ベルギーGP
テクニカル・プレビュー
パスカル・バセロン Q+A
●スパはとても人気のあるコースですが、ここに向かう前に考慮しておくべきことはありますか?
「レースへの準備として、スパに行く前は常に雨になったときの戦略に時間を割くことになる。また、ウェットからドライに、逆にドライからウェットに変わる状況のことも考えておかなければならない。統計データを見ると、特にシーズンのこの時期は雨の確率がかなり高いことがわかるし、また、ヨーロッパ北部のこの数カ月間の天気を見てもそれは言えるだろう。ただしこれは特にスパだけに限った話ではない。たとえばニュルブルクリンクやシルバーストーンへ向かうときも、同じような点を考慮してレース戦略を立てている」
●スパのコースのどこがそれほど特別なのでしょう?
「スパは平均速度が速く、それと同時に高速コーナーをはじめコーナーもたくさんある。スパが特別なのはそういった理由からだ。毎年、ドライバーからは“スパは世界最高のサーキットのひとつだ”という声が聞こえてくるが、われわれとしてはなぜこのサーキットがそれほどドライバーに人気があるのか、客観的な尺度を探してみるべきかもしれないね。彼らがスパのどこが好きなのかというと、おそらく標高が大きく変化すること、そして非常に挑戦しがいのある高速コーナーの組み合わせがあることだろう。コースのレイアウトはあの場所の地形に従って作られており、それゆえ人工的なものではなくとても自然なんだ」
●名物コーナーのオールージュは壮観な眺めですが、実際のところ、あそこを走るのはどのくらい難しいのでしょうか? クルマの底が擦れたりするのでしょうか?
「あそこを走る際にクルマがボトミングしないようにするのは難しいことではないが、ただし車高については、オールージュのせいでセットアップが必然的に決まってくる。もしあのコースにオールージュがなければ、もっと車高を下げられるだろう。クルマの設計の点から見ても、スパは求められる条件が厳しいコースだ。シーズン中に最大の負荷がかかるコーナーのひとつが、オールージュあるいはブランシモンだからね。実際のところ、スパに関しては考慮すべき要素がかなり多い。たとえばF1カーを設計する場合、サスペンションやシャシーなどにかかる最大負荷を検討するため、その指針となるデータがいくつか必要になる。このことをわれわれは“ロードケース”(負荷の状況)と呼んでいる。そしてその数値にしたがってクルマを設計し、確実にその負荷に耐えられるようにしておくわけだ。スパではこのロードケースがかなり厳しいものになる。オールージュが難しいのは、コーナーの途中でタイヤに更に垂直方向の負荷がかかり、そのせいで横方向へのグリップが更に生じることになるからだ。そしてこのとき垂直方向と横方向の両方が組み合わさった負荷が発生する。そしてこの際にサスペンションには最大限の負荷がのしかかることになる。すくなくともカーブを除外した安定した状態下では最大の負荷だ」
●今年はコースの一部が変更されていますが、これの影響はどのくらいあるのでしょう?
「サーキットの施設は以前よりも便利になった。上海やバーレーンほど豪華ではないが、必要な設備は揃っている。必要以上に贅沢になっている部分はないが、レースのためになければならないものは完備されている。私としては、スパには上海のような設備は必要ないと思っている。というのも、スパはとにかく独特のコースだからね。スパにはレースをする場所としては唯一無二の環境がある。あそこにはモータースポーツの文化が深く溶け込んでいるし、サーキットそのものが周辺地域の経済的、そして社会的生活の中心となり、そしてファンの熱意を感じ取ることもできる。あそこは本当に特別な場所で、とにかく素晴らしい。オールージュの谷底に立って、レディヨンへと続く丘を見上げてみればいい。とにかく壮観だからね。テレビ画面からは細かいニュアンスはわからないかもしれないが、観客としてあそこに行ってみればとにかく“すごい”と感じるはずだ」
●先ほどさまざまな気象条件を想定して準備を進めるという話をしましたが、実際にはどんなことをするのですか?
「ほとんどの場合はドライ用のセットアップをするが、ただし常にそうとは限らない。2005年の場合、レースでは95パーセントの確率で雨になる、という予報だった。そのためわれわれは通常よりダウンフォースを増したウェット用のセットアップを進めた。レースではそれが功を奏して、非常に戦闘力が高かった。ただし雨になるという前提でセットアップを進めるのはスパだからこそできることで、他の場所では必ずしもそうはいかない」
●スパではTF107のどこかが改良されているのでしょうか?
「トルコで使用したパッケージを基本に、いくつかのパーツをアップグレードしている。ただしダウンフォースのレベルは下がるし、それほど大きな変更はない。次の(新しい)空力パッケージは富士スピードウェイで投入する予定だ。うれしいことに、今年スパで一度テストした際には、ドライバーの手応えもよく、競争力もあった。チームの全員がレースを楽しみにしているよ」