ドライビングプレジャーがギュウギュウに…
近未来シティコミューターではあるが…
環境負荷を軽減するためのシティコミューターかと思っていたら、実は、スポーツドライビングの要素がギュウギュウに詰まっていたことをあらためて知ったような気がした。
トヨタが盛んに普及を目指している「i-ROAD」は、たんなる都会型モビリティの近未来像を提案しているだけでなく、運転する歓びを味わうためにあるように思うのだ。
簡単にコンセプトやスペックを紹介しよう。
全長は2,345mm。長さはバイクのそれに等しく、全幅は870mmとクルマの半分から4分の1といったサイズだ。だが、駐車スペースはバイク感覚だし、混雑する都市の道でもスイスイと走行が可能だ。
それでいてバイクではない。ルーフがあるから雨露がしのげるし、ヘルメットを着用する必要もない。荷物だって積める。法規の関係で、日本仕様はシングルシーターだが、ヨーロッパでは2名乗車も可能なのだ。
リチウムイオンのバッテリーを搭載する電気モビリティだ。モーターは2個。1回の充電で約50kmの走行が可能だ。環境負荷は、驚くほど低いのである。
でも実は、スポーツドライビングの神髄をついている
もっとも、僕らのような走り好きからすると、i-ROADの魅力はその走り味にある。なによりも座ってハンドルを操作するってあたりが自動車感覚なのに、コーナリングは左右にバンクする。操舵輪はフロントの2輪ではなく、後輪なのだ。フォークリフトのように、リアが舵となって進路を定めてくれる。これがキモ。
スキー経験のある人なら実感できると思うけれど、まるでスラロームをしているかのごとき、体重移動しながら旋回していく感覚なのだ。ドリフトのイメージにも近い。
それでいて、体重移動の必要もなく、ドリフトしているわけでもない。ハンドルを切るだけで、回転スラロームの選手になったように錯覚するし、D1チャンピオンにもなれるのである。スポーツドライビングの感覚があるといったのはそれゆえなのだ。
絶対にコケないスキーヤー…
念のために確認しておくけれど、見たところトレッドが狭いから、立ち止まっているとその場でコテッと倒れそうな気がするけれど、高性能なジャイロがバランスをとってくれている。フラフラする気配もなく、ビタッと直立してくれているから安心だ。
コーナリング中には、左右の前輪が独立して上下するから、たしかに大きく傾くけれど、傾きすぎて横転することは絶対にない。これ以上傾けたら危ないよってところでちゃんと制御が働く。実際に僕は、これでもかっと横転させようとしたけれど、無駄な抵抗だったよ。
コーナリング中に急ブレーキを踏んでみたけれど、速度がゼロになりそうになっても、何事もなかったかのようにすくっと直立してしまった。バイクはコケることがあるけれど、i-ROADはそんな危険すらないのである。
TOYOTA GAZOO Racingで競技会を開催してくださいね
トヨタはi-ROADを普及させるために、フランスや日本の都市で、実験的な普及活動を展開している。一般の人に触れてもらって、街中に欠かせない乗り物に育てようとしているのだ。
これはこれで大歓迎だけど、僕はこう思う。環境型モビリティとしての扱いではなく、スポーツドライビング的な乗り物として普及させたいと思った。
試乗会場にパイロンが並べられていたこともあって、ついついジムカーナ的に挑んでしまい、最終的にはタイム合戦になってしまった。それが何よりの証拠だ。
スキーがそうであるように、体重のかけ方やハンドルを切り込むタイミングや、あるいはライン取りを整えると、さらにこいつが奥深いスポーツカーであることがわかるのだ。
まっ、普及が進めば僕のような変態的なスポーツ野郎が現れてきて、競技が始まるのだろうけれど、そんなのを待っていられない気がしたんだ。それほどi-ROADの走りは楽しかったのである。
自宅のガレージにi-ROADが1台あって、「今日は天気がいいからツーリングに行こうかなぁ」とか、チューニングしたりしてサンデーモータースポーツに没頭するなんてシーンを思い浮かべてしまった(笑)。
木下 隆之 ⁄ レーシングドライバー
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1983年レース活動開始。全日本ツーリングカー選手権(スカイラインGT-Rほか)、全日本F3選手権、スーパーGT(GT500スープラほか)で優勝多数。スーパー耐久では最多勝記録更新中。海外レースにも参戦経験が豊富で、スパフランコルシャン、シャモニー、1992年から参戦を開始したニュルブルクリンク24時間レースでは、日本人として最多出場、最高位(総合5位)を記録。 一方で、数々の雑誌に寄稿。連載コラムなど多数。ヒューマニズム溢れる独特の文体が好評だ。代表作に、短編小説「ジェイズな奴ら」、ビジネス書「豊田章男の人間力」。テレビや講演会出演も積極的に活動中。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本ボート・オブ・ザ・イヤー選考委員。「第一回ジュノンボーイグランプリ(ウソ)」