多分に、タレント起用で安易に利益を生む広告代理店や芸能プロダクションの都合のいいデータのような気がするものの、実際にはそう言われている。であるから、北野たけしや明石家さんまなどの超有名人の起用は王道だし、イチローやダルビッシュといった旬のスポーツ選手も重宝だ。堺雅人や佐藤浩市などの話題の役者も引っ張りだこだ。
 だというのにCTは、有名タレントを起用するわけでもなく、キャッチコピーもない。ただひたすら商品(クルマ)が走っているだけなのだ。しかも、ソフトバンクやauに比較すれば圧倒的にすくない出稿量である。それでも好感度トップに輝いたことがスゴいのだと自画自賛したいのだ。

  • 街中を閉鎖して撮影は行われた。「AMAZING」の信号機も設置してしまうのだから大胆である。ロケ後もそのままにしておきたかった(笑)。
    街中を閉鎖して撮影は行われた。「AMAZING」の信号機も設置してしまうのだから大胆である。ロケ後もそのままにしておきたかった(笑)。
  • 通常のカメラカーは、巨大なバンやトラックが多い。だけど、ポルトガルの狭い街並を駆け回るには、ミニのようなコンパクトなクルマのほうが重宝する。CTに必死に食らいつこうとするミニも可愛かった。
    通常のカメラカーは、巨大なバンやトラックが多い。だけど、ポルトガルの狭い街並を駆け回るには、ミニのようなコンパクトなクルマのほうが重宝する。CTに必死に食らいつこうとするミニも可愛かった。
  • 路地裏でCTに追いすがるためにはミニも全開だ。CTのナンバーの意味は?(笑)。
    路地裏でCTに追いすがるためにはミニも全開だ。CTのナンバーの意味は?(笑)。
  • ボディには夥しい数のカメラが取付けられる。吸盤で固定し、アームを組み合わせ、そろそろと手押しして撮影した。モデルの表情を捉えるシーン。
    ボディには夥しい数のカメラが取付けられる。吸盤で固定し、アームを組み合わせ、そろそろと手押しして撮影した。モデルの表情を捉えるシーン。

積み重ねた苦労の分だけ作品が仕上がっていく

 メイキングを見ると、その凝り具合がわかる。1回や2回見ただけでは、トリックアートのすべてを言い当てることはできまい。まるで忍者カラクリ屋敷のようにそこかしこにトリックが仕掛けてあるからだ。建物脇の電灯やポストなどにもヒントがある。メイキングでトリック説明をしているから確認してほしい。
 背景のショーウインドーの中に、小さく青く光るスウォームが仕込んである。レクサスの企業広告のスウォームをさりげなくちりばめるというこだわりが全体的に中身の濃い作品になっている所以だろう。
 もちろん苦労もある。路面のような平面に描くのはそれほど困難ではなかった。だが、凹凸のある建物に絵を描いた場合、凹凸が陰影を造ってしまうことで、存在が透けて見えてしまうのである。カメラが動いてからネタがバレるはずなのに、はなからネタバレしてしまうのだ。それでは驚きもなにもないわけだ。

 ISからGSと引き継がれ、ニューチャプター3作目のCTで早くも好感度トップ立ったレクサスCMシリーズは、これからも積極的にアピールしていくのだろう。
 ちなみに、この3作品に共通したキーワードがある。なんでしょう。見つけた時に必ずやAMAZINGな思いに浸ることになるだろうね(笑) 。

  • 監督。シナリオを手にした時に、とても興奮したという。ノリノリで作品に挑んでくれた。
    監督。シナリオを手にした時に、とても興奮したという。ノリノリで作品に挑んでくれた。
  • モデルにステアリングの手の添え方や切り方など、懇切丁寧に指導した。ほんのちょっとしか映らないけれど、そこへのこだわりが作品に影響する。
    モデルにステアリングの手の添え方や切り方など、懇切丁寧に指導した。ほんのちょっとしか映らないけれど、そこへのこだわりが作品に影響する。
  • 数台のCTの脇をぬって走るシーンはこうして撮影された。リハーサル中である。赤と白のCTは本物。それ以外のトリックCTはまだ描かれていない。
    数台のCTの脇をぬって走るシーンはこうして撮影された。リハーサル中である。赤と白のCTは本物。それ以外のトリックCTはまだ描かれていない。
  • 最後に鳩が飛び立つシーンには、手だれの鳩使いが招集された。走り込んでくるCTのタイミングにあわせて拍子木を鳴らす。すると、エサをついばんでいた鳩がいっせいに飛び立つ。理想的な飛び立ち方になるように、何度も何度もくり返される。
    最後に鳩が飛び立つシーンには、手だれの鳩使いが招集された。走り込んでくるCTのタイミングにあわせて拍子木を鳴らす。すると、エサをついばんでいた鳩がいっせいに飛び立つ。理想的な飛び立ち方になるように、何度も何度もくり返される。

キノシタの近況

キノシタの近況写真1

今回のネタにあわせてトリックアート初級編にトライしてみました。旅行鞄を手にしている?してない?幼稚すぎて恥ずかしい。ちなみに、手前のグリーンの折り畳みチェアは、ホームセンターで2900円のもの。ロケでは必ず持参するいわばディレクターチェアなのだ。けして高価ではないしこれといった特徴もない。わざわざ持参するほどの代物でもない。だが、座り心地がいいのだ。待ち時間の長いロケでは、体を休めるチェアは必需品だ。

木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー

木下 隆之 / レーシングドライバー

1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」

>> 木下隆之オフィシャルサイト