● ルカ、あなたは1999年9月にパナソニック・トヨタ・レーシングに加入したわけですが、それ以前はどういったキャリアを歩んでいたのでしょうか?
「まず大学時代に遡って話すと、私はイタリアのピサでメカニカル・エンジニアリングを学んでいた。そしてこの学科で博士号も取得している。博士号を学んでいた当時は(研究のため)しばらくアメリカに滞在していたこともある。博士号を取得した後、私はフェラーリのレース部門に採用された。そして1989年から1999年まで延べ10年間をそこで過ごした。ただしずっとエンジンにかかわっていたわけではない。実は最初に採用されたときはシャシー部門だったんだ。アメリカ時代の経験から、私には素材構成に関する知識があったからね。ところが計算部門で仕事をしていた私は、他の技術部門がやっていることに大きな関心を抱くようになった。そして一歩一歩、すこしずつ私はエンジン開発の仕事へと移行していった。1995年からは、最後のフェラーリV12エンジンのプロジェクト・リーダーになった。このエンジンは実際に1995年のレースを走っている。1996年は、047と048というコードネームのエンジンを担当するプロジェクト・リーダーとして開発にあたった。このエンジンもフェラーリがレースで使用した。フェラーリで最後に担当したのは049V10だったが、その後トヨタに移籍したため、このエンジンのレースにおけるその後の面倒は見れなかったけどね」
● 元々モータースポーツには関心があったのですか?
「モータースポーツにはずっと関心を持っていたし、いつも私は“将来はモータースポーツの現場か研究開発の仕事をする”と言っていたものさ。フェラーリで仕事をするチャンスをつかんだ私は、そのとき“これに挑戦するしかない”と思ったよ。イタリア人である私にとってそれはいわば夢のようなことだったし、それにもしもそのタイミングで思い切って挑戦していなかったら、残りの人生でずっと“あのとき、こうしていれば……”と思い続けていたに違いないからね」
● もしもフェラーリに加入していなかったら、何をしていたと思いますか?
「仮定の話になるが、おそらく私は大学に残って研究を続けていたと思う。すでにマサチューセッツ工科大学の研究員としての籍を確保していたからね。つまり、フェラーリで仕事をするチャンスをつかんだとき、私の人生はすでに予定が決まっていたわけだ」
● 当時からF1は好きだったのですか?
「F1はいつもテレビで見ていたよ。ただし、技術的な視点からの関心のほうが強かった。私は特別にフェラーリが大好き、というわけではなかったが、ジル・ヴィルヌーヴのファンだった時期はある。技術的な観点から言えば、マウロ・フォルギエリ(フェラーリでテクニカルディレクターを務めていた人物)が私のヒーローだね。若いエンジニア全員にとって、“将来ああなりたい”という存在が彼だったんだ」
信頼性の秘密は製造過程と品質にある
● トヨタのエンジンは以前から評価が高かったわけですが、実際に結果が伴うようになったのは最近のことです。2002年に初めて実際のレースを走ってからここまでの進歩について、あなた自身はどう評価していますか?
「ここまでの成果に関してはうれしく思っているよ。大枠の話をすれば、たとえレースの結果が伴っていなかったときでも、われわれは常にいい仕事をしてきた。レース結果につながっていないときというのは、仕事の質の高さは見えにくいものだが、私の目から見れば常にその成果は手にできていたからね。昨シーズンまでの状況というのは、いわば必要なギアは全部そろっているのに、正しい順序に並べていないような感じだった。同じようなことは以前のチームでも起こったことがある。それぞれのパーツのパッケージは問題ないのに、1台のクルマとして仕上がってみると予想通りのパフォーマンスを発揮してくれないんだ。2004年はいい結果を想像していたが実際のパフォーマンスが伴わず、期待はずれのシーズンだった。今シーズンの成果というのは長くて困難だった歩みからもたらされたものだ。とはいえ、ここまでのそれぞれのステップで成し遂げてきたことに対しても、われわれはハッピーに思うべきだと私は考えている。ここまでの道程というのは、絶え間のない改善のプロセスだったし、昨年の場合でさえ、われわれは潜在能力を見せることができたわけだからね」
● トヨタ・エンジンは比類がないほど素晴らしい信頼性を誇っています。これほどまでの高いレベルでエンジンを制作し、維持していくための秘密は何なのでしょう?
「高い信頼性というのは、仕事の最初の一歩から実行している綿密なプロセスの成果としてもたらされるものであって、単なるエンジンだけの問題ではない。設計から製造に至るまで、品質の管理と組み立ての質、そういったさまざまな要素のうちどれかひとつでも基準を満たさない部分があれば、信頼性を確保することは絶対に不可能になってしまう。現在では設計段階のミスが理由でエンジンの信頼性が確保できない、ということはほとんどない。何かトラブルが起こったときにその原因を調べてみると、典型的なのは製造過程での問題か、品質の不揃いといったことに突き当たる。こういったことを改善するには時間を掛けてその方法を学んでいく必要がある。ある意味では、デザインそのものも製造過程において繰り返し同じ品質のパーツが作れるように配慮したものでなければならない。今シーズンのわれわれが手にしている信頼性は、過去4~5年に渡ってひとつのユニットとして結束して開発に取り組んできたチーム全員の努力から生まれたものなんだ。今シーズンはジョーダンに供給している分を含めると、(このインタビューの時点で)11レースを走って44基のエンジンを使用したが、レースの週末にトラブルが起こったのはそのうちの2回だけだ。どちらもジョーダンのエンジンに起こったトラブルだったが、いずれも程度は軽く些細なことだった。また、達成できていることのひとつとして、フリー走行ではどちらのチームも相当な距離を走ることができている、というのもわれわれが誇りに思っている点だ。これでクルマのセットアップが大いに助けられているわけだからね。レースの週末を通じていつも最も長い距離を走っているチームのひとつがわれわれトヨタだ。私としては、この事実も素晴らしい成功のひとつだと考えている」
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