V8エンジンは刺激的な挑戦だ
● エンジンの設計と製造に関して、さまざまな異なる要素があるわけですが、これらすべてを最終的にひとつのエンジンに完璧にまとめあげるために、どんなやり方をしているのでしょう?
「全体的なパフォーマンスというのは、さまざまな構成部品の総体として決まる。単に馬力だけが問題になるわけではない。たとえばエンジンの重量や重心の位置などもしっかり考えておかなければならないわけだ。この2つはとても重要な構成要素だが、ほかにもシャシーとどのように一体化させるかという要素もある。したがって、すべての作業をひとつ屋根の下で行っているということが、トヨタのわれわれにとって大きなアドバンテージになっている。たとえば、エギゾースト周りの仕様というのは、現在ではエンジンとの関連よりも空力との関連で決定されるようになった。さらに、2005年用のエンジンの設計では、一番大きな変更はエンジンの固定位置の変更だったんだ。こういった諸問題を克服していく際には、ひとつ屋根の下で仕事を進めていることが大きな助けになってくれる」
● 2006年の2.4リッターV8エンジンについてですが、技術的なハードルはどんな部分なのでしょうか?
「われわれは今回の技術的な難題をとてもポジティブな方向で考えている。今度のV8エンジンは、完全に新しいエンジンになる。内部のパーツが現在のV10のものと似ている部分は数多くあるものの、まったく新しいエンジン・ユニットだ。FIAから課された技術的な制約はかなり厳しくもあるが、それでもこのプロジェクトは技術的な面でとても刺激的な仕事だ。現在われわれはV10と同じかそれ以上の回転数を達成できるよう試験を続けている。エンジンの振動がこれまでよりもかなり激しくなるだけに、エンジン周辺パーツに関しても、これは難しい挑戦になる。現在、開発段階としては予定よりもかなり先行している状態だ。いくつか信頼性の面で難しい部分もあるが、7月のヘレス・テストでは貴重な実車走行を行うことができたし、開発は順調に進んでいると言える」
エンジンとドライバーの重要な関係
● “エンジンのドライバビリティ”というのが、実際の所どういう意味なのかを説明してください。
「F1の場合、トラクション・コントロールを使えば論理的にはドライバーはフルスロットルでコーナーに進入していくことができる。あとの問題は電子機器がなんとかしてくれる、というわけだ。だが実際にはこうはならない。というのも、もしエンジンがドライブしにくいものであれば――ここで私が言いたいのはエンジンのトルクの変動が激しければ、とういことだが――電子機器で制御しなければならない作業の負荷が大きく高まり、その結果、ドライブトレイン(動力を伝達する経路。主にエンジンとトランスミッションを指す)に大きな振動が生じてしまうからだ。エンジンのドライバビリティに関して言えば、まさにこの要素が重要な意味を持つことになるし、したがって、われわれの開発の基本的な目標のひとつがこの部分の改善でもあるわけだ。オリビエ・パニスはトヨタに加入した当初からわれわれに対し、“トラクション・コントロールがなくても容易にドライブできるエンジンを用意してくれ”と依頼してきた。これはどういう意味かというと、エンジンをうまくコントロールするためにドライバーがエネルギーを浪費してしまうのではなく、自らのパフォーマンスに集中できるような、スムーズなエンジンを開発してほしい、ということだ。そういったエンジンなら、1ラップ中に無駄にする時間を大幅に少なくすることができるからね」
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初表彰台を獲得したレースでは「ドキドキして見ていられなかった」と打ち明けるマルモリーニ。左は高橋敬三。 |
● エンジンの開発に、ドライバーはどのようにかかわっているのでしょう?
「ドライバーからのフィードバックは非常に重要だ。ヤルノ、ラルフ、オリビエ、リカルド、というわれわれの4人は、いずれもエンジン開発能力に長けているドライバーだ。さっきの質問でオリビエの例を挙げたのは、彼がわれわれとすでに3年間も仕事を一緒に続けているということと、先日は新型V8エンジンの実走テストを担当してもらったほか、これからの開発を先導してもらう予定だからだ。レースの準備段階では、ドライバーから今度のサーキットのどのコーナーがエンジンにとって重要なのかを事前に教えてもらっている。そうすれば、レースの週末にドライバーをエンジンのマッピングの面からサポートするため、事前にダイナモ・テストができるからね」
挑戦を繰り返す刺激的な日々
● エンジン部門の責任者であるあなたにとって、レースで勝つということはどういった意味を持つのでしょう?
「初優勝を果たしたら、その日は私と私の開発チームにとって間違いなく大変なお祝いの日になるはずだ。今年のマレーシアで初めての表彰台を獲得したときは、素晴らしい一日になった。ファクトリーのスタッフたちも歓びをあらわにしていたし、そうした素晴らしい結果が、今までたまっていた嫌な雰囲気をすべて取り除いてくれた。お陰でチームのやる気も大いに高まったしね。だから優勝したらどんな効果が現れるのか、私は待ちきれない気持ちでいる。マレーシアGPはエンジンにとって2レース目だったため、私は不安のあまりレースをほとんど見ていられなかった。結果的に表彰台を獲得できたのは素晴らしかったが、私はかろうじて最終ラップだけを片目だけで見ていたんだ!」
● 最後に、F1で仕事をしたいと考えている若いエンジニアたちにアドバイスをお願いします。
「モータースポーツに関連した仕事が好きでたまらない、という人に向けて私の言葉として伝えておきたいのは“この仕事は閉じた環境ではなく、大きな可能性を秘めている”、ということだ。残念ながら大学を卒業したばかりの若者にとって、こうしたスキルを身につける仕事環境はどこにもないわけだが、それでも、エンジニア関連のちゃんとした学位を持ち、ねばり強さとレースに関する経験を持っていれば、いつかチャンスは巡ってくるだろう。私自身、この仕事がなくなったとしても、レースのファンであることに変わりはない。だからトヨタでこうした仕事ができるのは素晴らしいことと言える――私にとってこれは趣味のようなものだからね。毎日、新しいことができるし、引き受けるべき新しい挑戦が待っている。そして私はこの雰囲気を楽しんでいるんだ。この仕事を続けていける限り、私はずっとハッピーでいられるろう」 |