速いクルマでなければ意味がない
● その後、2003年にパナソニック・トヨタ・レーシングに加入するまで、あなたはジョーダンとルノーでも成功を収めています。そのように成功を継続する秘訣は何なのでしょう?
「私の仕事の基礎となっていること、そして成功のための本当の秘訣は、ティレル時代に学んだものだ。ティレルでは予算が限られていたため、その使い道に関しては優先順位をひじょうに注意深く考える必要があった。ハーベイ・ポストレスウェイトはよくこう言っていた――“どんな頭の悪い人間でもレーシングカーのデザインならできる。だが肝心なのは速いクルマをデザインすることだ”、とね。この言葉は現在に至るまで私を導く原理原則になっている。ハーベイは、クルマを速くする要素を最優先にするスキルに長けていた。ティレルで私が学んだ教訓は、それ以降、トヨタを含めてどのチームにいってもやはり同じように活かすことができた。予算がどれだけ巨額だろうと、あるいは逆に少額だろうと、そのリソースを適切な分野に投資する、という考え方がこの哲学の基礎になっている。そしてテクニカルディレクターとして肝心なのは、これを実行できる能力なんだ。シャシーのパフォーマンスの鍵は空力にあるわけで、トヨタで私が懸命に取り組んでいるのもこの分野だ。実証的な裏付けのある方法論を風洞に持ち込み、そして重要な分野を最優先して進める、ということを実行しているわけだ」
● シャシーとエンジンと空力という要素を1台のクルマにまとめあげる作業は、とても複雑な仕事のように思えます。トップクラスのF1カーを作り出す鍵は何だと思いますか?
「さまざまな異なる要素のバランスをうまく取ることは可能だと思っている。つまり、事実としてレースで優勝を重ね、タイトル争いの先頭に立っているクルマがあるわけで、当然そのチームはそういったバランスを適切に保つやり方を知っているわけだからね。だからこそ彼らがその位置いるわけだ。まず何と言ってもエンジンの高いパフォーマンスが絶対に必要だし、そしてシャシー内部でのエンジンとの整合性が重要になる。エンジン部門とシャシー部門がひとつ屋根の下、お互いと近い距離で仕事を進めているトヨタは、この点でもメリットを享受しているわけだ」
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レースでチームを指揮するのもガスコインの役目のひとつだ。左はチーム・マネージャーのリチャード・クレーガン。 |
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すべては究極の目標のために
● F1界でキャリアを築いてきたあなたにとって、お手本となった人といったら誰になるでしょうか?
「エンジニアリングという点でいえば、私の先達となってくれた人はふたりいる。ひとりはハーベイ・ポストレスウェイトだ。バルセロナで心臓麻痺のため突然亡くなってしまった彼の存在は、F1界とそのエンジニアリング分野にとって大きな損失だ。もうひとりは、最初に私をマクラーレンに採用してくれたボブ・ベルだ。現在彼がルノーで成功しているのを見るのは私としてもうれしいが、とはいえ、願わくは彼らの成功にトヨタのわれわれがストップをかけられたらいいと思っているよ!」
● あなたを成功に駆り立てているものは何でしょう? そして“勝利”と“成功”の意味をどう考えていますか?
「私を突き動かしているもの――それは単純に、競争が存在しているスポーツに自分がかかわっている、という事実だ。われわれは1人残らず自分たちのクルマが最高であってほしいと思っているし、そして(他チームの)最高のクルマをうち破ってほしいと願っている。自分のクルマが集団の先頭を走っているときというのは素晴らしい気持ちになれる。そして何よりもF1はチーム・スポーツであり、そして自分がそのチームの一員であるということがとにかく特別なことなんだ。現在、トヨタのわれわれは、“成功”がすなわち世界タイトルを勝ち取ること、という段階にまで辿り着いている。マレーシアやバーレーン、あるいはスペインでのように表彰台を獲得することも成功のひとつの形だし、初優勝したらそれも一種の成功と言えるだろう。だが、こうした成果というのも基本的にはタイトルを勝ち取るという究極の目標に向けた足がかりでしかないんだ」
● パナソニック・トヨタ・レーシングが初優勝を手にするには、これからどんなことをしていかなければならないでしょうか?
「今シーズンはチーム全体がひじょうにうまく機能しているし、ここまでの結果に満足することもできるだろう。だが、われわれは依然としてもっとクルマを速くしていく必要がある。すなわち、あらゆる分野で継続的に改善を続けていく、というわれわれの基本理念を貫き、よりよいエンジン、よりよい空力パッケージ、さらなるダウンフォース、さらにすくないドラッグを実現し、また、こういった要素を改善していきながら、さらにタイヤをうまく使えるようになることが必要だろう」
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