ST-4クラスは大混戦 どのチームにもタイトルの可能性が
第5戦はTOYOTA Team TOM’S SPIRITにとって非常に重要な一戦となる。2015年は、昨年よりも参戦台数が増えた86/BRZ勢の中でトップクラスの競争力を維持することはもちろん、ST-4クラスチャンピオンが目標だ。現在4戦が終了し、TOYOTA Team TOM’S SPIRITのシリーズポイントは、ランキングトップの52号車(埼玉トヨペット)と12.5ポイント差の2位(55.5ポイント)。また、3位の13号車(エンドレス)との差は2.5ポイントと僅差である。ライバルの順位にもよるが、シリーズタイトルに繋げるためには86号車の目標は「最低でも優勝」である。しかし、今シーズンのST-4クラスは、まだ2勝目を上げたチームがないほど熾烈な戦いが繰り広げられており、そう簡単には勝たせてくれない。それは今季の優勝がないTOYOTA Team TOM’S SPIRITが最もよく知っている。
セットアップも良好 86勢トップで決勝に挑む
岡山国際サーキットは直線よりもコーナーで勝負できるテクニカルなレイアウトのため、“マシンの素性”がタイムに表れる。マシンはフレッシュエンジン投入や、重箱の隅を突く細かな改良や信頼性の向上が行われた。
金曜日の練習走行は天候が時々刻々と変わる中で実施されたが、86号車はドライではクラストップ、ウエットでもクラス2位のタイムを記録。今シーズンはドライバーがセッティングに悩む表情が多かったが、今回は表情も明るい。
ドライ路面となった土曜日の予選は、Aドライバーの蒲生尚弥選手はタイムが伸び悩んだが、Bドライバーの井口卓人選手が86勢トップタイムを記録。合算タイムによりクラス4位を獲得した。井口選手は「リアタイヤのグリップ不足が若干気になりましたが、セットアップも非常にいい状態です。S2000の速さは理解していますが、今回は絶対に落とせないレースなので“チーム力”で優勝を目指します」と語ってくれた。しかし、トップ3はホンダS2000が独占、背後にはランキングトップの52号車(埼玉トヨペット)も控えているので、油断はできない状況であるのは変わりない。
ただ、チームの雰囲気はいつも通りで、エンジニア/メカニックは与えられた業務をいつも通り行っている。「やるべきことをキッチリやれば結果はついてくる」、慌てても何も始まらない。
相性の良いコースで起きた 予想しないアクシデント
日曜日は朝から激しい雨が降り、サポートレースではクラッシュやコースアウトが続出。コースコンディションは悪いが、実は2年前に86号車がここ岡山で優勝した時もウエットコンディション。ウエットではS2000とのエンジンパワー差が相殺され、コーナリングスピードの優れる86が有利となる。実は「岡山」、「雨」と言うキーワードは86号車にとって相性がいい。
スタート時には雨は止んだが、ウエットコンディションでスタート。スタートドライバーの井口選手はオープニングラップで3位、そして4ラップ目 で2位に浮上しトップの95号車(スプーンS2000)を僅差で追いかける。レース序盤でランキングトップの52号車がマシントラブルで戦線離脱。また、13号車も下位に沈むなど、86勢は86号車が孤軍奮闘で快走を続けた。
スタートから約1時間半後にピットイン、ドライバーは蒲生選手に交代。燃料補給と合わせてタイヤはレイン→スリックに交換。メカニックの正確かつ素早い作業で同時にピットインした95号車よりも素早くピットアウトすることに成功。その後、49ラップ目でクラストップに浮上し、蒲生選手は1分50秒を切る速いペースで2位以下を引き離しにかかる。その後も、安定したレースペースで独走態勢を続ける。しかし、ピット内は至って冷静で、スタッフやメカニックは静かにモニターを見つめる。
スタートから2時間10分、蒲生選手から「コースアウトしてリア周りを損傷」という連絡にピットはざわめく。バンパーが脱落しかけていたので86号車に「オレンジディスク(そのまま走行することが危険と判断されたマシンに出される警告フラッグ。ピットでの修復が義務付けられている)」が提示され緊急ピットイン。損傷部分の修復とタイヤ交換、そして松井孝允選手に交代してピットアウトするもクラス16位に転落。その後、松井選手は懸命に走行を続けたが、タイムロスを挽回することができなかった。
タイトル争いのための大事な戦いで、今回も勝てるレースだったが、結果はノーポイント。レース後に蒲生選手は、「練習走行からマシンの状態もよかったので、今回は優勝しか考えていませんでした。しかし、自分のスティントで上位クラス2台に同時パッシングされる際に行き場を失ってコースアウト、芝生が濡れていたので止まり切れずに接触してしまいました。悔しさでいっぱいですが、気持ちを切り替えて最終戦に臨みます。鈴鹿は去年も速かったし、86にとって相性のいいコースなので、最後まで諦めません」と語ってくれた。
86号車には鈴鹿サーキットでの最終戦を優勝すれば、ライバルの順位次第ではクラスチャンピオンの可能性はまだ残されている。首の皮一枚で繋がれた僅かなチャンスだが、チームはいつも以上に“心をひとつ”に戦う。