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Rd.1 Grand Prix of Australia
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新居章年リポート
2007年3月20日(火)

いつも応援ありがとうございます。パナソニック・トヨタ・レーシング技術コーディネーション担当ディレクター(DTC)の新居章年です。いよいよ2007年が開幕しました。今年も1年間よろしくお願いします。それではさっそく、メルボルンで行われたオーストラリアGPの報告をいたしましょう。

●最後のウインターテストでようやく方向性をつかむことができ、開幕が楽しみ
2002年にF1に参戦して以来、今年で6年目のシーズンを迎えるわけですが、今シーズンこそ、表彰台の真ん中に立ちたいと思い、TF107を1月12日に発表。さらに開幕までの2カ月間、テストを重ね、開発に取り組んできました。
テストの滑り出しはトップタイムをマークするなど悪くなかったんですが、ウインターテストが進むにつれて、天候に恵まれなかったり、クルマに信頼性の問題の出たりして、なかなか思い通りにプログラムを進めることができませんでした。そのため、今年からブリヂストンのワンメイクになった新しいタイプのタイヤに、クルマのセットアップを合わせる作業が間に合わず、開幕へ向けての仕上がりがライバル勢に対して遅れ気味になってしまいました。
開幕直前にスペインのヘレスで行ったプライベートテストでは、2日間トラブルもなく作業ができ、なんとかセットアップの方向性はつかむことができました。ただ、ヘレスとオーストラリアGPの舞台であるアルバートパーク・サーキットはキャラクターが異なりますので、開幕戦でTF107がどんな走りをしてくれるのか、私も気になると言いますか、楽しみにしていました。

●もう少し金曜日に走り込みたかったが、セットアップの方向性は確認

開幕最初の走行でいきなりレイン。これには出鼻をくじかれた形となったが、その後のセッションではレースに向けてセットを確認することができた。

待ちに待った開幕戦でしたが、2年ぶりに開幕の舞台となったメルボルンは、予報通り朝から雨が降り、グランプリ初日となった金曜日最初のフリー走行はウエットコンディションでのスタートとなりました。今年は金曜日のフリー走行が1セッション60分間から90分間に伸びましたが、レースでは基本的に2種類のタイヤを使用しなければならなくなったので、金曜日のフリー走行で今回メルボルンに持ち込んできたブリヂストンのミディアムタイヤとソフトタイヤを履いて、それぞれの特徴をしっかり把握し、クルマをセットアップしていかなければなりません。しかし、路面が濡れていたので、午前中はウエットタイヤを履いて、インスタレーションラップ(確認走行)を行う程度にとどめました。
幸い午後のフリー走行2回目はドライコンディションで走行ができたので、2種類のタイヤを履いてセッションをスタートしました。途中他車がコースアウトして赤旗が出たために、走行が中断されて思い通りのプログラムを消化することはできなかったのが残念。しかしながら、タイヤの傾向はつかむことができました。順位はヤルノ(トゥルーリ)が12番手、ラルフ(シューマッハー)も16番手と下の方にいますが、金曜日のフリー走行はタイムよりも、しっかりとタイヤのデータを取ることが大切ですから、そんなに気にしませんでした。

●2台そろって予選トップ10入りを果たし、最低限の目標はクリア
土曜日も午前中のフリー走行前に再び雨が降ってきて、嫌な予感がしていたのですが、幸い雨はすぐに上がり、2人のドライバーともに予選に向けてのセットアップ作業を順調に進めることができました。今年の予選は昨年までと基本的に同じ「ノックアウト方式」が採用されていますが、特性の違う2種類のタイヤを使用できるという点が変わりました。フリー走行の結果から、それぞれのタイヤにパフォーマンスの違いがあることを把握していたので、午後の公式予選ではそれほど迷わず、2種類のタイヤをうまく使いこなせたと思っています。

ヤルノは再び新しいヘルメットデザインを採用した。TF107のできには問題ないとしながらも、レースでは苦しい展開でポイント獲得まであと一歩。

今年最初の予選で、最低限の目標だった「2台そろってトップ10入り」が果たすことができて、正直ホッとしています。ただし、予選でご覧いただいたように、2台ともにつまらないトラブルがあり、一歩間違えば最終ピリオドまで残ることができなかったかもしれませんでしたので、その点は今後われわれが勝てるチームになるために、大いに改善していかなければなりません。リアジャッキが外れないままコースインし、リアウイングにダメージを負ったヤルノは、日曜日のレース前までにFIAに申告して新しいものに交換することになりました。
また、同じく第2ピリオドでスローダウンしてしまったラルフは、ギアボックスの制御系にトラブルが出ましたが、ピットイン時にプログラムをリセットして問題は解決したので、決勝に向けては心配はしていませんでした。

●2台完走して1ポイント獲得。しかし、レースペースには不満

ラルフもクルマの仕上がりに不満はなかったと言っている。しかし、ニューマチック(エンジンのバルブ駆動用の空気圧)のシステムがレース終盤にトラブルにあうなど苦しみながらの8位でのフィニッシュだった。

スタート前のフォーメーションラップに出て行くとき、ヤルノのクルマから派手に白煙が上がりましたが、あれは余分なオイルが燃焼室に入って燃えてしまっただけで、テレメトリーのデータを見ても何も問題がなかったので、心配はしませんでした。ただ、スタートは予選8位のヤルノのグリッドが走行ラインではない内側だったことが影響してか、やや出遅れてしまいました。しかし、その後ポジションを取り返し、ラルフとともに2台でポイント争いをしつつ、最終的にラルフが1ポイントを獲得できたことは良かったと思います。
今年はレギュレーションで、レース中に2種類のタイヤを最低1回ずつ履かなければなりませんので、われわれはまず安定したラップタイムを刻めるミディアムを選択して、2台をスタートさせました。その後、1回目のピットストップでも再びミディアムを装着して、路面にラバーグリップが乗ったレース終盤にソフトを履く作戦でした。

レース序盤と終盤に揃って周回を重ねるトヨタの2台。予選トップ10入り、決勝2台完走ポイント獲得と“最低限の目標”はクリア。これで満足することなくトヨタF1はさらに上を目指してシーズンを戦っていく。

それ自体はうまくいったのですが、ミディアム、ソフトともにレース中のペースが上がりませんでした。予選では2台そろってトップ10に入るスピードを見せたのに、レースではファステストラップでトップ10に入ることができなかったことに関しては、満足していません。ウインターテストではロングランを中心にプログラムを消化していたため、一発の速さにまだ課題が残っているものの、レースペースではもう少し上位との差を縮められると思っていただけに、残念です。これはクルマのポテンシャルが低いのではなく、われわれがまだクルマのポテンシャルを100%引き出しきれていないだけだと思っています。
とはいえ、今年最初のレースを2台そろって完走できたことは大きな収穫。すぐにファクトリーに戻ってデータを分析し、開発とテストを進めていきます。今後もパナソニック・トヨタ・レーシングへご声援をよろしくお願いします。


開幕戦オーストラリアGPに挑む新居章年。今年最初のレースを2台そろって完走で終え、次戦マレーシアではさらに上位を狙う。